The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

Aug 26 - Aug 28, 2015Toki Messe (Niigata Convention Center)
The Japanese Association of Educational Psychology
The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

Aug 26 - Aug 28, 2015Toki Messe (Niigata Convention Center)

[JA05]協調問題解決能力評価は教育改善に繋がるか全国学力・学習状況調査問題の共同問題解決を通して

遠山紗矢香1, 白水始2, 山田雅之#3, 岸磨貴子#4, 益川弘如5, 河崎美保6, 遠藤育男#7, 丸井純#8, 一柳智紀9, 平野智紀#10(1.静岡大学, 2.国立教育政策研究所, 3.日本教育大学院大学, 4.明治大学, 5.静岡大学, 6.追手門学院大学, 7.伊東市立対島中学校, 8.伊東市立東小学校, 9.新潟大学, 10.内田洋行教育総合研究所)
企画趣旨
協調問題解決能力をいかに評価するかが議論を呼んでいる。本シンポでは,協調問題解決能力はいかなる手法で評価できるのか,その評価は教育の質向上につながるのかについて,全国学力・学習状況調査問題の二人問題解決という枠組みと対話等のデータ分析とを通して検討する。
近年提案されている評価法の一つが,PISA2015のCollaborative Problem Solving (CPS)である。調査は短時間で効率的に協調問題解決能力を評価するために,情報の共有や分析が必須な課題に,調査対象の生徒がPC上のエージェントと協力して課題を解決する。これにより確かに調整能力やモニタリング能力は測定できるが,我々が子どもたちに身につけて欲しいと願う協調問題解決能力は,それで十分にカバーされるのだろうか。
そもそも協調問題解決とは,誰も答えを知らない/答えに確信を持てない問題に参加者がそれぞれの考えを出し,考えの違いについて話し合いながらより良い考えを見いだす過程である(Miyake, 1986)。それが本来の姿であるとすれば,児童生徒にも一人では解くのが少し難しいが,二人で解けば解けそうな問題を解いてもらい,その過程で子供たちが実際に「考えを出し」「違いを話し合い」「より良い考えを見いだす」かを対話から分析すればよいのではないか。そう考えて登壇者らのグループでは,全国学力・学習状況調査の算数・数学・国語のB問題を小中学生に一人で解いてもらった後二人で解く調査を行ってきた(Shirouzu et al., 2015)。PISAのCPSが誰でも取り組めるように領域知識を問わない問題にしたのに対し,領域知識を求める問題を解くのに二人の知識を総動員して解く過程を分析するのが狙いである。
本シンポでは,⑴一人から二人への正答率の向上を超えて,協調問題解決の程度を対話過程から直接的・統一的に分析する指標の同定を遠山らが行い,⑵知識構成型ジグソー法など協調学習で育ってきた児童の協調問題解決を⑴の指標で益川らが検討し,⑶短時間で断片的に採取された協調問題解決過程の情報が長期間・継続的な教育の質向上にどう役立つかを白水のリードでフロアと議論する。最後に対話のパタンを分析することの意義を一柳が,こうした調査方法や分析をスケールアップする可能性について平野が論ずる。

協調問題解決能力を対話から評価する指標
遠山紗矢香・山田雅之・岸磨貴子
本報告では,対話データを対象にペアごとの多様性を乗り越えて共通に「協調問題解決能力」なるものを評価できる指標があるかを検討する。
ここでは先述の枠組みで収集した小学校算数のデータを分析する。五つの公立小学校の延べ約150名の小学6年生が次の3種類の問題のどれかに取り組んだ。問題は(a)情報過多な地図の中から適切な情報を選び出して平行四辺形の面積を求める(H19),(b)男女の人数が異なるクラスで一輪車に乗れる人の割合が多いのは男女どちらかを算出する(H24),(c)親指と人差し指を直角に広げた「あた」の長さを基準として使いやすい箸の長さを求める(H26)ものであり,いずれも全国平均正答率が低かった。手順として,児童にまず8-10分で問題を解かせ,答案回収後,ランダムなペアでソロ時と同時間解かせた。一部児童にはペア解答後に一人でもう一度解き方を説明させた。
その結果,どの問題も一人よりも二人の場合に正答率が高まった。その点で「協調問題解決能力がある」と結論できそうに思われた一方で,児童の理解度は正答率のみでは評価し難いことも,対話データや一人に戻っての説明データから見えた。
そこで本報告では,ソロ・ペア解決時の解答用紙とペア解決時のビデオ記録を組み合わせて,一人解答では誤答だった児童が二人で話し合うことで正答に辿り着いた場合にどのような対話があったのか,二人解答後に一人でも正答できる児童はどのような対話をしていたかなど,児童の結果をパタン分けし,特定の結果を出した対話の特徴を後戻りで探る「遡及的プロセス分析法」を行った。
分析の方針は,建設的相互作用理論(Miyake, 1986; Shirouzu et al., 2002)による。理論は児童同士が異なる考え方を表明した場合に建設的な議論が生じ一人より質の高い考えを得る可能性が高まると予測する。その状態に持って行くためには,不明点の素直な表明や相手が十分に納得していないことへの気付き,相手の言うことが似ていても自分の考えと「違う」ものとして見直すことが必要だろう。本報告ではこれらの「探索的なやり取り」が児童の協調問題解決能力の表れの1つであるとの仮説を立て,対話データを一律の指標でまとめて評価する手法を提案する。

授業改善に繋がる協調問題解決の比較分析
益川弘如・河崎美保・遠藤育男・丸井 純
協調問題解決能力を育成する授業の姿を検討するために,いかなる評価方法があるのか。今回のデータを用いて可能な比較分析を実施し,授業の質向上につながるヒントになる可能性と限界について検討する。比較可能な要素,比較分析の目的,データ分析の方向性をまとめたのが表1である。


今回調査対象となった学校の一つが伊東市立東小学校である。伝統的にグループ活動を核にした授業づくりに取り組んでおり,校内研修では授業中の子供たちの発話記録を基にした話し合いが行われていた。子供全員の学びを引き出すため2011年度までは「人間関係の配慮」「事前の話型指導」「司会役を設けることによる会話の活性化」などを実施してきたが,班によって活動の質が異なることが悩みだった。各班の発話分析比較の研修から,「考えたことを紹介する班」ではなく多様な考えを持ち寄り「悩みながら対話する班」の方が深い理解を構成していたことが確認され,多様な考えを比較吟味したくなる課題と教材が重要だという結論に至った。そこで2012年度より,知識構成型ジグソー法を核として,「悩み対話させることで解の確認ではなく,理由を考える」グループ活動がメインとなるための研修を進めた。2014年度の研究主題は「協調問題解決による思考力・判断力・表現力の育成~ジグソー学習法の効果的な導入によって~」だった。
それゆえ,同校で今回の調査対象となった6年生は4年生から指導が変わり,自分たちの「話しながら考える」力を生かした授業法に触れてきたことになる。調査は,この協調学習経験の効果を測るものとして位置付けられる。
さらに同校では対象児の3年次からの4年間計5授業(算数3授業,国語2授業)のグループ活動中の発話データが残っている。そこで協調問題解決テストの個人間分析から特徴的なペアを抜き出し,数人を対象に過去4年間の発話データを追って縦断的に変容を分析することも可能になる。
また,個人間分析で得られた各ペアの活動の特徴が各校の研修方針(授業デザイン)と関連があるのかについて,複数校の研修方針を整理し傾向を探索的に分析する。
現段階の分析から,対話を通して解を作り出す経験を繰り返し積んできた子供たちの多くが,協調問題解決テストにおいても,具体的に相手に解き方を確認しながら検討していく姿が見えてきている。しかし,誤答同士のペアで誤答のまま納得して終わる場合もある。それらのペアの過去の学習活動といかなる共通点・相違点が見つかるのか,さらに解決に至ったペアとの過去の学習活動の比較からヒントが得られるかを分析する。これらの分析を通して,遠山らの横断的評価と益川らの縦断的評価が,各ペアの発話分析から明らかになった特徴を整理する指標となり,次の授業の質向上に向けた示唆を与えるものに繋がるのか報告する。

協調問題解決「能力」の評価という誘惑と戦略
白水 始
ある現象を名付けることは,その名付けられた構成概念を精緻化しようとする一連の研究やそれを育成しようとする教育を生む(Gelman, 2004)。単に二人以上で問題を解く事態を指すはずの「協調問題解決」に「能力」という言葉が付与されることで,あたかも個人にそうした力が内在し,それを育成できるという幻想が生まれる。実際遠山らが示す共通指標は,個々人の協調的なスキルや信念が問題解決に影響する可能性を示唆する。報告者も,各個人に状況を超えて再現される一定の振る舞いの型があることは否定しない。それが建設的相互作用を自ら引き起こすスキルや信念だとしたら,理想的な教育成果の一つだと思う。しかし,そうしたスキルや信念の研究・教育に労力を割く前に,やるべきことがあるのではないか。
今回の調査で気付いたのは,子供たちの理解がこれほどまでにfragileなものなのかということである。面積や割合の公式の何を何で割るか掛けるかに混乱し,自分たちが当然知っているはずのことを持ち出せず,二人で解くうちに漸く体験や知識,身体から分かることを頼りに頭が働き出す。
もしそうだとすれば,協調的な問題解決能力の育成と,長さや広さや割合など本質的な知識の概念理解のどちらに研究・教育労力を割くべきか?私は後者だと思う。身体と言葉,経験則と概念をみなが必死で結び付ける過程に,当然協調は必要になる。誰も完全な理解をしていない学習対象だから,優劣関係など気にせず,知っていることを全部持ち出すしかない。その経験の繰り返しは,新規で挑戦的な問題の解決場面にも生きるだろう。
PISAのCPSは余裕が持てる問題解決だからこそ,他者との行動を調整する「能力」が問えた。けれど我々が求めたいのは,各学習者が能力を最大限発揮しても手に余る問題の解決ではないか。教育の質向上の全体像を描いた上で,協調問題解決能力評価を位置付ける戦略が必要である。