The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

Aug 26 - Aug 28, 2015Toki Messe (Niigata Convention Center)
The Japanese Association of Educational Psychology
The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

Aug 26 - Aug 28, 2015Toki Messe (Niigata Convention Center)

[JD05]日本の青年期発達をいかに理解すべきか欧米の知見はどこまで適用可能なのか

溝上慎一1, 都筑学2, 杉村和美3, 畑野快4, 中間玲子5, 氏家達夫6(1.京都大学, 2.中央大学, 3.広島大学, 4.大阪府立大学, 5.兵庫教育大学, 6.名古屋大学)
【企画主旨】
近年,国際的に日本の青年期発達の特徴を説明するように求められる機会が増えている。そのなかで,とくにアイデンティティ形成・発達に関しては,海外と比較するかたちで日本の青年の特徴を十分に説明することができないことを痛感している(Sugimura & Mizokami, 2012)。周知の通り,アイデンティティは青年期発達を説明する代表的な概念であり,日本でも1970年代以降は青年心理学の教科書の定番概念であり,実証的研究もかなりの数でなされてきた。しかし,それらは日本のなかでは一定程度の理解に達する成果であったとは言え,たとえば,国際的な場で日本人にそもそもアイデンティティ形成などあるのかと問われてそれに答えようとすると,それに答え得る成果が日本のなかには十分にないことを知らされる。この問題は日本独自に開発した尺度を使用していては解決し得ない問題である。
このような問題をもとに,私たちはこの2年間,国際的に説明可能なアイデンティティ形成・発達,ひいては親からの自立課題やアイデンティティに関わる理想自己や文化的自己観等の問題を絡めて,日本独自の青年期発達の道筋を総合的に明らかにする共同プロジェクトを進めてきた。そのポイントを挙げれば,海外の代表的尺度の翻訳版(なければ翻訳して信頼性・妥当性を検討して使用可能なものにする)をできるだけ使用すること,小学4年生頃の青年期へと移行する手前から20代後半までの成人期前期へと移行するまでの発達期を調査対象とすること,年齢コホートをいくつか設定して縦断研究とすること,にある。
本シンポジウムでは,日本の青年期を国際的に理解するために推進してきたプロジェクトの成果の一部を,とくに青年期の自立課題における親からの分離の側面について(杉村和美),青年期アイデンティティ発達の変化について(畑野快),青年期の理想自己の特徴について(中間玲子)報告をおこなう。指定討論者には,発達の縦断的研究で実績のある氏家達夫氏を迎え,コメントをいただき,今後の研究の修正・発展への示唆を得るものとしたい。

【話題提供1】
「日本の青年における親からの分離」
杉村和美
親からの心理的分離(separation)は,青年期の個体化(individuation)プロセスの始まりと位置づけられてきた(Beyers et al., 2003; Blos, 1967)。また,親とのつながり(connectedness)や自律性(autonomy)の感覚を伴う分離は,青年の適応や人格的成熟を促すことが示されてきた(Grotevant & Cooper, 1986; Steinberg & Silverberg, 1986)。個体化プロセスにおけるつながり,分離,自律性のダイナミクスの具体的様相には未解明の点もあるが(Koepke & Denissen, 2012; Meeus et al., 2005),欧米では分離の重要性については概ね見解が一致している。日本では,青年期の個体化は主として自立の概念を用いて研究されてきた。そこでは親からの分離よりも,自律性の獲得や他者(親や友人など)との関係の確立に重点が置かれている(高坂・戸田, 2006)。こうした日本独自の捉え方は,親子関係におけるつながりと分離のダイナミクスが欧米とは異なること(Rothbaum et al., 2000)を踏まえれば妥当である。しかし,このことが日本の青年の分離,ひいては個体化のあり方をより広い視野から理解することを難しくしているともいえる。欧米と同じ枠組みで行われた数少ない研究からは,分離が必ずしも日本の青年の人格的成熟を促進しない可能性も示唆されており(平石, 2000),日本の青年における親からの分離の意味と役割を明らかにすることは重要な課題である。
この話題提供では,以上の問題意識に基づいて行われた我々の一連の研究を紹介し,分離に関する欧米の知見を日本の青年に応用できるかを検討する。まず,欧米で広く受け入れられている分離の概念(Beyers et al., 2005; Steinberg & Silberberg, 1986)を用いた研究から,この分離が日本の青年の適応や人格的成熟とどのように関連しているのかを理解する。次に,欧米で概念化された分離と,日本で概念化された分離(小高, 2008;水本・山根, 2011)が,親子関係のどのような側面を反映しているのかを検討した研究を紹介する。これによってそれぞれの分離の意味を明らかにする。さらに,これら2つの分離が,青年の自律性,アイデンティティ,適応とどのように関連しているのかを検討した研究を紹介する。そこから日本の青年の個体化におけるそれぞれの分離の位置づけや役割について考えたい。

【話題提供2】
「日本の青年におけるアイデンティティ発達の様相―3次元モデルに基づく縦断的検討―」
畑野 快
欧米におけるアイデンティティの実証的研究は,Marciaの理論を中心に進められてきた。Marcia(1966)はアイデンティティ発達における重要な要素として探求とコミットメントに着目し,それらを組み合わせることでアイデンティティ・ステイタスを提唱,さらにはその発達的変化を拡散→早期完了→モラトリアム→達成と仮定した。そして,Meeus,CrocettiはMarciaの理論を拡張し,一度コミットメントを行った青年はさらに自分自身を深めるための探求を行ったり(深い探求),また,コミットメントの渦中にあっても新たな可能性を求める(コミットメントの再考)というアイデンティティ形成の3次元モデルを提唱した(Crocetti et al., 2008)。Crocettiらはそれらを測定する尺度を開発し,クラスター分析によって3次元を組み合わせることで,Marciaと同じ特徴をもつ4つのアイデンティティ・ステイタスを抽出した。さらにMeeus et al.(2010, 2012)は,12歳の青年に9年間の縦断調査を実施し,⑴アイデンティティ・ステイタスは漸進的な方向に一つ変化する,あるいは変化しない,⑵大半の青年が早期完了のステイタスに分類されるという結果を示している。Meeusらの研究は,青年期にアイデンティティは変化しないというラディカルな可能性を示唆するものであり,成人形成期の議論にも通じる重要な知見と言える。
しかしながら,この結果が一般的なアイデンティティ発達の道筋を必ずしも反映しているとは言えない。Crocetti et al.(2012)では,オランダでは大半の青年が早期完了に分類されることに対して,イタリアではモラトリアムに分類された青年が最も多いことを示している。この結果は,アイデンティティ発達の道筋が多様である可能性(Bosma & Kunnen,2001)を示唆するものと言える。以上のことを踏まえ,本報告では,3時点での縦断調査から得られたデータを元に,3次元モデルに基づく日本の青年におけるアイデンティティ発達の変化を明らかにし,欧米で得られた知見との比較を通して日本の青年期におけるアイデンティティ発達の道筋について議論できればと考えている。

【話題提供3】
「日本の青年における理想自己の様相」
中間玲子
青年期になる頃には,現実とは異なる理想自己の表象がある程度安定して抱かれるようになるとされる(Keating, 2004)。理想自己は,それでの生活において内在化された既存の価値が反映された文化伝承的なものであることが知られているが(Zentner & Renaud, 2007),自律性が加速的に高まるとされる青年期の発達過程の中で(Steinberg, 1999),理想自己は,それまでに内在化された価値を基盤としながらも自己決定の過程を経たものとして形成されていくことが知られている(Blos, 1967)。それは,単なる価値表象にとどまらない(Pisarik & Shoffner, 2009)。自己を対象化し自らの目指す方向性を自覚することができる青年は,理想自己に基づいた行動目標を立てたり,環境選択ひいては環境設定を行ったりすることが可能である。理想自己は青年の自己形成過程に,さらには,その者たちが形成する社会における文化の再生産過程にも影響を及ぼすものと考えられる。
では日本の青年はいかなる理想自己を抱き,それに向き合っているのだろうか。理想自己の形成過程に関しては,親の発達期待と子どもの理想との関係などから検討されているが(Moretti & Higgins, 1999),日本における知見はあまり見られない。協調性が重視される日本社会において,青年が自ら選択的に設定する理想自己と,彼らが親からの期待として受け取るものとの間には,どのような相違があるのだろうか。また青年が抱く理想自己には,青年期発達の特徴とされる独立した個としての自己の形成と,文化的価値の継承としての他者との協調的な自己の形成という二つの方向性がどのように現れているだろうか。
本報告では,中学生から大学生を対象とした調査から,青年期の理想自己の内容や認知,親の理想との相違についての分析結果を報告し,日本の青年において指摘される理想自己の特徴について考える。それをもとに,日本の青年期発達を考える上で考慮すべき点は何かを明らかにしたい。