The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall
The Japanese Association of Educational Psychology
The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall

[JA05]子どもの居場所再考なぜ,今,子どもの居場所研究が必要なのか

山下智也1, 枝廣和憲2, 田島真実#3, 日高茂暢4(1.宮崎国際大学, 2.岡山大学, 3.一般社団法人朝日丘コミュニティクラブ, 4.作新学院大学)
企画趣旨
 「子どもの居場所」という言葉は近年,市民権を獲得してきたと言えよう。
 1970年代の非行・不登校問題に端を発し,学校に居場所のない子どもたちへの支援として,フリースクールやフリースペースという形で第三の居場所をつくる実践が展開されてきたが,文部科学省の提唱する「地域教育再生プラン(子どもの居場所づくり新プラン)」に代表されるように,全ての子どもたちを対象とした居場所づくりへと広がりを見せてきた昨今,地域やNPOのみならず行政施策に組み込まれるようになるほど,子どもの居場所実践は多岐に渡り,その認知度も高まりを見せている。
 このように,「子どもの居場所」は飛躍的展開を見せており,これからの可能性を秘めている一方で,その急速さ故か,居場所研究は十分に体系化されておらず,そのしわ寄せが実践現場に来ている現状も見受けられる。子どもに居場所を保障していくために何が重要か,その軸が見出せないことで,実践現場は試行錯誤の連続となっているのである。
 では,なぜ居場所研究は十分に体系化されていないのだろうか。
 かつての,特定の子どもたちの「居場所のなさ」から始まる実践においては,それぞれの子どもが抱える背景に重さはあるものの,その子ども像には重なりもあり,研究者としても,彼らの「居場所のなさ」を生み出す諸要因の分析や居場所の構成要素の解明,さらには居場所の中で問題を乗り越えていくプロセスモデルの確立など,研究者の果たすべき役割が比較的明確であったように思われる。しかしながら,昨今のように全ての子どもたちへの「居場所の必要性」から始まる実践においては,対象となる子ども像も幅広く,そこでの居方も多様であるため,何を問題としているのかということ自体も,それぞれに多様に乱立しているように見受けられるのである。
 このように,ある種の“パラダイム転換”が起こっているにも関わらず,そこへの問い直しが追い付いていないままであるからこそ,居場所研究は体系化を図れないままにあるのではないだろうか。
 よって本自主シンポジウムでは,「魅力的な居場所があればそれでよい」と思考停止してしまうことなく,それぞれの居場所での子どもたちの経験を問い,それらに通底するエッセンスを見出しながら,居場所研究として体系化していく糸口を見出すことを目的とする。研究者視点に寄り添って言い換えれば,居場所研究は何を問題にし,何を明らかにし,どのように打開しようとしているのかを,再考するということでもある。
 今回は,その第一歩として,「学校における居場所」「放課後児童クラブにおける居場所」「発達障害児支援における居場所」の3つをテーマに掲げ,子どもの居場所実践に携わる3名の研究者及び実践者による話題提供を行うこととした。これら3つの話題提供には共通点がある。
 一つ目に,今回取り上げる「居場所」は,居場所のなさを発端とする新たな居場所づくりではなく,元々子どもの“居る場所”であった学校や放課後児童クラブを舞台としているという点である。居場所概念の拡大に伴って,学校や放課後児童クラブにおいても,それぞれの場がもつ居場所的機能・役割を見つめ直す機会となっていること自体も非常に興味深いが,これらの実践に着目することで,拡大化した居場所の特性をより理解することができるのではないかと考える。
 二つ目に,3つの話題提供がともに,何らかのアンチテーゼを匂わせている点である。それは,学校での従来の教育的指導とは違う形での子どもへの関わりについての実践研究,指導的で大人主体の子どもへの接し方からの脱却を示唆した話題提供,そして,苦手克服のみにとどまらない仲間づくりの観点からの支援の可能性の提示などである。「居場所のなさ」とは違った問題の所在を紐解くこともまた,居場所研究の本質を議論する上で,重要な手掛かりになるのではないかと考える。
 我々は,居場所研究の中で,何を問うことができているのか。何に応えることができているのか。さらには,今後の展望としてどのような「子どもの居場所」のデザインを描いていくことができるのか。
 ラディカルな議論を通して,子どもの居場所研究の体系化に向けた地平が開ければ幸いである。
話題提供要旨
話題提供1
「学校における居場所実践研究―SWPBISを通して―」
枝廣和憲(岡山大学)
 文部省が提唱した「こころの居場所」の必要性や文部科学省の「地域教育再生プラン(子どもの居場所づくり新プラン)」の実施など,近年青少年の居場所の必要性が重視されている。青少年の一番身近な場所として「学校」があげられる。
 そこで,本研究において,学校環境を居場所にする実践,学校環境におけるポジティブな行動介入及び行動支援(School-Wide Positive Behavior Intervention and Supports;以下,SWPBISと略記)を行った実践研究を紹介する。SWPBISとは,発達障害児を含むすべての児童生徒の学業や社会的能力,安全の促進に向けて,児童生徒が見通しをもってうまく活動ができ,一貫した結果が得られる学校環境を形成し,それによって問題行動を予防しようとするアプローチである(Horner et al., 2005;平澤・小笠原,2010)。具体的には,例えば,「教室での立ち歩き」という問題行動があった場合に,通常「注意」というネガティブな介入がなされてきたが,これに対し,SWPBISにおいては,先行して,ポジティブな行動規範を示し,その行動がなされたときに,ポジティブな行動介入及び行動支援を行う。アメリカにおいては,すでにSWPBIS の使用により効果を上げている(枝廣・松山,2015b;枝廣・松山,2015c;平澤,2015)こうしたアメリカでの成功例を参考に,日本版SWPBISを実施し,その効果検証を行った。居場所研究における本研究の立ち位置を確認したい。
話題提供2
「放課後児童クラブを居場所として捉える」
田島真実(朝日丘コミュニティクラブ)
 「居場所」や「サードプレイス」と呼ばれる場に関する研究が進むにつれ,近年は様々な場で「居場所」の概念や必要性,関わる者(支援者・運営者・大人)の素質も問われ,理解は深まりつつあるように感じる。しかしながら,一部に理解が深まる一方で,指導的で大人主体の子どもへの接し方を良しとする風潮も根強く残っている。
 今回は,地域の拠点として様々な子ども活動を展開している団体事業の中でも,「放課後児童クラブ」の補助支援員として感じてきたことを中心に,現場のリアルな声の一つとして紹介したい。
 「放課後児童クラブ」は,児童が学校から「ただいま」と言って帰ってくる場である。それゆえに,児童の「その子らしさ」(=居場所における安心感の現れの一つと捉える)が弾けることが多々あり,大人数を預かる場・公共の事業であるため公平性が担保されなければならないという場の特性もあり,「その子らしさ」と「場の特性」がぶつかり合うことで,様々な問題が生じる。
 そこで今回は改めて,「居場所」とは何かを考え,子どもの放課後を「居場所」として捉えることから始める。そして,子どもの放課後における居場所についての今後の展望を考えたい。
話題提供3
「発達障害児支援にみる学校内外の仲間づくり論」
日高茂暢(作新学院大学)
 発達障害の概念が広く認知されるようになり,発達障害のある子どもの支援が求められるようになってきた。学校現場では,自閉スペクトラム症のある子どものへのソーシャルスキルトレーニングや,読み書き計算等の困難をもつ学習障害のある子どもへの学習支援が多く実践されている。
 学校現場で支援を行う意義の1つに,発達障害と二次障害の関係性がある(齋藤,2015)。発達障害のある子どもは,その障害特性と認知的特性から,学校現場で失敗を体験しやすい。失敗経験の繰り返しや大人からの叱責を通して,抑うつや学習性無力感,攻撃性の増加等二次的に問題が生じる子どももいる。従って,学習等の苦手な課題へ支援を行うことで子どもの傷つき体験を減じ,二次障害化を予防しようという考え方である。
 一方で,子ども達は「苦手を克服すれば」万事解決なのか,という疑問も生じる。Erikson (1963)によれば児童期は,発達障害の有無にかかわらず,子どもは他者との比較を通じて自分の内面的認識を深めていく。支援を受け「苦手」を克服しようと努力しても,子ども集団という仲間内で立場を失えば「劣等感」を感じてしまう。従って,二次障害化の予防には,苦手を克服する「弱い箇所への手当て」とともに,子ども自身が他児との比較の中でも苦手を受け入れられる「仲間集団の形成・存在」が大きな役割を果たす可能性がある。
 本話題提供では,発達障害のある子どもの支援の立場から「仲間づくり」の実践を紹介する。仲間づくり支援が,子どもの居場所研究にどのように位置付くのか,議論を深めたい。
指定討論
「各居場所の子どもの経験を問い直し、居場所研究の意義を問う」
山下智也(宮崎国際大学)
 居場所研究の全体像を示しながら,各話題提供の立ち位置を整理するとともに,その居場所があることの功罪の視点をも持ち込むことで,その居場所実践および研究の意義について批判的に討論し,居場所研究の体系化の足掛かりとしたい。

(本自主シンポジウムは,人間・環境学会(MERA)の「中高生年代の地域環境における居場所に関する学際的研究委員会」の助成を受けています)