The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall
The Japanese Association of Educational Psychology
The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall

[JC05]想起の学習促進効果学習機会としてのテストの効用

岩木信喜1, 投石保広#2, 田中紗枝子3, 高橋功4(1.岩手大学, 2.名古屋大学, 3.徳島文理大学, 4.山陽学園大学)
企画趣旨
 APAによる2014年の報告書,“Applying science of learning in education: Infusing psychological science into the curriculum” は,最近の学習科学研究が明らかにしてきた学習原理とその応用的アプローチをまとめている。この報告書は全24章構成であるが,その中の5つの章が“想起”そのものの学習促進効果を解説している。たとえば,“testing, generation, retrieval practice, recitation”が主要な関連キーワードであり,質問に対する正答の想起がその記憶を促進する現象に関わる用語である。初期の代表的研究としてはGates(1917)が有名であり,現在はそれからほぼ100年目に当たる(応用研究にたどり着くまでにこれほど時間を要した事情については,Roediger & Karpicke, 2006, The power of testing memoryを参照されたい)。本シンポジウムの第一の目的は,この“想起による学習促進効果”の基本的事実と理論,及び,現況について周知し,情報交換を通じて理解を深めることである(なお,最近の日経サイエンス(2016年2月号)は“教育改革に挑む米国”という特集を組み,“テストで学ぶ”という関連記事を掲載している)。
 いわゆる“テスト効果”という場合,比較的最近まで “正答の想起がその記憶を定着させる効果”として扱われてきた。しかし,テストにおける誤った情報の想起がそのあとの正答フィードバックの学習を促進する現象が注目されるようになっている。直接的な実験研究の最初期のものはおそらくIzawa(1967, 1970)であり,すでに50年が経過しようとしているが,比較的最近のKornell, Hays, & Bjork(2009)の研究が契機となり現在多くの論文が生産されているホットな状況にある。キーワードとしては,“failed/ unsuccessful test, pretesting, incomplete generation, incorrect guess, retrieval failure, productive failure”といったものがある。このシンポジウムの第二の目的は,この“誤想起による正答フィードバックの学習促進効果”に関する現況について情報交換をおこなうことである。
 最後に,いま述べた誤想起の学習促進効果をサポートする方法について,最近の研究成果を報告する。結論を述べると,自分の回答に自信のない(確信度の低い)誤答試行では,生成された誤反応の視覚的フィードバックが正答フィードバックの学習を促進することがわかってきた。この現象について情報交換することが三つ目の目的である。
学習内容の想起は,その長期記憶を助ける(長く憶えさせる):想起学習に関する現況の解説
投石保広
 想起学習とは,記憶学習において,最初の学習の後,再学習を行うよりも,テストを行ったほうが(つまり,憶えた内容を自身で想起したほうが),長い保持期間後に成績が良い,(よく長期記憶に残る)現象をいう。特筆すべきことに,これは教育への応用が特別のコストなしに可能である。(なお,その名称については,The testing effect, Pre-test effect, Test-enhanced learningなども使われてきた)。
 代表的な実験(Roediger & Karpicke, 2006)を紹介すると,2種類の科学的文章(「太陽」と「カワウソ」それぞれ約260 words)を憶えさせた後(参加者は大学生),自由再生によるテストを行う条件(プレテスト)と,その文章を再学習(復習)させる条件(コントロール)とを設定した。その5分後(直後),2日後,7日後の3群に分けて,両文書について自由再生による記憶テストを行った。その結果,直後テストでは,再学習条件のほうが良かった。しかし,2日後と7日後では反対に,プレテスト条件のほうが再学習条件よりも(両日とも約16%)成績が良かった。このように,長期の記憶(一般的には1日以上)では,プレテストの効果がみられた。この図を見ると,直後テストから2日後のテストに向けて起こる忘却(再学習条件)をプレテストによる想起が強く抑制しているように見える(2日後と7日後の間に両条件による差に変化はない)。
 このようなプレテストによる想起学習の効果は,種々の記憶材料を用いて確認されており,実際の教育場面にもっと近い実験設定でも,医学教育の分野でも確かめられている。
質問に対する誤答の想起は正答フィードバックの学習を促進する:Failed test effectに関する解説
田中紗枝子
 学校でプレテストとして小テストを行った場合,たとえ学習者が誤答を想起しても,テストに能動的に取り組めば,フィードバックされた正答の学習が促進される。Kornell et al.(2009)は連想価の低い単語対を用い,手がかり語(cue)からターゲット語(target)を連想させる(参加者は多くの場合targetとは異なる誤答を連想する)という手続きを用いて,誤答の想起が記憶テスト時の正答(実験者が設定したtarget)の想起に及ぼす影響について検討した。その結果,参加者が誤答の想起を行った単語対は,単語対を読んで憶えただけの場合と比べて,後のテストで正答がより想起されやすいことが明らかとなった。この効果は単語対の学習に限ったものではなく,文章内容を知る前に質問に解答してから文章を読むと,文章を読むだけの条件よりも後の記憶テスト成績がよかった(Richland, Kornell, & Kao, 2009)。
 failed test effectについては,誤答を学習者自身が生成した場合にのみ効果があること,正答のフィードバックを誤答想起後すぐに与えなければならないこと(刺激が散文の場合はフィードバックまで遅延があってもfailed test effectが生じる,e.g. Kornell, 2014),様々な学習の能力との関連が示唆されているワーキングメモリ容量の個人差によらず効果的であることなどが明らかにされている。failed test effectのメカニズムについては現在も議論が行われているが,これについても現況の解説をおこなう。
誤反応フィードバックはFailed test effectをサポートする:研究報告
髙橋 功
 学習者が正しいと高い確信をもって誤答を想起した場合,正答フィードバックによる記憶の定着が促進される(the hypercorrection effect of high confidence errors)。この事実は自らの反応に対する参加者の確信度がfailed test effectに影響することを示している。例えば,Butterfield & Metcalfe (2001) では,大学生に一般教養問題に回答させ,その回答がどの程度正しいと思うか,-3(sure wrong)から3(sure correct)の7段階で評定させ,誤答なら正答フィードバックを2秒間見せた。その結果,誤答した問題において,事後テストの正答率と確信度との間に正の相関が見られた。
 高確信の誤答は,問題への親近性の高さや正答への驚きなどを伴い,その誤答に注意が向けられて正答と比較されやすいが,低確信の誤答には十分な注意が向けられないと考えられる。もしそうであれば,事前学習時,正答フィードバックだけでなく,学習者の誤答もフィードバックとして明確に示し,注意や比較を支援すれば,低確信領域の事後テストにおける正答率を高められるかもしれない。この仮説を検討するために行った一般教養問題を材料にした実験と,漢字読み課題を用いた語彙学習事態の実験に関する成果を報告する。