The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall
The Japanese Association of Educational Psychology
The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall

[JD01]教育心理学における「21世紀型研究スキル」を探る教育実践を創りながら研究を生み出す

藤澤伸介1, 市川伸一2, 篠ヶ谷圭太3, 植阪友理4, 太田絵梨子5(1.跡見学園女子大学, 2.東京大学, 3.日本大学, 4.東京大学大学院, 5.東京大学)
企画趣旨
 いま,教育界では,学習指導要領の改訂とも連動して,「21世紀型スキル(学力)」という用語が広く使われ,子ども達に身につけてほしい資質能力が論じられている。従来求められていた学力が,主として教科内の知識・技能の獲得だったとすれば,それと対比する形で,社会生活にも生きてくるような実践的問題解決力やコミュニケーション力がその中核的な概念である。
 こうした時代に,研究者として求められる資質能力やスキルも大きく変わってくるはずである。学術の世界での先端的動向を見据えて,その分野をリードするような研究を生み出すというのは,確かに重要なスキルであった。ただし,とりわけ,教育心理学でいえば,教育と直接的に関わりつつ,学術的にも,実践的にも新しい研究を生み出していくことが現在の最大の課題の一つといってよいのではないだろうか。
 ここでは,教育心理学の「21世紀型研究スキル」として,教育実践を創りながら研究を生み出していくスキルと定義したい。どのような教育実践をするかはいろいろ考えられる。幼児教育,学校教育,高等教育,社会教育,企業内教育など,社会の至るところに教育の場があり,そこで自ら教育改善に関わる中から,研究を生み出していく。そこにおいてこそ,理論と実践の乖離という積年の問題が解決されるのではないかと考える。
 今回のシンポジウムでは,そうしたアプローチの一例として,我々が「認知カウンセリング」と名づけて実践,開発してきた個別学習相談の実践をもつことで,どのような基礎研究や開発研究が展開されてきたかを,3世代にわたる話題提供者から紹介する。その上で,これからの教育心理学研究の進め方についての議論へと広げていきたい。
話題提供1
認知カウンセリングとそのプロダクト
市川伸一
 心理学と教育実践との関わり方として,Figure 1に3つのモデルを示した。「片道モデル」というのは,相互の知見の利用・活用である。「往復モデル」では,フィードバックによって修正や改善を図っていく。ただし,これらのモデルでは,基本的に教育実践と心理学は分業体制をとることが想定されている。認知カウンセリングは,「連結モデル」に立ち,「研究者も実践する」あるいは「実践者も研究する」ことによって,新たな心理学的研究や教育実践を生み出していこうとする。
 自ら実践をもつ機会がほとんどなく,実験や調査という方法に偏りがちな教授・学習研究者にとって,実施可能な実践活動として,筆者が「認知カウンセリング」を提案したのは,1980年代の後半であった(市川,1989)。やがて,大学に学習相談室を設置して組織的なチームをつくり,ケース検討や基礎研究が展開されるようになった。
 実際に,認知カウンセリングという実践から生まれたものとして,基礎研究においては,学習観の尺度化,学習動機の二要因モデル,教訓帰納に関する実証研究などがある。また,開発研究としては,学力・学習力診断テストのCOMPASS,認知心理学の基礎概念と学習方略を生徒に教示する「学習法講座」,授業設計論としての「教えて考えさせる授業」などがある。こうした例を概観しながら,「現場と関わる」「実践を創る」というアプローチの有効性や成立要件を考えていきたい。
話題提供2
理論と実践を結ぶREALアプローチの提案と展開
植阪友理
 21世紀型研究スキルとして,教育現場のニーズに応じた研究を立ち上げる力や,そのようにして立ち上げた研究から実践上にも意味のある研究知見を引き出し,国内外の学術雑誌論文に載せていく力,現場と協同する力などが求められるだろう。
 しかし,こうしたことを実現するのは容易なことではない。現在の教育心理学には,学習方略や学習観のように,教育現場での診断や支援に直結するような発想が多く提案されている。しかし,先行研究だけから研究を立ち上げても,必ずしも現場のニーズに直結した研究になるわけではない。むしろ,現場に示唆を与えるにとどまり,実際には知見が利用されないことも少なくない。
 また,近年では,学習科学におけるデザイン研究のように,調査や実験といった心理学の手法を使わずに,実践のみで研究を行う流れもある。しかし,教育心理学の基礎的方法論のみを学んできた若手研究者にとっては,現場という様々な要因が複雑にからみあう状況の中だけで,意味のある問題を立ち上げ,研究知見を得て,国内外の学術雑誌論文に載せていくことは,ハードルが高いだろう。
 こうした問題意識を踏まえ,従来の問題点を解消するような研究アプローチとして,植阪(2014)は「REALアプローチ」を提案している。REALアプローチとは,Researching by Extracting, Analyzing and Linking Approachの略称である。このアプローチは,理論と実践を往還する形で3つの段階を踏みながら研究を行う。まず,第1に,研究者自身が実践現場に入り,心理学的理論を使いながら子どもや教師を支援することによって,理論の限界や,従来の心理学的研究の問題点を抽出する(extracting)。この段階には,認知カウンセリングなどが適している。ここで立ち上げた研究テーマは,実践上の問題に即しながらも,心理学の従来の理論の限界を克服するものになると期待できる。第2に,こうして立ち上げた問題を,調査や実験といった心理学の方法論で検証する(analyzing)。最後に,実践現場で研究知見を活用してみる(linking to school practices)。当日は,具体的な研究例を交えてこのアプローチの有効性を示す。
話題提供3
実践から問い,実践に還す宿題指導法研究
太田絵梨子
 宿題は,子どもたちの学力向上を促し得る有用な指導ツールの一つである。我が国でも9割近くの児童・生徒が日常的に学校の宿題に取り組んでいる(ベネッセ教育総合研究所,2016)ことを踏まえると,宿題指導が学習に与える影響や効果について実証的に検討する意義は大きい。
 これまでの宿題研究では,質問紙による大規模調査や実験結果のメタ分析などをもとにその効果について語られることが多かった(e.g., Cooper & Valentine, 2001; Trautwein et al., 2009)。一方で,研究者自らが教育現場の中に入って問題を抽出したり実践的な介入を行ったりする中で得られた知見というのはほとんど見受けられない。
 宿題というテーマ自体が実践と密接に関連しているものである以上,現場に入ることで初めて見えてくる視点や問題点があると考えた筆者は,「REALアプローチ」(植阪,2014)という手法を参考に以下のようなプロセスに沿って研究を行った。
(1) 認知カウンセリングを通じた,宿題への取り組みにおける学習上の問題点の抽出
(2) インタビューを通じた,宿題実践における教師の認識と課題の把握
(3) 実験授業を通じた,宿題指導法の開発と効果検証
(4) 学校現場における実践的介入を通じた,宿題指導法の効果検証
 このような研究プロセスは,単に先行研究を押さえるだけでなく,むしろ実践の中からそれまでの理論に足りていなかった視点を提出し,実証的な検討を経て実践現場での介入へと還元していくという点に特徴がある。シンポジウムでは,上記プロセスを通してどのような(先行研究には無かった)研究上の問いが設定され,それに基づきどのような実証研究や介入が行われたのか,そして実践を生かした研究だからこそ得られた知見とは何だったのか,といった点について具体的なデータを用いながら紹介する。本話題提供を通じて,実践を通して研究を生み出すとはどういうことか,その意義や課題とは何かについて議論を深めるきっかけとしたい。