The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall
The Japanese Association of Educational Psychology
The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall

[JD02]ネット問題研究は現場の問題低減に貢献し得るか実践者の視点で研究を見定める

金綱知征1, 家島明彦2, 戸田有一3, 藤桂4, 竹内和雄5, 寺戸武志#6, 足達昇#7, 山口博#8(1.甲子園大学, 2.大阪大学, 3.大阪教育大学, 4.筑波大学, 5.兵庫県立大学, 6.兵庫県立教育研修所, 7.高知県立高知追手前高等学校, 8.KPMGコンサルティング株式会社)
企画趣旨
 近年,携帯電話やスマートフォンなどの携帯型電子通信機器は急速な発展と普及を遂げ,インターネットの世界はかつてないほど身近なものとなった。そこでは個人の現実社会での属性による制約が少なく,誰もが気軽に情報を共有・交換し,自由なコミュニケーションを享受できるように見える。ところが一方で,情報の適切な利用や内容の真偽等の判断が未熟な子どもたちは,ネットいじめをはじめ,ネットへの依存,ゲーム等への課金,LINEやTwitterなどのソーシャルネットワークサービス(SNS)上での炎上投稿や他者への誹謗中傷,リベンジポルノなどの性犯罪や暴力犯罪への巻き込まれなど,様々なリスクに予備知識も少なく無自覚なまま晒されている。たとえば,ネットいじめの被害認知率は小学校で1.3%,中学校で7.8%,高等学校で18.2%(文部科学省, 2015)と5年前と比べ1~2%上昇しているものの,いじめ全体の認知率からすれば未だ少数であるようにもみえるが,自分専用の携帯端末を所持する児童の低年齢化に加えて,彼らの利用実態の把握や適切な介入の困難さなどから,今後も増加,深刻化する可能性が極めて高いことが指摘されている(日本PTA全国協議会, 2010)。
 このような状況下で,ネット問題について国内外で多様な研究がなされ一定の成果を挙げているが,参加する環境が次々と更新されるネット世界の特性のために,学校等の実践者も,保護者も,常に新たな問題への対応・対策を求められている。日本教育心理学会では,今までも,研究の実践への寄与が問われ続けてきたが,ネット問題に関する今までの研究が現場の問題低減に貢献し得るものなのか,そして今後の研究はどうあるべきなのかも,問われねばならないだろう。本シンポジウムでは,研究者が自らの研究を含めた研究動向を紹介し,それに対して実践側の視点から吟味を行う。フロアとの議論も深め,更新され続ける環境に次々と現れる問題に対処するために有益な研究とはどのような研究なのかを検討する。
話題提供1
いじめ研究の立場からネットいじめとネット問題を考える
-匿名性と自己呈示に注目して-
金綱知征
 今日の学校におけるいじめ問題対応に関わる重要な課題の一つに“従来型いじめ”と“ネットいじめ”の重複性あるいは順次性の解明が挙げられる。もしネットいじめが従来型いじめの延長線上で起こっているのであれば,その対応も従来型いじめに倣ったものとなろうが,研究成果は一貫していない。Olweus(2012)は,ネットいじめの深刻な実態はマスコミ等による根拠なき過大評価に過ぎず,従来型いじめに全く関与せずにネットいじめにのみ関与する加害者・被害者は少ないと主張したが,Smith(2012)は,仮にたった一度の誹謗中傷であっても,その書き込みが繰り返し多くの人の目に晒されることで被害は繰り返されると主張し,単純に被害や加害の報告の多寡のみでその深刻さを評価できないところに従来型いじめとは異なるネットいじめ独自の対応の必要性と難しさがあると反論している。
 竹内・戸田・高橋(2015)はネットいじめの独自性について,①インターネットという「匿名性」の高い環境,②それによる「道徳不活性化」,そして③「学校という枠を超えて短時間でエスカレートする」という3つの特徴から説明している。また金綱・足達・山崎(2014)もインターネットの「匿名性」に注目し,インターネット上での自己の匿名性に関する思い込みは,種々の被害に対するリスク認知,不安感や恐怖心を低め,ネット上の様々なリスク行為への関与に対する予防意識を低下させることを報告している。
 Morio & Buchholz(2009)は,相手を視覚的に確認できない状態という最も低次かつ基本的な「視覚的匿名性(非対面性)」,ネット上とリアル世界でのアイデンティティが切り離されている状態である「アイデンティティの乖離」,そして相手を識別することが不可能な状態という最も高次な「識別性の欠如」の3段階に分けて匿名性を階層的に説明している。
 こうしたネット上の匿名性に関する問題は,ネットいじめを従来型いじめと区別するだけでなく,ネットいじめをより広範なネット問題全体と区別する鍵ともなり得る。かつてのネットいじめ行為は,学校非公式サイトと呼ばれるネット上の掲示板での誹謗中傷等の攻撃が中心であった。これは個人の特定や識別が特に困難である高次の匿名性の中での行為と捉えれば,竹内らが主張する道徳不活性化の影響がその背景に推測されようが,途中で未知の第三者が加わることで「いじめ」の範疇を超える可能性も否定できない。一方,最近のTwitterやLINEなどの利用者が相互に「友達」登録をした上で情報を発信・閲覧するSNSやIMSを中心に行われる誹謗中傷や仲間外しなどは,相互に既知の間柄で行われることが多く,いわば最も低次の視覚的匿名状態での行為と考えらえる。この場合,従来型いじめとの重複性や順次性がより疑われよう。本話題提供では,こうしたインターネット上の匿名性や自己呈示に関わる問題を中心に,従来型いじめとの違いにも注目しながら,ネットいじめ及びネット問題全体との関連について検討したい。
話題提供2
ネットいじめ問題から「匿名性」を捉え直す,そして対処のあり方を問う
―インターネット研究の立場から―
藤 桂
 ネットいじめのみならず,ネット上での見知らぬ他者との出会い,ゲームへの依存・没入など,昨今のネットトラブルは多岐にわたるが,インターネット研究の分野からも様々な検討が蓄積されている。そして,ネット上の問題はその「匿名性」ゆえに複雑化・深刻化し得ることがこれまでの研究から示唆されてきた。
 例えば藤・吉田(2014)では,ネットいじめ被害者を対象とした調査より,ネットいじめの発生に対し,“加害者が特定できないために,誰もが信じられない”“学校から離れても,いじめの被害から逃がれることができない”“不特定多数に,書き込みがどこまでも波及・拡散してしまうのではないか”など深刻な脅威として認知することで,周囲への相談行動が抑制されることを示している。また,匿名性ゆえにもたらされる“抑制的規範意識の欠如”“誹謗中傷に対する当然視”“発言者に対する特定不可能性”に関する認知が,直接的にネットいじめ加害行動を促進する要因となることも明らかとされてきた(藤・吉田,2012)。加えてOnline Datingに関する問題においても,“普段の自分の姿を隠蔽し,自由に演出できる”という意識が,交流相手との対面接触経験と関連することも報告されている(西村・村上・藤,2014)。このように,匿名であることに起因して生じるネット空間に対する認知・意識は多様化し,またそのことが新たな問題を引き起こしている。
 このように,ネット上の匿名性が攻撃的・逸脱的行動を促進するという考え方は,インターネット普及当初からの常識として共有され,過去の心理学研究からも幾度となく実証されてきた(例えば,Kiesler, et al., 1984; Siegel et al., 1986)。しかしこれまでの研究から示されてきたのは,匿名性がもたらすネガティブな側面ばかりではない。匿名であるがゆえに本来の自己を自由に表現し,自分の姿を客観視できたり(Bargh, McKenna, & Fitzsimons, 2002;藤・吉田,2009),それぞれが抱える悩みや問題を共有し,解決・受容への契機となり得たりする(McKenna & Bargh, 1998;末木,2013)ことも示されている。さらに集合的現象を扱った研究でも,個人的規範・関心ばかりが優先されるのではなく,むしろ社会的規範が優先される場合もあること(Spears & Lea, 1992)や,より豊かなアイディア創出の場となること(Gallupe, Bastianutti, & Cooper, 1991)など,古くからすでに,ポジティブな側面を主張する知見も多々明らかにされてきた。また,ネット利用がもたらす様々な悪影響は,ネットもしくは匿名性それ自体に由来するというより,利用者を取り巻く状況要因・環境要因を反映したものであることも示唆されている(藤・吉田, 2009, 2010)。そこで本話題提供では,匿名性がもたらす効果の多面性を踏まえながら,匿名性にまつわる諸問題を捉え直し,ネット利用がもたらす影響に関して新たな視点を提示する。
 さらに本話題提供では,上記の視点に基づき,これからのネットトラブルやインターネットそのものに対し,我々がどのように向き合っていくべきかについても議論していく。特に,ネットいじめ被害者自身が望む対処のあり方や(藤・遠藤,2014),ネットいじめ被害に対して即時的に行われる遮断的対処がむしろネガティブな影響をもたらすこと(藤・遠藤,2016),ネットいじめ被害・加害に対する家庭環境の抑止的効果(内海,2010など),学級内外の集団規範がもたらす影響(大西,2015)などにも言及しながら,予防的・対症的視点の両面から総合的に,今後の対処のあり方を問う予定である。