The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall
The Japanese Association of Educational Psychology
The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall

[JE01]教育の行動遺伝学その形成・発達・進化のプロセス

安藤寿康1, 藤澤啓子2, 川本哲也#3(1.慶應義塾大学, 2.慶應義塾大学, 3.慶應義塾大学・日本学術振興会)
企画趣旨
 教育は遺伝を嫌悪しがちである。教育とは環境によって人を成長させることであり,その「環境」の対立概念が「遺伝」であるから,それは無理もない。能力やパーソナリティが遺伝なら教育は役に立たない,教育に意味をもたせるためには,遺伝であってはならない,ゆえに教育に遺伝は持ち込まないという素朴遺伝観は依然として根強く,そのため教育心理学で遺伝要因を考慮した研究はいまだに少ない。
 しかしながら,遺伝要因の人間形成におよぼす多様な影響の諸相を解明してきた行動遺伝学の視点から教育を見たとき,教育の成果である能力やパーソナリティ,それらを形成させる学習過程や教育という行為それ自体にも,遺伝要因が関与していることを示す頑健な知見が蓄積されている。教育の過程と成果にみられる大きな個人差について科学的に理解するために,行動遺伝学による遺伝要因を統制したパラダイムにおいて環境要因の機能を浮き彫りにする視点は必要不可欠である。
 そのための基本的な方法論が双生児法である。すべての遺伝子の生育環境を共有する一卵性双生児と,生育環境は共有しながら遺伝子を半分しか共有しない二卵性双生児から得られた諸変数の分散と共分散を,構造方程式モデリングを用いて遺伝,共有環境 (きょうだいを類似させる環境),非共有環境 (きょうだいを類似させない環境) の因果モデルにあてはめ,モデルの仮説検証に適用させるのが,今日の標準的な双生児法である。
 わが国では大規模で組織的な双生児研究プロジェクトが実施されてきており,それらはいずれも教育が射程に入れられてきた。それはいわゆる知能やパーソナリティ,精神疾患や発達障害をはじめ,学力や社会達成,運動能力のような形質と,家庭環境,教育環境,社会環境のさまざまな変数が扱われてきている。
 本シンポジウムでは,それらの双生児プロジェクトの成果の中から,就学前の言語能力や思春期のパーソナリティと身体発達,さらに成人期の教育動機などといった,その研究対象においても発達段階においても多岐にわたる行動遺伝学研究の成果を紹介し,教育における遺伝要因と環境要因の相互作用の様相について検討する。
就学前期における学習スキルの個人差
藤澤啓子(慶應義塾大学)
 日本語獲得児は,英語など外国語圏の幼児に比べ,文字の読み習得が早いことが知られている。平均的には,3, 4歳ごろから自分の名前など関心のあるものからひらがなを覚え始め,就学までには大多数の子どもが全てのひらがなを読むことができることが分かっている (島村・三神, 1994)。また,日々の生活や遊びの経験を通じて,数唱や多少の判断を身に着け,加減といった初歩的な算数能力を就学前の時期に習得している子どもの多いことも知られている (丸山・無藤, 1997)。
 しかし,個人差という面からみると,71文字でみた場合,5歳児の7割近くがほぼ全部のひらがなを読める一方,読めるひらがなが10字程度以下しかない5歳児が2割程度いることや (島村・三神, 1994),幼稚園年長児において,計数や加減能力の低い群と高い群が存在する (Jordan et al., 2007) という報告があり,就学の段階ですでに,読みや基礎的な算数能力が二極化されている可能性が示唆されている。
 本研究では,60か月齢の双生児約250組を対象に収集された読み能力及び算数能力の個人差について分析した。潜在クラス分析により,適切なクラス数について検討したところ,読み能力については高群と低群の2クラスに分けられることが示された。一方,算数能力については4クラスに分けられることが示唆されたが,中ほどのクラスに含まれるサンプルサイズが小さいため,算数能力については高群と低群に含まれた双生児データのみを行動遺伝学分析の対象とした。読み能力と算数能力における高群と低群それぞれについて,多母集団同時分析の枠組みを用いた単変量遺伝解析をおこなった結果,どの群においても個人差が遺伝要因と非共有環境要因によって説明されることが示された。さらに,算数能力については高群よりも低群の方が遺伝要因の説明率が高く,読み能力については高群よりも低群の方が非共有環境要因の説明率が高いことが示された。
 これらの結果から,就学前の学習スキルの個人差が,家庭環境などの共有環境というよりは,子ども個人が学び経験する環境(非共有環境)と,遺伝的個人差に由来するものであることが考えられた。子どもそれぞれの能力や生活環境,生活経験に適した就学準備について一考を提案したい。
思春期におけるパーソナリティと体格の発達の関連性
川本哲也(慶應義塾大学・日本学術振興会)
 思春期はパーソナリティのような心理的な側面の変化だけではなく,身体的な変化も数多く訪れる,変化の大きい発達段階である (Coleman, 2010)。これまで積み重ねられてきた数多の研究では,心理的な側面の変化と身体的な側面の変化を同時に扱うことはせず,断片的な発達の様相を記述するにとどまっていた。しかし近年,思春期において子ども達が経験する発達や変化を総合的に捉えることの重要性が指摘されている (笠井, 2015)。思春期における心理的側面の変化と身体的側面の変化の関連性を検討していくことは,重要な意義を持つと考えられる。
 本研究では,東京大学教育学部附属中等教育学校 (以下,東大附属と記述) で収集されたデータを用いた分析を試みた。東大附属では毎年10−15組の双生児と80人以上の一般児が入学している。在学中に収集されたパーソナリティや知能のような心理的指標,体力測定や身体測定といった身体的指標は,過去のものからアーカイブデータという形でまとめられており,心理学のみならず,教育学や医学などに大きく貢献している (東京大学教育学部附属中等教育学校, 2013)。発表者は,この東大附属のアーカイブデータのうち,パーソナリティと身長・体重から算出されるBody Mass Index (BMI) の双生児縦断データを用い,思春期の子ども達の心理的側面と身体的側面の関連性について分析した結果を報告する。
 パーソナリティとBMIの発達的な関連性について検討している先行研究では,例えば児童期後期のBMIと成人してからの誠実性,調和性との関連を示した研究や (Lahti et al., 2013),成人においてベースライン時点での誠実性がその後のBMIの増減を予測することを示した研究がある (Brummett et al., 2006)。しかしパーソナリティとBMIの関連について欧米圏とアジア圏で結果が異なることを示す知見もあり (Sutin et al. 2015),日本の思春期の子ども達においてパーソナリティとBMIの変化がどのように関連しているのかを検討することは大きな意味をもつといえる。
分析は約380組の双生児のパーソナリティとBMIの2時点縦断データを用い,交差遅延モデルをあてはめて行った。その結果,パーソナリティ,BMIともに遺伝的要因と非共有環境から個人差が説明され,さらに,ベースライン時点でのBMIが2時点目のパーソナリティに影響することが示された。本発表ではこの結果をもとに,思春期の心理的発達と身体発達の関連性について議論を深めていきたい。
ヒトはなぜ教育をしたがるのか
―教育の遺伝的・進化的起源について
安藤寿康(慶應義塾大学)
 教育による学習,すなわち個体学習や観察学習だけでなく,他個体からの利他的・積極的な関与による学習は,ミーアキャットなど数少ない他種に限定的に確認されてはいるものの (Raihani & Thornton, 2008),ヒトにおいて特に顕著に用いられる学習様式である。それは文化の創出・蓄積・伝達の担い手として,ヒトそのものの生物学的特異性にかかわり,何らかの進化的基盤を持つものと考えられる (安藤, 2016)。したがって,教育をしたいという動機(教育動機)にも,何らかの進化的・生物学的特徴が見出される可能性がある。それを双生児法による行動遺伝学的な視点から検討するのが,本研究の目的である。
 学校教育に限定されない一般的な教育動機は,「援助動機」(eg.教えてほしいと頼まれれば,喜んで教えてあげる,わからないで困っている人を見ると教えてあげたくなる,など) と「啓蒙動機」(eg. わたしには人にぜひ教えたいことがある,わたしが自分の人生経験でつかんだ大切なことを自分より若いものに伝えておきたい,など) の2因子からなり,援助動機は友人・知人を助けようとする直接互恵性と,また啓蒙動機は見知らぬ人でも助けようとする間接互恵性と,それぞれ関連が高いことが,対象別利他行動尺度(小田・平石ら, 2013) との関係から見出されている (安藤, 2011)。教育とは,ヒトが進化的に獲得した互恵的利他主義が,知識やスキルの習得という領域において発現したものとみなされる。
 本研究では,成人期の623組の双生児 (一卵性男性132組,一卵性女性327組,二卵性男性31組,二卵性女性93組,二卵性異性40組) により,それぞれの教育動機の遺伝環境構造を,性限定遺伝分析によって検討した。その結果,援助動機は男女とも遺伝要因は関与せず,共有環境 (43%) と非共有環境 (57%) で説明された。一方,啓蒙動機は男性では共有環境 (43%) と非共有環境 (57%) で説明されるが,女性では遺伝 (36%),共有環境 (9%),非共有環境 (55%) で説明された。
 援助動機の個人差に遺伝要因が関与しないことから,この利他的な教育動機は進化的に安定したものであると考えられる。一方,啓蒙動機の個人差には遺伝的個人差があり,まだ他者の知らない大切な知識を教えこんであげなければならないと強く感じる人とそう感じない人が,文化的・社会的環境とは独立に遺伝的に生じうることを示唆している。このことが教育思想においてしばしば対立し振り子のように揺れ動く二大イデオロギー,すなわち「系統主義」と「経験主義」の二極を生んでいると考えられる。