The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall
The Japanese Association of Educational Psychology
The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall

[JE07]発達障害に対する高校生のスティグマ共生社会に向けたインクルーシブ教育のあり方の検討

鳥居深雪1, 山根隆宏2, 渡邊眞一#3, 井澤信三4(1.神戸大学, 2.奈良女子大学, 3.神戸市立六甲アイランド高校, 4.兵庫教育大学大学院)
企画趣旨
 近年,通常の教育の中での「発達障害」が大きな課題の一つとなっており,いじめ,不登校,非行などの問題との関与も指摘されている。発達障害の疑いのある児童生徒が小中学校で6.5%存在していることが報告されており,高等学校への進学率が97%を超えていることを鑑みて,高等学校においても発達障害のある生徒への特別支援が必要とされるようになった。H19年度からは,高等学校における発達障害支援モデル事業が始まり,現在に至っている。
 H28年4月には「障害者差別解消法」が施行され,公教育において合理的配慮の実施が義務付けられた。しかし,日本では,「同じ」であることを重視する傾向があり,合理的配慮を行う際にも,教師や周囲の生徒が多様性を受け入れることが,鍵となっている。
 世界保健機関の国際生活機能分類(ICF)(2002)は,障害を「心身機能の障害による生活機能の障害」としてだけでなく,環境因子,個人因子との相互作用としてとらえる社会モデルの考え方を採用している。
 環境因子に関わるものの一つに,障害に対する「スティグマ(偏見)」がある。発達障害に対するスティグマを改善していくことは,多様性を尊重し,共生社会の実現に近づくための重要な課題の一つである。Someki et al. (2015) は,日米の大学生の自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)に対するスティグマについて調査した。日本の大学生はアメリカの大学生よりもASDに対する対人的距離が大きかったが,ASDに関して正しい知識を持っている大学生は,日米両国とも対人的距離が小さかった。スティグマには文化差があるが,正しい知識は,文化にかかわらず,スティグマの改善に貢献すると考えられる。
 鳥居は,これらの研究成果をふまえ,神戸市立六甲アイランド高校の渡邊と生徒4名とともに,高校生が発達障害についてどう理解し,どのようなスティグマを持っているかについて研究を行った。本シンポジウムでは,鳥居が行った質問紙調査,高校生による半構造化面接の結果を報告し,共生社会に向けたインクルーシブ教育のあり方を,スティグマという視点から検討したい。なお,本研究は,神戸大学人間発達環境学研究科の倫理委員会の承認を得て実施した。
神戸市立六甲アイランド高校の概要
渡邊眞一
 平成10年4月に開校した神戸市立六甲アイランド高校は,阪神淡路大震災で被害を受けた神戸商業高校と赤塚山高校が母体となって平成10年4月に開校した神戸市のパイロットスクールである。生徒の気質は,素直でおおらかである。
 普通科単位制で1学年400人,3学年1200人規模で男女の比率は4:6である。2年次から,国際人文,社会科学,総合科学,ビジネス,情報科学,人間科学系スポーツコース・生活福祉コース,芸術系音楽コース・美術デザインコースに分かれて,専門的な分野の学習を行うこと,神戸学という地域学に取り組むこと,1年次から進路プランニングに力を入れ,キャリア教育に力を注いでいる学校である。特別支援教育については,生徒向け講演会や研究会を実施し,積極的に取り組んでいる。
障害理解授業とスティグマの実態
鳥居深雪
 六甲アイランド高校の生徒に対し,1時間の障害理解授業を行い,前後で実態調査を行った。
(1)対象 高校生約1111名(1年生355人,2年生381人,3年生375人。)
(2)方法 発達障害に関する1時間の講演を行い,講演前後に同じ質問紙を用いて調査した。スティグマを図る尺度として,Someki et al. (2015)の対人的距離に関する6項目を高校生向けに修正し用いた。質問項目は,これまでに接した経験(はい,いいえの回答),発達障害に関する知識,スティグマ,日常生活に関する意識(「あてはまる」1~「あてはまらない」5の5件法による回答)を用いた。
(3)結果
<障害理解授業前の実態>
 高校生は,障害を区別することは難しく,「発達障害」として全般的に捉える傾向があった。ASDに対する対人的距離は6項目平均で,M=2.55, SD= .553であった。(図1,値は低い方が対人的距離が近い)
 また,重回帰分析を行ったところ,講演前の対人的距離に影響を与えていたのは,「ASDは卒業後大学に通い,結婚することができる」,「自分は偏見がない」,「LDは知的障害ではない」,の3項目で,重回帰係数は.371であり,1%水準で有意な値であった。
<障害理解授業後の変容>
 ASDに対する対人的距離はM=1.92, SD= .756と有意に小さくなった(p< .01)。(図2)授業後の対人的距離に影響を与えていたのは,「ASDは大学に進学し結婚できる」「自分は偏見がない」「適切な支援を受ければASDは障害という状態ではなくなる」の3項目で,弱い相関が認められた(R2= .371, p< .01)
半構造化面接による調査結果
鳥居深雪・渡邊眞一
(1)対象 高校生約69名(無作為抽出)男子23人,女子46人。
(2)方法 共同研究者の高校生が調査者となって,基本的な考え方についての質問紙と半構造化面接を実施した。質問項目は,①一緒に授業を受けたり遊びに行ったりした経験,②一緒に授業を受けたり遊びに行ったりすることに関する不安,③障害のある人との関わりで記憶に残っていること,④障害のある友人の有無,⑤障害のある人と友達になりたいか,⑥周りの大人の関わり方,である。
(3)結果
 各回答は,「ASD対人的距離」は近い方が,「知識」は正しい方が値は低い。「不快なことの我慢」は同意する方が,値は高い。体験の質は,不快(-1)~快(+1)の3段階とした。一緒に授業を受けた経験は58.0%が「ある」,不安は42.0%が「ある」と答えた。(表1)不安があると答えた生徒の中には,「暴力を振るわれた」「トラウマがある」など,過去に不快な体験をした者がいた。逆に「不安がない」と答えた生徒は,「一緒に過ごして楽しかった」「嫌な思いはしなかった」という快い経験だった。障害のある友人がいる生徒は21.7%だが,「友達になりたくない」と答えた生徒も24.6%いた。
 ASDへの対人的距離と各回答の相関分析を行った。対人的距離と発達障害の知識にやや強い正の相関(r = .486, p< .01)が,「不快なことの我慢」と弱い正の相関(r = .340, p< .01)があった。「障害のある友人の有無」「友人になりたい」は弱い負の相関(r = -.264, p< .05)(r = -.397, p< .01)であった。過去の体験の質は,対人的距離とは相関しないが,「友人になりたい」と弱い正の相関(r = .247, p< .05)があった。(表2)
(4)高校生からの提言
 発達障害に対するスティグマは,小学校,中学校時代の経験の質に大きく影響を受けている。不快な体験をした者は,不安や拒否的な感情を持つが,快い体験をした者は,関係性の構築に積極的である。共生社会の構築のためには,単なる場の共有ではなく,障害のある子ども,ない子ども,お互いが快い体験を共有することが重要である。また,成長過程で周囲の大人(親,教師)の関わりも,重要である。