The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall
The Japanese Association of Educational Psychology
The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall

[g-sym01]学校で役立つ認知行動療法

宮前義和1, 大月友#2, 佐藤美幸#3, 大久保賢一#4, 伊藤美奈子5, 戸田有一6(1.香川大学, 2.早稲田大学, 3.京都教育大学, 4.畿央大学, 5.奈良女子大学, 6.大阪教育大学)
企画趣旨
 不登校やいじめ等の教育臨床的諸問題は,今日ではニュースとして報道されることも多く,なかには深刻な事例も含まれている。認知行動療法は世界的に活用されている心理療法の一種であり,関係性を築いた上でエビデンスに基づき課題解決的にクライアントに働きかけていく。その具体性は,コメディカルや教員等,必ずしも専門家でなくても技法を活用することを可能にしている。そうした有用性の高さから,例えば社会的スキル訓練やストレスマネジメントといった認知行動療法が既に学校に導入され,学級経営や発達障害に対する支援等において効果をあげている。しかし,本来は心理療法である認知行動療法を学校に導入する際には,学校という場にあった工夫や配慮が必要である。
 そこで,同時期に大会が開催される日本認知・行動療法学会と合同し,本シンポジウムを企画した。シンポジウムでは,まず,日本認知・行動療法学会会員である3名の話題提供者に学校における認知行動療法の研究・実践をご紹介いただく。大月友氏には学級において相互作用の観点から実施される行動分析的手法の活用について,佐藤美幸氏には通常の学級における,特別支援教育に関する個別支援計画の作成と実践について,そして,大久保賢一氏には行動コンサルテーションやSW-PBSに関する行動分析的手法の活用について話題提供をしていただき,最後に,そうした認知行動療法の知見や技術を学校で役立てることについて,本学会会員2名の指定討論者が論じる予定である。
学校の中で認知・行動療法をどう使うか?
大月 友
 認知・行動療法(CBT)は,エビデンスに基づく心理療法として,教育臨床場面においてもその有用性が報告されている。CBTは,セラピーとしての方法論という側面だけではなく,オペラント理論(行動分析学)や連合理論,認知理論,情報処理理論など,人間の行動(認知を含む)変容に関する基礎理論を基盤とした技法の集まりであるとも言える(久野,2001)。そのため,人間の行動変容に関する問題であれば,カウンセリングのような1対1の文脈だけでなく,学校など異なる文脈においても適用が可能となる。その際,行動分析学における相互作用という視点が重要となる。
 行動分析学では,援助の対象となる“児童・生徒の行動”を,それがどのような相互作用(先行事象・行動・結果事象)の中で生起するか,どのような学習歴があるか,といった文脈から理解する。そして,援助を行う際に,先行事象,行動,結果事象のどこに働きかけるかプランが立てられる。実施可能な援助方法には,①直接的な随伴性マネジメント,②間接的な随伴性マネジメント,③スキル形成によるマネジメント,そして,④言語を介したマネジメントがある(武藤,2007)。ここで,学校という文脈で心理的援助を行う際には,援助者が“対象児童・生徒にとってどのような立場の人間であるか”を理解することがポイントとなる。なぜなら,援助者の立場(教員・スクールカウンセラーなど)によって,扱える先行事象や結果事象は限られ,援助方法が決まってくるからである。対象となる行動がどのような相互作用で維持しているか,そして,援助者がどのような立場にいるかの組み合わせによって,上記の①〜④のうちどのような援助ができるかが決まってくる。本話題提供の前半では,学校の中で相互作用の観点からどのようにCBTを実践するか,事例をまじえながら整理していく。
 また,学校の中でCBTを行う上で,どのような目的で実施するかも重要な点である。これまで教育臨床場面におけるCBTの実践は,問題行動の解決や予防が中心であった。しかし,学校教育場面においては,問題を減らすという視点のみではなく,適応・発達を促進させるという教育的な視点も重要である(福沢ら,2004)。この点は,行動分析学における援助の理念(正の強化で維持される行動レパートリーの拡大)と一致する。本話題提供の後半では,適応の促進といった視点で,行動分析学が学校でどのような貢献が可能であるか,アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)を応用した学級での心理教育実践を紹介する。上記の③と④を組み合わせ,児童・生徒自身の相互作用の変容を試みた,クラスワイドの実践例として,今後の可能性を検討したい。
通常の学級における個別の教育支援計画の作成と実践
佐藤美幸
 特別支援教育は障害のある幼児児童生徒に適切な指導及び必要な支援を行うものであり,通常学級においては限局性学習症(LD),注意欠如・多動症(ADHD),自閉スペクトラム症(ASD)が支援の対象として想定されている。
 アメリカ心理学会の臨床児童青年心理学会(第53部会)は,児童青年期に見られる精神疾患を対象とした治療の知見をまとめており,ASDについては応用行動分析(早期集中行動介入)および応用行動分析と発達的対人関係語用論モデルの組み合わせが,ADHDについては行動的ペアレント・トレーニング,行動的クラスマネジメント,行動的仲間介入,行動的介入の組み合わせ,計画性を養うトレーニング(organization training)が「十分に確立された治療法」と位置付けられている(Smith & Iadarola, 2015; Evans et al., 2014)。残念ながらLDについては知見がまとめられていないが,特別支援教育においては多くの場合,認知行動療法の中でも行動面に焦点を当てた指導が有効であることがわかる。
 そこで,小学校の通常学級に在籍するADHDの児童に対して機能的アセスメントに基づく行動的介入を行い,成果をあげた事例を紹介する。本事例では,授業中に離席や私語をするなどして授業に参加しないことが問題となっていた。そこで,「授業に参加する」という長期目標を設定し,その目標を達成するために個別の教育支援計画を立てた。その中で,「授業に参加する」という目標を,「離席を減らす」「挙手を増やす」というように具体的な行動目標として記述した。
 これらの行動について機能的アセスメントを実施し,アセスメント結果に基づく指導を行った。機能的アセスメントでは問題行動の機能(目的)に着目する。そして,問題行動と同じ目的を実現することができる適切な行動を指導すると同時に,適切な行動をすることによって目的を実現できるように環境を整えていく (Crone & Hoener, 2003)。本事例では,指導によって離席がまったく見られなくなるなどの成果が得られた。
 以上のように機能的アセスメントに基づく行動的介入は,通常学級での特別支援教育において効果が示されている。さらに個別の教育支援計画を作成する際に目標の具体化,行動の機能に基づく指導という2つの点で支援計画の方針を明確にすることができるという利点がある。しかし,行動的介入には解決すべき点も残されている。それは,関係性の構築を前提としたプログラムであるがゆえに,関係性の構築が指導介入の構成要素に含まれておらず,実施者の経験に頼ってきたという点である。話題提供では行動的介入における関係性構築について,今後の展望を検討したい。
行動論的アプローチを学校で「応用」するために何が必要か?:「医学モデル」からシステムチェンジへ
大久保賢一
 発表者が学校場面において支援の対象とするのは,主に学業面や行動面の問題を抱える児童生徒であり,その中の多くの者には発達障害の特性,あるいは発達障害の医学的診断がある。
 応用行動分析学においては,行動を個人と環境との相互作用から分析し,「行動随伴性」という枠組みで捉える。そのような枠組みで,児童生徒の行動問題を捉えると,適切な行動の未学習,あるいは不適切な行動の誤学習等といった児童生徒自身の要因に問題の原因を帰属できるように思えるケースもある。しかし実際には,問題の成り立ちを分析する上で,児童生徒と相互作用をする「環境」に存在する変数を無視することはできない。
 以上のような理由から,学校場面における行動問題を検討する際には,多くのケースにおいて,「環境」の側に介入する必要があるというのが実状である。児童生徒自身の要因にのみ焦点を当て,その変容を標的とする,いわゆる「医学モデル」は,そもそも学校場面をフィールドとした支援にそぐわないといえる。多様なニーズを抱える児童生徒を「治療」するという発想ではなく,そのような多様な集団を包括し,適応を支え,学びを促進するために学校教育という「環境」そのものの質を高めるという発想に切り替える必要がある。
 そのような学校における支援の質を学校規模で高めようとするアプローチの1つにSchool-wide Positive Behavior Support(SW-PBS)がある。米国においては応用行動分析学に基づくポジティブな行動支援が公的機関によって推奨され(平澤,2009),様々なフィールドに普及しつつある。中でも米国の学校教育においては,近年の児童生徒の行動問題と社会性の発達に対する注目の度合いが高まっていることもあり,法整備にも影響を与えている(Sugai & Horner, 2009)。
 今回の話題提供においては,このようなSW-PBSの発想に基づいた学級規模支援,児童生徒に対する個別的支援,行動コンサルテーション,そして教員研修をテーマとした発表者が実施した研究について報告しつつ,我が国の学校場面を対象とした研究について概観し,到達点と課題点について検討したい。また,本シンポジウムのテーマである認知行動療法との接点,並びに協働のプロセスについて,「学校という場だからこそ必要なこと」というポイントに焦点を当てて議論を深めたいと思う。