The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall
The Japanese Association of Educational Psychology
The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall

[j-sym02]授業でメタ認知を育成するには

富田英司1, 惠羅修吉2, 吉野巌3, 瀬尾美紀子4, 鹿毛雅治5(1.愛媛大学, 2.香川大学, 3.北海道教育大学, 4.日本女子大学, 5.慶應義塾大学)
企画趣旨
 学習者のメタ認知能力を伸ばすことをねらった教育心理学的研究には30年以上の歴史があり,教育実践においても幅広い関心を集めてきた。いま学校教育はこれまでのコンテンツ・ベースからコンピテンシー・ベースの学力観へと移行しつつある。つまり,「何かを知っているか」ではなく,「何かをすることができるか」ということへ重きを置くように変ってきている。コンピテンシー・ベースの学習課程が新しく設計されつつある中で,メタ認知はいま再び,教科や領域を横断する高次の思考力を指し示す中心概念の1つとして注目されている。
 これまで教育心理学者は,方略を教えること,言語的説明,ワークシートの導入,評価方法の工夫,個別指導等での足場かけ,話し合いの導入,省察の支援,オンライン学習環境の設計等を通してメタ認知能力の育成に取り組んできた。しかし,現実の教室には地域や学習者の多様性,教師の多忙さ,学習課程との整合性の確保などの現実的制約があり,メタ認知を一斉指導の中ではぐくむことは容易ではない。
 本企画では,そのような現実場面としての教室においてメタ認知を促進する取組みに理論的かつ実践的に取り組まれてきた研究者からの報告をもとに,今後のメタ認知研究の発展のための課題の明確化や探求の方向性について議論する。
話題提供
モニタリング自己評価法のより効果的な実践に向けた課題
―包括的アプローチの提案―
富田英司
 モニタリング自己評価法は,ワークシートと話し合いを主な手だてとした,子どもが自律的に学ぶ力を育成するための手法であり,1990年代に故・中川惠正研究室で開発された。この手法は,メタ認知や動機づけ,教育評価の理論に基づいて考案され,その実証研究が教育心理学研究で発表されてきた。筆者らは,これらの成果を集約することに加え,小学校教員が学校の授業でモニタリング自己評価法を導入しやすいようワークシートや話し合いの具体的な設計方法を説明し,その背景にある理論的な考え方や実証研究の概要を解説したテキストとして『児童・生徒のためのモニタリング自己評価法』を出版した(中川惠正研究室・富田英司,2015)。
 筆者らは本書を編集するために,小学校6年生の算数「分数×分数」の単元で,改めてモニタリング自己評価法の考え方に従ってワークシートを開発・実践するとともに,教員免許更新講習でその手法を学ぶ機会を提供してきた。本発表は,これらの経験を通して明らかになった,モニタリング自己評価法の効果をより高めるための課題を整理することを目的としている。本手法の先行研究によると,モニタリング自己評価法が導入された群は,対照群よりも高い理解度を示した。しかし,学習者一人ひとり観察すると,到達度の低い学習者は,授業者の指示が理解できていない場合や周囲に必要な支援を求めることができていない場合も見られた。このような経験から,一斉授業を通してより効果的にメタ認知能力を高めるためには,本書に示されたような,学習の原理に沿った指導に加え,(1)机間指導の際に学習者の理解度が一目でわかるようなワークシートの設計,(2)学習者が他者に支援を求めやすくするための社会的・物理的な工夫,(3)授業時間外での個別学習支援との連続性の確保などによって教室の内外を結ぶ,包括的アプローチの開発が必要であるという見解に筆者は至っている。
小学校算数授業においてメタ認知能力を育成する試み 
―メタ認知(頭の中の先生)の意識づけとメタ認知訓練―
吉野 巌
 著者らは,メタ認知の存在を児童に直接教授し意識させること(メタ認知の意識づけ),算数の問題をメタ認知的思考をしながら解くこと(メタ認知訓練)を通して,メタ認知能力ひいては問題解決能力の育成を目指した実践研究に取り組んできた(吉野・島貫,教心総会08,09,10,15)。「メタ認知の意識づけ」は,メタ認知を「頭の中の先生」という言葉に置き換え,その概要(頭の中の先生を上手に使うと,問題を解くときに役立つ)や「使い方」を小学校5年生に1時間で教授するものであった。特に,問題解決の5段階(結果の予想,問題理解,プラン,実行,評価)の各々で,頭の中の先生に何をアドバイスしてもらえばいいか(メタ認知的方略)を具体的に提示した。「メタ認知訓練」は,算数の授業1〜3単元に渡って,メタ認知的な思考をワークシートかノートに書きながら問題(文章題)を解く練習を断続的に行うというものであった。メタ認知訓練の授業では,困っている児童にメタ認知的支援(モニタリングなどを促す発問)を行ったり,全体交流の場でメタ認知的思考の内容を発表させるなどの指導を行った。
 2009年の実践(3単元:約半年)では,事前・事後調査を問題解決とインタビューで個別に行った結果,実験群の事後調査で,問題解決得点・メタ認知得点の両方で介入授業の効果が認められた。
 2015年の実践(1単元)では,メタ認知の意識づけをより強く行うため,メタ認知(=頭の中の先生)をお笑いの「ツッコミ」として類推的に説明すると共に,メタ認知的思考をしながら問題を解くモデルをビデオで提示した。メタ認知訓練の授業では,解決過程やメタ認知的思考などが書かれたノートに教師がコメントをつけて返却する指導も行った。時期をずらして2つの群で介入授業を行い,その前後で3回の調査(ワークシート形式での問題解決)を行った結果,片方の群で明確な介入授業の効果が認められた。
教科学習時の働きかけと学習法講座によるメタ認知の育成
―中学生の教訓帰納の自発的使用を促す―
瀬尾美紀子
 自らの学習や問題解決プロセスを振り返って,間違いの原因を分析し次にどうすべきか教訓として言語化することを「教訓帰納(市川,1991)」と呼ぶ。学習の事後的なモニタリングと対処法(コントロール)を考える,メタ認知的な学習方略の1つと言える。中学生では,こうした方略を自発的に使用できることがより重要となる。学習内容が難しくなり学習すべき量も飛躍的に増加する段階に入り,主体的な学習がより一層求められるためである。
 学校教育では,「振り返り」の重要性が再認識され,振り返りを促す取り組みが進められている。授業の中で振り返りの時間を設定したり,テスト返却後に間違った問題を見直す課題を課すなどである。一定の効果を上げているものと思われるが,教師による強制的な働きかけがない場面では,必ずしも生徒たちが自発的に振り返りを行っているわけではないようである。実際,瀬尾ら(2013)は,中学1年生を対象とした質問紙調査で,問題を解いた後に教訓帰納を自発的に行っている生徒は3割に満たないことを報告している。
 本研究では,上で述べた教科学習時の働きかけとは別に,学習方略を学ぶ「学習法講座」を開発し,教訓帰納の自発的使用を促す働きかけを行った。学習法講座の基本的デザインは,1)心理学実験,2)理論解説,3)方略使用練習,である。心理学実験は「方略の有効性」を実感する目的で,理論の解説は「方略が有効な理由」を理解するために,そして,方略使用練習は日常の学習場面において「方略を使いこなす見通し」を学習者が持つために設けた。複数の中学校における実践の結果,学習法講座と教科学習時の働きかけの両方を行った場合に,どちらか片方だけの働きかけの場合よりも教訓帰納の自発的使用が促されることが確認された。教訓帰納のような複数の高度な認知的処理が必要となるメタ認知的方略を身につけるには,多面的な働きかけが必要であると言える。