The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall
The Japanese Association of Educational Psychology
The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Oct 8 - Oct 10, 2016Sunport Takamatsu / The Kagawa International Conference Hall

[k-tut]縦断データ分析のはじめの一歩と二歩

荘島宏二郎1, 宇佐美慧2, 吉武尚美3, 高橋雄介4(1.大学入試センター, 2.筑波大学, 3.順天堂大学, 4.京都大学)
企画趣旨
 複数の個人に関する時間的変化をとらえたデータ(縦断データ:longitudinal data)を集めて分析することは,教育心理学研究において重要性がますます高まっている。例えば,学校の内外における児童の心理・行動を,単に特定の時点から一面的に捉えるのではなく時間を追って観察して分析することで,それらの変化の大きさや個人差・集団差を説明する視点を新たに与えてくれるからである。
 本チュートリアルセミナーでは,縦断データ分析のはじめの一歩と二歩として,「縦断データの最新の理論的展開について学びたい」というよりは
「縦断データとは何で,何ができるのかを知りたい」,あるいは「縦断データ分析に興味・関心はあるが,その基礎を学べる機会がなく,また数理的な色の濃い説明が苦手である」といった初学者の方を対象としている。内容は,まず宇佐美から縦断データの基本的事項,また統計モデルとして,潜在成長モデル(latent growth model)・交差遅延モデル(autoregressive cross-lagged model)の基礎を解説する。そして,吉武・高橋の二人からは,これらのモデルの心理学研究への実践例の報告と,もう一歩進んだ方法論について話題提供をする。
縦断データとは何か,また何ができるのか?
宇佐美 慧
 小学校六年間を通して得られた各児童に対する身体測定のデータのように,複数の個人(児童)に対して複数の時点にわたって集めたデータが縦断データである(宇佐美,2015)。横断データに比べ,縦断データを収集するには時間を要し,また費用が嵩むのが一般的である。それにもかかわらず,国内外(とくに,国外)で縦断データを活用した研究事例は長らく増加傾向にあり,とりわけ教育心理学や発達心理学のような,個人の変化や発達・成長を考えることが多い分野では重要性の高い研究デザインとなっている。しかし国内では,縦断データ分析の教科書・専門書が極めて少ないという事実からも分かるように,それについて体系的に学ぶための機会やールは限られている。
 本発表では,縦断データとは何かという事をまず整理した上で,縦断データを収集することで我々が調べることのできる研究仮説の幅がどのように広がるのかを説明する。そして,具体的な統計モデルとして,潜在成長モデル・交差遅延モデルの二つを取り上げ,その基本的事項について解説する。以下に,発表の概略を示していく。
 縦断データを集めることの利点は,(1)興味ある変数に関する時間的な変化・発達・成長の平均像や個人差について(より正確に)知ることができる,(2)時間的な変化の個人差が他の変数からどのように説明・予測できるかを知ることができる,(3)縦断的に測定された複数の変数がある場合,それらの時間的な変化の関係性を知ることで,因果関係により迫った解釈が可能になる,(4)変数の時間的な変化の様相や変数間の関係性の強さについての集団差が考察できる,といった点に大きく分けることができる(類似の分類には他にも幾つかあり,例えばBaltes & Nesselroade, 1979; 宇佐美,2015を参照のこと)。このように縦断データは,研究仮説の検証上極めて魅力的である。
 特に(1)の点が縦断データの基本的な特長を表している。統計分析は単に集団の情報を要約する・平均処理するための方法と誤って認識されることが多々あるが,変数の時間的変化の個人差を捉えることで,縦断データは単に集団の全体(平均)のみならず特定の個人の変化にも迫った解釈の枠組を与える情報となる。このことを可能にするための具体的な方法の1つが潜在成長モデル(Meredith & Tisak, 1984, 1990)である。潜在成長モデルは,様々な統計モデルを含んだ総称であり,そのためモデルの表現を工夫することで上記(1)-(4)全ての点に関する検証が可能になる。今回は,特に(1),(2)のための潜在成長モデルについ て,その基本的事項を解説する。
 上記(3)の,変数間の因果関係は研究者の多くが関心を持つ話題である。交差遅延モデルは,「現在の変数についての情報が過去の他の変数の情報からどれだけ予測・説明できるか」を通して,因果関係に迫った検証を可能にする方法である。ただし,ひとくちに「関係」と言っても,「個人間の」相関関係や「個人内の」共変関係,そして因果関係など,意味は多様である(例えば,南風原,2002)。縦断データを通して,どのような「関係」に迫ることができるのかについて,交差遅延モデル(や一部,他のモデル)を念頭に置いて解説していく。
出来事が先か幸福感が先か交差遅延モデルを用いた因果関係の推定
吉武尚美
 教育の目的は子どもの幸福の実現であり,幸福な子どもこそよく学ぶといわれる(Noddings, 2003)。しかしながら,今日の学校教育ならびに教育心理学研究においては,児童生徒の心理的問題や問題行動は注目されているものの,子どもが学習課題に取り組み,周囲の環境と関わり合う中で,どれだけ喜びや満足感を抱いているかという視点は重要視されていない。成人期の幸福感研究においては,ポジティブな経験の蓄積が生活満足度を高めるのか(トップダウン理論),満足度の高い者は環境に対して肯定的に働きかけ,ポジティブな経験を多くするのか(ボトムアップ理論)という論争が展開されてきたが,子どもの幸福感に寄与する環境要因についての知見は多くない。
 ところで,精神的不適応とライフイベントの関係については多くの知見が出され,近年では縦断データを使用して,相互の影響関係を検討する試みや認知的素因を加味した検討も行われている。しかしながら,研究者の仮説に基づいた因果関係の検証のみを可能とするデータから検討される場合がほとんどである(例えば,ライフイベントを1時点目,抑うつ傾向を2時点目で測定したもの)。仮説の検証は,対立するモデルの検討を通してこそ妥当性が確認できる。2つの変数間の因果関係を適切に検討するには,縦断データであるだけでなく,双方向の因果関係の可能性を評価できる研究デザインが必要となる。このデザインを構造方程式モデルで実現するのが交差遅延モデルであり,それぞれの変数の時間的安定性を統制した上で,想定する仮説モデルの検証と同時に,相反する因果関係の可能性の検証が行える。
 そこで吉武(2010)は,中学生の生活満足度に注目し,夏休みを挟んだ2時点のデータをもとに,日常の良い出来事との双方向の因果関係の可能性を検討した。すなわち,出来事と生活満足度を2時点ともに測定し,両変数間に想定される2つの因果関係を同時に考慮した上で(ボトムアップ:良い出来事→満足度,トップダウン:満足度→良い出来事),いずれの方向性がより妥当なものとして推定されるかを検討した。セミナーでは,ライフイベントと精神的適応の関係性を検討した研究を紹介するとともに,話題提供者が初めて交差遅延モデルの分析に挑んだ際に遭遇した,データ収集や分析における困難や苦労した点についてもお話する。
教育心理学研究のための潜在成長モデルの一歩目と二歩目
高橋雄介
 哀しいお知らせがひとつある。本報告に際して,過去3年間の教育心理学研究誌を参照したところ,(潜在)成長モデル・成長曲線モデル・潜在曲線モデル・潜在成長曲線モデル,そして階層線形モデルやマルチレベル分析,それをどのように呼称しても相違ないが,縦断データに対してこのモデルを適用して分析を行い,研究報告を行っている論文は,残念ながら皆無であった。無論,教育心理学分野において,潜在成長モデルを適用することが無意味だと言うならこれは当然の現状であるが,おそらくそうではあるまい。その証拠として,過去3年の間にJournal of Educational Psychologyではこのモデルを用いて分析が行われた論文が10本程度あり,個人内変化(のパタン)の個人間差(個人間変動)を推定することを目的としたこのモデルが教育心理学分野の研究に有用であることに疑念を挟む余地のほうがよほど少ない。
 そこで,本報告では以下の3点を主たる目的とする。1つめの目的は,教育心理学研究に資す潜在成長モデルの一歩目を踏み出すために,この分析手法の適用のされ方(測定時点数,標本サイズ,従属変数は複数あるか,説明変数の有無,2次の項の有無など)とその結果・解釈を確認することである。具体的には,最近10数年以内に心理学近接領域の国内他誌において報告された研究論文を概観し(e.g.,安藤・無藤,2008; 朴峠他,2011,中田,2008; 大隅他,2013; 角谷,2005; 鈴木他,2010; 宇佐美・菅原,2012),最近3年以内にJournal of Educational Psychologyにおいて報告された論文のうちのいくつかについてもその内容を簡単に紹介する(e.g., Chueng et al., 2015; Frischkorn et al., 2014)。次に,2つめの目的は,Curran et al.(2010)の“潜在曲線モデルに関する12個のよくある質問”に添って,さらにこのモデルに関する理解を深めることである。最後に,3つめの目的は,教育心理学研究に資する潜在成長モデルの二歩目を踏み出すために,交差遅延モデルと潜在曲線モデルの合わせ技一本,自己回帰潜在軌跡モデル(autoregressive latent trajectory model, Bollen & Curran, 2004; Curran & Bollen, 2001)および残差を構造化した潜在成長モデル(latent growth models with structured residuals, Curran et al., 2014)の紹介を行うことである。複数の変数間の関連性について知りたい場合,これらの分析は,複数の切片・傾きの関連性に加えて,測定時点間の安定性(自己回帰性)と変数間の因果関係(交差遅延効果)も合わせて検討の対象とし,とりわけ後者は個人間変動と個人内変動を分離可能とされるため,今後これらのモデルの利用は増えるかもしれない。併せて,これらの手法が適用された最近2年以内の研究事例をいくつか報告する(e.g., Hawes et al., 2015; McLaughlin & King, 2015; Weidman et al., 2015)。