The 34th Congress of the Japanese Society of Gerodontology

The 34th Congress of the Japanese Society of Gerodontology

Jun 16 - Jun 18, 2023PACIFICO Yokohama
The Congress of the Japanese Society of Gerodontology
The 34th Congress of the Japanese Society of Gerodontology

The 34th Congress of the Japanese Society of Gerodontology

Jun 16 - Jun 18, 2023PACIFICO Yokohama

[SY12-1]ACPの基礎 ― 最期まで患者さんの尊厳を守るために

○会田 薫子1(1. 東京大学大学院人文社会系研究科死生学・応用倫理センター上廣講座)
【略歴】
東京大学 大学院医学系研究科 健康科学専攻博士課程修了 博士(保健学)、ハーバード大学メディカル・スクール医療倫理プログラム フェロー(フルブライト留学)、東京大学大学院人文社会系研究科死生学・応用倫理センター上廣講座特任准教授を経て、現在、同講座特任教授。
専門:臨床倫理学、臨床死生学、医療社会学
研究分野:エンドオブライフ・ケア、延命医療、高齢者医療とケア、脳死、臓器移植等.
【著書】
『臨床倫理の考え方と実践 ― 医療・ケアチームのための事例検討法』、東京大学出版会、(共編著、2022)
『長寿時代の医療・ケア ― エンドオブライフの論理と倫理』ちくま新書(2019)
『医療・介護のための死生学入門』東京大学出版会(共編著、2017)
『医と人間』岩波書店(共著、2015)
『延命医療と臨床現場:人工呼吸器と胃ろうの医療倫理学』東京大学出版会(2011)等
【抄録(Abstract)】
長寿社会の日本において、人生の最終段階まで本人らしく生きることを支援しようという声が高まっている。多職種が医療・ケアチームとして協働する意思決定支援の重要性も浸透してきた。  
 意思決定支援は臨床倫理の中核の課題である。臨床倫理は現場において、一人一人の患者/利用者が直面する治療法やケアの方法および療養場所等の選択に関する問題に対応する。本人にとって最善とは何か、最善を実現するための選択肢は何かをめぐり、本人を中心に家族等や多職種が一緒に考え、悩みも共有しつつ、適切な意思決定プロセスをたどり合意を形成する。
 意思決定支援の際には、適切な診断を土台として、本人の生活と人生のなかで最も適切な選択肢を選ぶべく、本人・家族側と医療・ケアチームは情報を共有しつつ、「共同意思決定(shared decision-making: SDM)」に至るよう対話のプロセスを進める。この考え方によって人生の最終段階の医療・ケアの選択のための対話を繰り返すと、それがACP(Advance Care Planning)になる。ACPはリビング・ウィルなどの事前指示の不足を補いつつ発展してきた。
 ACPはそもそも英語圏で概念形成され実践が進められてきたが、英語版を翻訳して日本で使用することには困難が伴う。英語圏と日本では、そもそも意思決定に関する考え方と社会的文化的特徴および法・制度に相違があるためである。ACPを適切に理解し活用していくためには、日本人の倫理観を認識し、文化や制度を含めた社会環境に合った方法を検討しつつ普及を図る必要がある。
 そこで日本老年医学会は全国の医療・ケア従事者に対して、「ACP推進に関する提言」(2019)を発表した。同「提言」は、ACPの目標を「本人の意向に沿った、本人らしい人生の最終段階における医療・ケアを実現し、本人が最期まで尊厳をもって人生をまっとうすることができるよう支援すること」としている。この場合の尊厳は、自尊感情あるいは自己肯定感を意味するといえる。
 歯科衛生士はその専門性を活かし、一人一人の患者の自尊感情と自己肯定感を高めることができる。可能な限り自分の口で好きな味を楽しむことができるようにすることはQOLの維持・向上に直結し、口腔ケアとふれあいによって「快」の経験を増やすことは本人の幸福度を高める。
 臨床倫理の実践に際しては、多職種が各自専門職として相互に敬意をもって情報共有し協働することが大切である。そうして本人の視点から本人にとっての最善を実現しようと努めると、併せて家族ケアも可能となる。
 臨床倫理をよりよく実践しようとする姿勢をもって現場に臨むと、本人の幸せの実現に貢献することが多くなる。それは優れた仕事による成果であり、医療・ケアチーム自身の幸福感・仕事の充実感にもつながる。その繰り返しが、組織のなかに倫理的な土壌を育み、それが倫理的に適切な臨床実践の実現を一層可能とする。