The 126th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 126th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Sep 17 - Sep 20, 2019Iwate University
The Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science
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The 126th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Sep 17 - Sep 20, 2019Iwate University

[SY-III-01]移行期の飼養管理

*杉野 利久1(1. 広島大院統合生命)
 分娩移行期は,乳牛にとっては最もストレス負荷のかかる期間である.飼養管理面では,給与飼料組成が大きく変わるため,反芻胃を中心とした消化器官の環境変化を余儀なくされる.産褥期の泌乳量の増加に伴い,飼料摂取量も当然ながら増加するが,泌乳量に対して飼料摂取量が不足した場合,乳牛は負のエネルギーバランスに陥り,不足しているエネルギーは体脂肪を動員して補うことになり,肝機能への負荷が大きい時期でもある.移行期のストレス負荷や栄養消化,代謝,生理機能の急激な変化は,乳牛に炎症や損傷を少なからず引き起こす.産褥期に臨床疾患を発症すると,産褥期の罹患牛は繁殖成績に悪影響を及ぼすだけでなく,305日乳量も減少させる.したがって,分娩後の負のエネルギーバランスを軽微にすることが健全性を担保する上では重要であり,そのためには移行期の食欲停滞を改善し,飼料摂取量を高める必要がある.食欲停滞は,過肥の乳牛によく見られ,過肥牛ほど,分娩後の体脂肪動員が過剰となり,周産期疾病リスクを高める.
 TMR給与は摂取栄養バランスの偏りは改善されるものの摂取量を乳牛自体に依存することとなり,乳量減少に伴う栄養要求量の低下と栄養摂取量のアンバランスにより,泌乳後期は過肥になりやすい.泌乳最盛期は乳牛のエネルギーを充足させるために,飼料としてルーメンバイパス油脂を用いることが多いが,パルミチン酸やオレイン酸などの長鎖脂肪酸を多く含むため,乳量,乳脂率を高める一方,体脂肪として蓄積されやすく,搾乳牛群を1群1TMRで管理している場合は,泌乳後期において栄養摂取量が過剰となり過肥の原因となる.中鎖脂肪酸は,吸収後,速やかに肝臓で酸化されるため体脂肪として蓄積されない特徴を有する.摂食亢進および成長ホルモン(GH)分泌作用を有する消化管ホルモンである活性型グレリンの血中濃度を高め,グレリンを介した血中GH濃度の増加,それによる増乳作用も期待できる.また,中鎖脂肪酸カルシウム塩はインスリン分泌を抑制し,グルカゴン分泌を促進することで体内代謝を異化にシフトさせる.乾乳後期に中鎖脂肪酸カルシウム塩を添加すると,分娩後の乳量を増加させること,また泌乳最盛期から中鎖脂肪酸カルシウム塩を添加した場合,泌乳持続性が高まることを我々は明らかにしている.一方で飼料摂取量の増加を伴わないことから,中鎖脂肪酸カルシウム塩は,飼料エネルギー濃度を高め,かつ体脂肪蓄積を回避できる効率の良いルーメンバイパス油脂と考えられる.
 乾乳後期に飼料摂取量が減少すると,体脂肪動員により血中遊離脂肪酸濃度が増加する.通常は肝臓で代謝されるが,過剰となると肝機能が低下し,ケトーシスや脂肪肝を発症,分娩後の食欲をさらに減衰させる.メチオニンとリジンは,乳牛において制限アミノ酸であり,不足しやすい.最近では,乳牛のアミノ酸栄養も深化してきており,代謝タンパク中のこれら制限アミノ酸の要求量も明らかになりつつある.メチオニンとリジンのバランスを整えることは,肝機能を改善して乳生産に好影響を与えることが多くの研究で明らかになっている.我々は,乾乳後期(21日間)にバイパスリジン製剤を添加することで,乾乳後期の飼料摂取量の減少を抑制し,分娩後の飼料摂取量も高く推移することを明らかにした.また,産褥期の肝機能指標(LFI)も改善されていた.このことは,乾乳後期のリジン要求量が低い可能性を示しており,バイパスリジン製剤を添加することで,分娩移行期の飼料摂取量を高めることが出来る可能性を示している.
 最後に乾乳期の飼料摂取量は,牛舎環境(換気や日長時間)などに左右されることはすでに報告されている.中鎖脂肪酸やバイパスリジンは,分娩移行期の問題解決の一助に過ぎず,牛舎環境や個体のコンディションを良好に保つことが重要である.