The 128th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 128th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Mar 27 - Mar 31, 2021Kyushu University
The Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science
The 128th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 128th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Mar 27 - Mar 31, 2021Kyushu University

[CSS-02]ポストコロナの牛肉生産

〇Masakazu Irie1(1.National Livestock Breeding Center)
1. コロナ禍前の動き
 コロナ禍前は旺盛な食肉需要に支えられ、2012年から和牛肉価格も上昇し続け、高止まりしていた。肥育農家の増頭意欲は強く、2013年から子牛価格も急騰した。そのため一貫経営に移行する動きもみられた。
 肉質面では育種改良や飼養技術が功を奏し、和牛に占めるA5割合はこの10年で16%から39%と大きく上昇した。また性選別精液の利用が進み(全国の約19%)、乳雄子牛の生産が減る一方で、乳牛への和牛受精卵移植も増えつつある。つまり等級の高い高価な和牛肉が増産され続けていることになる。一方、高価な和牛肉の需要と相場は景気に大きく左右され、わが国の景気は減退傾向で、必ずしも和牛肉の家庭内消費は順調ともいえなかった。
 和牛肉の価格を支えたのは輸出とインバウンドである。和牛肉は部位によってその価格に大きな開きがあり、サーロイン等高級部位では国内需要が限られる。高級部位の受け手となったのは輸出であり、国の政策もあり順調に伸び続けた。また日本を訪れる外国人が月300万人近くまで増え、和牛肉の消費にも寄与した。さらにコロナ禍直前には、中国への牛肉輸出解禁や東京オリンピックによるインバウンドが特に和牛肉の大きな需要先として期待されていた。

2. コロナ禍による変化
 和牛肉の消費は約7割弱が家庭で、3割弱が外食である。COVID-19は、インバウンド需要を含む外食と、当時の和牛肉全体の3%程度を占める輸出に大打撃を与えた。訪日外国人は消滅し、世界的なCOVID-19による外食減退で牛肉輸出も大きく落ち込んだ。
 家庭内消費では、国産牛肉消費も増加したものの、和牛肉では外食、輸出などの減少分まで埋め合わせることができず、卸売価格が急落した。肥育農家にも大きな影響を与えたが、マルキン制度は救済策になった。
 その後、国や地方の需要喚起事業や外食の緩和傾向などが功を奏し、2021年1月時点で相場は回復している。しかし、いまだ感染状況とその対策や景気によって牛肉相場は影響を受ける状況下にある。
 外食が落ち込んだ一方で、中食や内食は伸び、またインターネット販売が伸びたといわれる。国産の牛肉の中でも和牛肉の人気が強く、地域に密着した食肉小売店や量販店では売り上げが伸びたところや、地元での消費や根強いファンによって痛手をある程度回避できたブランド牛肉もある。

3. ポストコロナの展望
 上述したようにCOVID-19は、牛肉、特に和牛肉の価格を一時的に大きく低下させ、生産量に大きな影響を与えた訳ではないが、需給構造には大きな変化を与えた。こうした変化は、私たちに今後の教訓を与えてくれたように思える。
 先ず身近な消費者を味方につけることである。既に牛肉は国内消費においても輸出においても国際競争の真下にあるが、まず国産という安心でおいしい牛肉を安定して提供することにより、わが国消費者をしっかりつかむことが重要である。家庭内消費はコロナ禍後に増加しているが、節約志向もあり、また赤身志向も無視できない。そうなると霜降り最高級肉より家庭でのごちそう、つまり、より購入しやすい価格の牛肉や、適度な霜降り牛肉の供給も望まれる。海外向けも同様であろう。
 これらにかなう牛肉生産には、若齢肥育、経産牛肥育、経済性重視の肥育、多様な牛肉生産がある。現在の改良された黒毛和牛では、過度なビタミンA制御をしなくても、また長期に肥育しなくても、適度な脂肪交雑を持つ牛肉が生産できる。若齢肥育では経済的な発育性も期待できる。経産牛肥育では既に都萬牛(宮崎)のような成功事例があり、食味の優れた牛肉生産と子牛増産が可能で、SDGsにもかなう。肉質面では脂肪交雑一辺倒でなく脂肪質も注目され、食味に影響するオレイン酸含量などが最先端光学評価によって流通現場で簡易に測れるようになっており、販売促進や肉質改良に活用できる。
 以上のように、最高級品だけでなく、その消費につながる普及品~高級品や様々な特徴を持つ肉等、多様な牛肉生産が望まれる。そうでないと和牛肉は一部の人用になってリスクが大きい。ふるさと納税の返礼品もそうであったが、コロナ対策として実施された学校給食での和牛肉の利用や、インターネット販売による幅広い層の家庭内消費は、将来、和牛肉ファンの裾野を広げるものになるだろう。
 また現在の牛肉消費を押し上げているのは、健康のためタンパク質の摂取が推奨されている高齢者だといわれている。さらにダイエットとしても食肉の良さが見直されている。そして、なによりもおいしい肉は人を幸せにする。輸出は既に回復し、伸びており、さらなる拡大が期待できる。特に経済が豊かになりつつあるアジアでは大きな需要が見込まれる。つまり、わが国の和牛を中心とした牛肉生産には拡大要素があって未来がある。
 COVID-19は牛肉の需給状況に大きな影響を与えたが、その経験を国産牛肉の内需を強くし輸出も含めた国際競争を勝ち抜く術として活かしたいものである。