The 128th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 128th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Mar 27 - Mar 31, 2021Kyushu University
The Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science
The 128th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 128th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Mar 27 - Mar 31, 2021Kyushu University

[CSS-04]ポストコロナの養鶏(鶏卵・食鳥関係)

〇Shigeru Ohki1(1.Azabu University)
2020年のコロナ禍において、巣ごもり需要の増加により一人当たり支出金額で鶏卵・鶏肉ともに約10%(家計消費年報、1~10月)の増加を見たものの、鶏卵では消費の半分を占める加工・業務向けの落ち込みが激しく、小売価格は前年並であるものの卸売価格は安値で推移している。また鶏肉は相対的に安価であり健康志向から需要が伸びるなか、家計仕向け7割を占めるもも肉需要が強まり卸売価格は過去3年を上回る水準となったが年間小売価格では前年並であった。今後は国内家禽で2年10ヶ月ぶりに発生した高病原性鳥インフルエンザの影響が気になるところである。
 こうした状況の下でポストコロナを考える際に有効な視点は、持続可能な開発目標と思われる。この視点で対応すべき事柄は、地球温暖化、肥満、薬剤耐性菌(Antimicrobial Resistance:AMR)、アニマルウェルフェア(Aminimal Wel- fare:AW)、高病原性鳥インフルエンザ(Highly pathogenic avian influ -enza:HPAI)、遺伝子組換え飼料(genetically modified organism: GMO)、国産鶏種、耕畜連携、等幅広い。これらの対応を統合的に進めるには、現行経済システムの中で畜産物利用の有用性の発信という視点での対応が重要であると思われる。
 食糧危機や経済成長に伴う肉食需要補完のための昆虫食・人工肉・培養肉への注目や、健康志向に伴う乳代替品への注目もさることながら、草や穀物などから動物の乳・肉・卵を得る迂回生産における問題、そこでの土地・餌・水の使用量の大きさと、家畜排泄物を含む環境負荷等への社会的了解が求められている。加えて鶏に関しては、AWやAMRやGMOの問題が相まって、動物保護運動などが健全な畜産への志向だけでなく、畜産物利用否定の方向への志向をも生み出しつつある。
 畜産物利用に対する幅広い理解を得るには、以下のような現状を踏まえてAW視点等を軸に生産から消費のあり方を変革することが喫急の課題と思われる。
 採卵鶏・鶏卵では、EUや米国で、ケージフリー(ケージで飼育しない鶏へ)の動きが強まっており、米国では8州でバタリーケージは禁止、カリフォルニアでは2022年からケージフリーが最低基準となる。またEUもEnd the cage age というヨーロッパ市民イニシアチブの運動(採卵鶏のほか豚のストールなども対象)が展開され、ドイツを筆頭にEU各国で合計140万の署名を集めてケージ規制法制化の議論が始められようとしている。これらは家畜における「通常の行動様式を発現する自由」という点を重視した動きであり、日本でもケージフリー(平飼い)に強く反対の大手企業も平飼い経営に参入し大手量販店のPB鶏卵を供給している。こうしたなか飼養密度をはじめとしてケージ卵や平飼い卵の基準がない現状にある。このことは混乱を生むだけでなく、「良質」かつ「真の生産性」を高める鶏卵生産の仕組みを確立する道を閉ざすことにもなりかねないと危惧する。なお韓国では議論はあるがHPAI対策として飼養密度に制限を設けたことも参考にすべきと思われる。
 鶏肉では、2つのポイントを指摘できる。一つはAMR対策である。飼料安全法によれば肉用鶏では出荷一週間前まで飼料添加物としての抗菌性物質使用が認められているが、これを使用しない飼育を「特別飼育鶏」として、鶏の衛生管理の徹底や環境への流出防止の点で意義があり、米国では抗菌性物質不使用鶏肉生産は4割程度という推測もある。日本でも多くの小売で特別飼育鶏の扱いはあるが、一般の「銘柄鶏」と差別化できない状況のため広がりは弱いと思われる。もう一つは欧米で、ベターチキンコミットメント(better chicken commitomen:BCC)という動きで示されているスローグロウス(ゆっくり育つ飼育)である。面積当たり重量基準なども併せて福祉基準をトータルに提起しているが、ブロイラーにおける品種改良の方向性は速い肥育(45日程度)であり、このことによる健康上のリスクを避ける目的でゆっくりとした成長速度の品種を求めている。日本では赤鶏や地鶏の概念に重なる点もあるため関連を意識した議論整理が求められる。
 鶏卵・鶏肉に共通の課題も2つ指摘できる。一つは安定的な食糧確保のための国産鶏種による生産である。「持続可能性に配慮した鶏卵・鶏肉」JAS規格は国産鶏種の利用、飼料米の利用を、家畜排泄物の利用とともに促そうとし、輸出促進にも寄与することが期待されている。もう一つは飼料等の安全である。養鶏では9割近くが輸入の大豆やトウモロコシ飼料によってまかなわれているが、この大部分が遺伝子組み換え作物と考えられる。米国では、特色商品(有機、放飼いなど)にNON-GMOのマークが付けられていることも少なくない。遺伝子組み換え作物に使用される除草剤原料のグリホサートの安全性とその製品のリスクは異なるという見解もある。実際に当該企業はこのことによる多数の訴訟を抱えているという。こうしたもと2023年から日本の遺伝子組換え表示制度が変更され、食品における非遺伝子組換え表示が事実上不可能になるとの懸念がある。こうしたことが畜産物消費に負の影響をもたらさないために、科学的事実を確認する必要がある。これらの課題に向き合い解決策を示していくことがポストコロナの養鶏と考える。