The 128th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 128th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Mar 27 - Mar 31, 2021Kyushu University
The Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science
The 128th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 128th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Mar 27 - Mar 31, 2021Kyushu University

[EL]食肉の官能評価 -論文に掲載できるデータを取るためには-

〇Keisuke Sasaki1(1.Inst. Livestock Grassland Sci., NARO)
1.はじめに

 新たな家畜・家禽品種や新たな飼料原料・飼養技術の開発にあたり、生産物の品質、特に「おいしさ」の評価やその向上を目指した研究例が増加している。これらの研究論文の中には、官能評価を活用して「おいしさ」を分析・評価している例があるが、実験として十分にコントロールされた条件となっていないなどの原因から、当該データを学術論文の一部として掲載することが困難な事例が散見される。飼養試験や生化学的・分子生物学的実験においては、実験条件が十分にコントロールされ、バイアスが排除されていることの重要性は十分に理解されている。官能評価も科学的手法の一つであるため、論文に掲載できるグレードのデータを取得するためには、実験条件のコントロールやバイアスの排除に十分な注意が払われる必要がある。本講演では、演者がこれまでに国際誌、国内誌を問わず種々の雑誌で論文掲載否とされてきたたり、あるいは査読者に納得されるために多くの労力をさいてきた多くの経験を踏まえ、論文に掲載できる官能評価データをとるために必要な注意点を述べる。



2.手法とパネルの使いわけ

 官能評価はヒトが五感を用いてサンプルを評価する手法であることから、パネルが必要不可欠である。パネルは主に「分析型」「嗜好型」に分けることができる。「訓練されたパネル(trained panel)」「訓練されていないパネル(untrained panel)」と分類することもある。分析型官能評価は、サンプルの味や匂い、食感といった客観的な性質を知るための手法であり、機器分析の延長である。このため、機器分析のキャリブレーションに相当する適宜のパネリストの選抜と訓練を行う必要がある。他方、嗜好型官能評価は、サンプルが「好きか嫌いか」という主観的な好みを知るための手法であり、アンケート調査の延長といえる。このため、嗜好型官能評価においては、能力に基づく選抜や評価法の訓練は行うべきでは無い(「行わなくても良い」ではない)。原則として、分析型と嗜好型は厳格に使い分けるべきである。よって、分析型官能評価では価値判断はさせない一方、嗜好型官能評価では客観的な性質の評価は行わないのが基本的な考え方である。訓練されたパネルに主観的な評価をさせたり、あるいは訓練されていないパネルに客観的な評価をさせたりする場合もあるが、これらはあくまで上記の原則を踏まえた上で、なにがしかの目的があって行っている。よって、特段の目的があるのではない限り、分析型と嗜好型の使い分けは厳格に行なうべきである。



3.パネルの人数

 上記の目的に照らしてパネルを準備したとして、パネルの人数が十分でないと折角手間暇をかけて官能評価を行っても論文掲載に至らないケースもある。分析型パネルにおいては、十分に訓練されており、適宜の反復を行うことができれば、数名であっても信頼できるデータが取得できる。他方、一般消費者を対象とした消費者型パネルの場合は、人数が100名を下回った時点で国際誌であればリジェクトもしくはデータ削除の原因となる(筆者も経験あり)。最も簡便な手法として、いわゆる社内一般パネルを用いた2点法の場合は、JIS Z 9080 の記述に基づけば、和文誌などであっても、最低30名は被験者を確保することがデータ掲載には必要であろう。



4.バイアスの排除

 実験対象に対して実験結果を変動させる要因のうち、実験者が意図した処理以外の変動要因はバイアスと呼ばれる。あらゆる実験における手間暇はこのバイアスの排除を目的としている。官能評価も科学的手法である以上、バイアスは可能な限り排除される必要がある。官能評価におけるバイアスの要因としては、サンプル形態、調理条件、記号効果、期待効果、疲労効果、順序効果、残存効果(キャリーオーバー効果)などがある。これらは実験計画とデータ解析により排除できるものと実験方法により排除できるものがある。これらについてそれぞれ対策を紹介する。



5.おわりに

 演者は平成24年度から毎年都道府県の公設試を対象とした官能評価ワークショップを実施してきた。この間、公設試の官能評価技術は各位のご尽力のおかげでレベルが向上してきたと考えているが、公設試以外の機関に対する技術普及の機会をこれまで持ってこなかった。本講演を通じて、一つでも多くの研究室で官能評価に取り組んでいただき、良いデータを発表していただければ幸いである。