The 129th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 129th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Sep 13 - Sep 16, 2021Tohoku University
The Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science
The 129th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 129th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Sep 13 - Sep 16, 2021Tohoku University

[AW-01]細胞株樹立による家畜の機能性発現機構に関する研究と後進の育成

*Hisashi Aso1,2(1. Tohoku University, 2. The Cattle Museum )
東北大学農学部畜産学科を1979年に卒業して東北大学医学部の研究生となって癌免疫および免疫賦活剤の薬理作用の研究を行い、1992年に農林水産省畜産試験場加工部に採用されてからは、一貫して家畜の産肉性、脂肪交雑、抗病性に関連する組織から、その特性を有しながら試験管内で培養が可能な細胞株の樹立を試み、世界に先駆けて11種類の細胞株の樹立に成功しました。2001年4月に東北大学大学院農学研究科に転出し、18年間で64名の学生と一緒に研究ができました。そして、卒業生が社会に貢献している姿が私の誇りです。学生も含めた多くの共同研究者と行った以下の研究成果が、畜産の基礎研究および産業の発展に幾らかでも役立つことを願っています。
1)家畜の筋肉内脂肪交雑機構とセロトニンによる脂肪代謝機構に関する研究
 黒毛和種牛胸最長筋由来のウシ筋肉内脂肪前駆細胞(BIP細胞)およびデュロック種豚胸最長筋由来のブタ筋肉内脂肪前駆細胞(PIP細胞)の樹立に世界で始めて成功し、家畜の霜降り機構を細胞生物学および遺伝子工学の研究に発展させた。また、家畜の脂質代謝は品種、栄養素の吸収と代謝機構、環境要因などの影響を受けるが、内分泌ホルモンのインスリンおよび腸管ホルモンのセロトニンの脂質代謝に及ぼす影響に着目し、セロトニンが胆汁酸の生体内回路を亢進して脂質代謝を誘導することを世界で始めて発見して成果を発表した。
2)乳腺上皮細胞株(BMEC細胞)樹立による泌乳機構および乳房炎発症機構に関する研究
 ホルスタイン種牛BMEC細胞の樹立に国内で初めて成功し、成長ホルモンおよびインスリン様増殖因子I型の乳汁合成に与える作用機構解明に貢献した。そして、乳房炎を誘導する乳汁因子(シクロフィリンA)の発見に加え、乳汁への免疫グロブリンAの誘導機構の解析等の成果を得て、プロバイオティクス枯草菌C3102株の乳房炎発症予防効果を実証した。
3)豚腸管上皮細胞株(PIE細胞)の樹立による豚の抗病性に関わる研究
 三元豚小腸由来のPIE細胞の樹立に世界で初めて成功し、プロバイオティクス乳酸菌などの免疫賦活化反応および抗炎症免疫反応に関する解析を細胞生物学および遺伝子工学の研究に発展させた。また、ランドレース豚のマイコプラズマ性肺炎病変(MPS)が少ない系統豚「ミヤギノL2」の組織学、免疫学および遺伝子工学などの手法を用いて詳細に解析し、抗病性特性に関する成果を発表した。
4)腸管上皮M細胞分野誘導系の確立とプリオン侵入機構に関わる研究
 黒毛和種牛小腸由来の牛腸管上皮細胞株(BIE細胞)の樹立に世界で始めて成功し、C57BL/6マウス小腸由来のマウス腸管上皮細胞株(MIE細胞)の樹立にも成功した。両細胞株を用いて、腸管の濾胞随伴上皮に存在して高分子物質を生体内に取り込むトランスサイトウシス能を有するM細胞への分化誘導系の確立に成功した。また、M細胞が経口摂取した異常プリオン蛋白質を細胞膜上に存在する解糖系酵素アルドラーザAを介して取り込み、プリオン病を発症することを証明した。
5)牛筋衛星細胞の初代培養系確立による筋分化機構に関する研究
 骨格筋は、筋衛星細胞の増殖と分化によって形成される。牛筋衛星細胞の初代培養系の確立に成功し、筋分化に関連する転写因子群の発現機構および生体内因子の作用機構を詳細な解析を行った。また、ミオスタチン遺伝子に変異が認められたダブルマッスル牛由来の筋衛星細胞初代培養系では、ミオスタチンがグルコース輸送体4型の発現を制御していることを発見し、筋分化機構に関する成果を発表した。
6)家畜下垂体におけるホルモン産生細胞および免疫関連細胞の分布および機能と関する研究
 筋分化に関係するミオスタチンを産生する細胞が家畜下垂体および大脳嗅覚に存在し、新規なホルモン様因子であることを初めて発見した。また、下垂体組織中には免疫関連物質(4Ig-B7-H3, IL18)を産生する細胞が存在することを発見し、下垂体の機能に影響を与えている事象を発表した。
7)免疫賦活剤に関する研究
 生体の免疫系を賦活化する物質(免疫賦活剤)の中で特に特に有機ゲルマニウム化合物に着目し、NK細胞、マクロファージなどの自然免疫に関わる細胞への作用機構の解析に加え、ウイルス感染防御あるいは癌免疫に及ぼす作用機構を詳細に解析して成果を発表した。
 最後に、2021年度日本畜産学会功労賞(西川賞)に推薦して頂いた方々に感謝申し上げると共に、受賞を誇りにして今後も奮闘努力することをお誓い致します。