The 129th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 129th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Sep 13 - Sep 16, 2021Tohoku University
The Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science
The 129th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 129th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Sep 13 - Sep 16, 2021Tohoku University

[AW-02]反芻家畜における栄養生理学的研究および後進の育成

*Hiroaki Sano1(1. Iwate University)
1983年3月東北大学大学院農学研究科博士後期課程を修了し、農学博士の学位を取得した。日本学術振興会奨励研究員、秋田県畜産試験場勤務を経て1987年4月に北里大学獣医畜産学部助手となり、1988年4月講師に昇任した。1992年3月に岩手大学農学部助教授となり、2004年9月教授に昇任した。2020年3月定年退職し、2020年5月岩手大学名誉教授となり、現在に至っている。
(A)研究業績
(1) 反芻家畜における糖・タンパク質代謝
 反芻家畜の血液グルコース代謝に関し、環境温度の影響に関する研究は1970年代までほとんど実施されておらず、暑熱暴露に関する報告は皆無であった。そこで、同位元素希釈法を用い、暑熱ストレスの影響はじめ、種々の栄養生理条件下における反芻家畜の血液グルコース代謝に関する研究を実施した。その結果、ヒツジの血液グルコース代謝は暑熱暴露時に低下し、寒冷暴露時に増加するなど、環境温度によって影響されること、泌乳時に亢進すること、エネルギー給与量に著しく影響されることなどを明らかにした。さらに、インスリンやアドレナリンの短時間注入による血液グルコース濃度の変化は血液グルコース供給速度と利用速度のバランスが崩れることによって起こることを非定常状態の算定式を用いて明らかにした。反芻家畜の血液アミノ酸・タンパク質代謝はエネルギー給与量に影響されるが、タンパク質給与量によっては影響されないこと、さらに、血液アミノ酸・タンパク質代謝は寒冷暴露によって増加することを明らかにした。
(2) 反芻家畜におけるインスリン・グルカゴン分泌に対するプロピオン酸の生理的意義
 膵内分泌ホルモンであるインスリンおよびグルカゴンは栄養素代謝を調節する重要なホルモンである。反芻家畜のインスリンおよびグルカゴン分泌調節機構は単胃動物と異なり、揮発性脂肪酸がこれらのホルモン分泌に関与しているが、その生理的意義について明確ではなかった。そこで、第一胃発酵産物の一つであるプロピオン酸に注目し、プロピオン酸塩添加飼料給与、経口投与、第一胃内注入、血液内注入など一連の実験を通してプロピオン酸はインスリンおよびグルカゴン分泌に生理的意義を有する可能性を示した。
(3) グルコースクランプ法による反芻家畜におけるインスリン分泌能および作用の評価
 インスリンは、血糖低下作用によって生体に二次的な影響を及ぼすため、インスリンの機能に関する実験結果の解釈は難しい。グルコースクランプ法は、血糖値をある一定の濃度に保ち、その際の血漿インスリン濃度あるいはインスリン注入に伴う血糖値制御に要するグルコース注入速度からインスリン分泌能およびインスリン作用を評価する研究手法である。そこで、グルコースクランプ法を用い、環境温度、エネルギー給与量、生理状態、動物種などの影響について検討した。その結果、暑熱暴露時にはインスリン分泌能は増加すること、寒冷暴露時にインスリン分泌能は低下するが、インスリン作用は増加することを明らかにした。インスリン分泌能およびインスリン作用は濃厚飼料給与時が粗飼料給与時より高く、飼料エネルギー給与量の増加に伴い高くなること、ホルスタイン種泌乳牛では泌乳時にインスリン分泌能は低下するが、インスリン作用は変化しないこと、ウシおよびヒツジのインスリン分泌能はブタより高く、インスリン作用は著しく低いことなどを示した。以上の結果から反芻家畜のインスリン分泌能および作用は、環境温度や生理状態、さらには栄養や動物種によって変化することを明らかにした。
 これらの研究業績に対し、井上研究奨励賞(1986年)、日本畜産学会奨励賞(1989年)および日本畜産学会賞(1997年)が授与された。
(B)後進の育成
 北里大学および岩手大学在職中、家畜栄養生理学分野を中心に学生教育に携わった。岩手大学では家畜生産生理学研究室を主宰し、数多くの優秀な人材を多方面に輩出した。さらに、11名の学生が農学博士の学位を取得し、家畜栄養生理学などの研究分野で活躍している。
 また、アジア7カ国から計12名の留学生を受け入れ、うち10名が岩手大学大学院連合農学研究科(博士課程)に入学し、全員が同研究科を修了した。このように、アジア諸国における家畜栄養生理学分野の研究者育成に貢献した。
(C)学会活動への貢献
 日本畜産学会関係では、理事、機関誌編集委員会委員、畜産学会賞・奨励賞および功労賞選考委員会委員などを務めた。また、2019年9月に岩手大学で開催された日本畜産学会第126回大会を大会長として主催した。関連学会では、東北畜産学会学会長、評議員、編集委員長、家畜栄養生理研究会評議員などを務めた。