The 129th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 129th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Sep 13 - Sep 16, 2021Tohoku University
The Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science
The 129th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 129th Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Sep 13 - Sep 16, 2021Tohoku University

[MS-03]【講演1】
異分野融合によるアニマルウェルフェア配慮型の家畜管理技術研究

*Ken-ichi Takeda1(1. Shinshu University, Faculty of Agriculture)
【アニマルウェルフェアの社会的動向】わが国でも、アニマルウェルフェア(以下AW)の取り組みが牛歩並みの進み方ではあるものの、着実に浸透してきている。農林水産省では畜産振興課長通知として、2017年と2020年に「AWに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方について」と題した通知を発出し、AWに関する考え方、また既に策定されている「AWの考え方に対応した家畜の飼養管理指針」を参考にした飼育環境の改善を求めている。これまでの普及等に関する取り組みは、対生産者に傾注されてきたが、近年は食品企業にも波及している。
【食品企業の取り組み】外資系食品メーカーは、概ね2025年を目途に、自社で取り扱う畜産品原材料を、AWに配慮された産品を用いると宣言している。ネスレは全世界の全食品の原材料として2025年までにケージフリー卵のみを扱うとしており、日本もその適用範囲に含まれている。スターバックスコーヒーは、AW畜産物の取り扱いを同社の社会的責任と位置づけ、抗生物質の未使用、増体を促すための成長ホルモンの未使用、麻酔使用の有無にかかわらず除角、断尾、去勢への対処、採卵鶏のケージ飼育と妊娠豚のストール飼育の禁止、ブロイラーのAW向上を取り組み事例として掲げている。ちなみに、スターバックスコーヒーでは2020年までに全世界のすべての直営店舗においてケージフリー卵を利用する目標を掲げている。マクドナルド社は、家畜のAWと健康をリンクさせた取り組みが欧米法人で進んでいる。 わが国の食品メーカーに目を転じると、2017年に味の素グループが経営リスク委員会の下部組織としてAWについての検討チームを発足した。2018年には「動物との共生に関するグループポリシー」を制定し、AWの概念に沿った調達の考え方を示した。その後、有識者による「動物との共生」のあり方に関するラウンドテーブルを設置して、AWに関するグループポリシー(2021年4月改訂)を公表した。明治グループやキューピーでは、原料調達方針にAWを示している。雪印メグミルクグループでは、AWの考えが同グループの企業理念とも合致するとし、AWに配慮した取組みに対する生産者支援を行っている。伊藤ハム米久グループは、協力農場のJGAP認証によるAW実践を謳っている。プリマハムグループでは、AWと良質な豚肉生産を両立できる新たな豚舎建設を検討している。日清食品グループでは、飼育鶏の夜間放置(?)をしていないことをAWへの対応と位置づけている。また同社は、持続可能な原材料調達として、代替肉、培養肉への取り組みを加速化している。
【懸念される生産基盤】外資系食品メーカーが目標としている2025年まであと4年。AW畜産物を十分供給できる生産基盤は、まだ整備されていない。TPP11や各国とのEPA/FTA協定が発効される中、我が国におけるAW畜産物の供給体制が未整備だと、供給する畜産物が輸入品にとって代わる可能性がある。すなわち、今のうちにAW生産の基盤整備を進めなければ、国内畜産物の需要先として大きな役割を担っている食品メーカーが輸入畜産物の利用に切り替え、国内の畜産業はさらに脆弱化する懸念がある。
【AWの定義と新しい飼育管理技術】AWとは、動物の生活や死(と殺、安楽死)の状況における肉体的および精神的状態とOIEによって定義されている。ケージフリーや去勢の禁止など、施設や苦痛を伴う管理手技に注目されがちだが、家畜が置かれた飼育環境、その管理手法に対する家畜の反応は多様である。それが故に、家畜の状態把握が重要となり、EUにおけるAW評価では動物ベースでの評価に重点が置かれている。 農家一戸あたりの飼養頭数(羽数)が増加している今日、数少ない管理者で全頭(羽)を監視するには限界がある。そこで、利用が期待されているのがスマート技術である。飼料設計、繁殖管理が精密化されている今、取り残されている分野は管理分野である。  本講演では前述の背景を受けて、スマート技術の活用を中心にして、産官学連携によるアニマルウェルフェアに配慮した精密飼育管理技術研究の一端を紹介する。
【謝辞】本講演で紹介する成果は、生研支援センターによるイノベーション創出研究強化事業「スマート技術を活用した乳肉牛のアニマルウェルフェア対応型の飼育技術の開発」、JST-COI「『サイレントボイスとの共感』地球インクルーシブセンシング研究拠点」、株式会社中嶋製作所より寄贈いただいたナカマチック養鶏研究棟で同社と進めている「アニマルウェルフェアに配慮した肉用鶏飼育管理技術の開発」等によるものである。関係各位に感謝申し上げます。

【略歴】1995年日本獣医畜産大学畜産学科卒業、2000年東北大学大学院農学研究科博士課程修了。2000年より信州大学農学部助手を経て、准教授(現職)。