The 131st Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 131st Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Sep 18 - Sep 21, 2023Obihiro University
The Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science
The 131st Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

The 131st Annual Meeting of Japanese Society of Animal Science

Sep 18 - Sep 21, 2023Obihiro University

[CPS-03]鶏の代謝状態と鶏肉・鶏卵の品質との関連性

*Daichi Ijiri1(1. Kagoshima University)
我が国における畜産をめぐる情勢は, 国際環境の変化(経済連携交渉の進展や飼料原料価格の上昇など)および消費者ニーズの多様化(少子高齢化や健康志向の高まりなど)を受け, 日々刻々と変化している. 今後は, これまで以上に「品質」および「価格」の面で「強みのある畜産物」を安定的に供給することが求められている.
 家畜の生産現場では, 個体の遺伝的能力や飼養環境により家畜の成長速度や乳肉卵などの生産能力に個体差が生じることは周知の事実であるが, 畜産物の品質のばらつきについての研究は, 充分行われているとは言えない. 一方, 畜産物の品質にばらつきが生じる原因の解明は, 市場に出回る畜産物の品質を向上させるための重要な知見となる. 本シンポジウムでは, 夏季の暑熱環境または飼料給与の開始時期が鶏の代謝状態と鶏肉・鶏卵品質に及ぼす影響について紹介する.

1)暑熱感作が鶏肉品質に及ぼす影響
 肉用鶏(チャンキー系Ross308)に暑熱感作(1日あたり35℃で8時間)を2週間行うと, 温条件下で飼育した肉用鶏と比較して, 飼料摂取量の低下や骨格筋重量の減少が認められる. 血液中の低分子代謝産物を網羅的半定量解析した結果, 暑熱感作により核酸(プリン, ピリミジン)代謝やβ-アラニン代謝を含む9種の代謝経路の変動が示唆された. 加えて, 暑熱感作を受けた肉用鶏では, 4℃, 48時間の熟成期間中の鶏肉からのドリップロスの増加と鶏肉中のイミダゾールジペプチド(アンセリン, カルノシン)の減少が認められた.

2)飼料給与の開始時期の違いが鶏肉品質に及ぼす影響
 肉用鶏初生ヒナの孵化後の飼料給与開始時期を2日齢から開始すると, 0日齢から開始した同日齢の鶏と比較して, 出荷体重に達するまでの飼養期間が長くなり, 1羽あたりの総飼料摂取量が多くなった. また, 飼料摂取の開始日齢の違いは鶏肉(ムネ, ササミ, モモ, 手羽)の収量には影響しなかったが, 飼料摂取開始日齢の遅れにより抗酸化酵素の遺伝子発現量の低下, 脂質過酸化物量の増加, ドリップロスの増加, ならびに味覚特性の変化(旨味の低下)が起こることが明らかとなった. また, 血液中の低分子代謝産物を網羅的半定量解析した結果, 飼料給与の開始日齢の違いにより抗酸化物質であるグルタチオンの代謝など15種の代謝経路の変動が示唆された.

3)飼料給与の開始時期の遅れと暑熱感作が鶏卵品質に及ぼす影響
 採卵鶏(ジュリアライト)初生ヒナの孵化後の飼料給与開始時期を2日齢から開始すると, 0日齢から開始した同日齢の鶏と比較して, 育成期間中の体重は軽かったが, 産卵開始日齢および産卵開始時の体重には差が認められなかった. 全個体の産卵率が安定した161日齢から1週間の産卵成績を24±1℃の適温条件下で調べた. 続いて, 産卵成績が同等となるように各区をさらに2群に分け, 片方の群に暑熱感作(1日あたり32±1℃で8時間)を行った. 飼料給与の開始日齢は, 育成期間中の体重に有意な影響を与えたが, 産卵開始日齢および産卵開始時の体重には影響を与えなかった. 飼料給与の開始日齢の違いおよび暑熱感作は, 産卵重量, 産卵率, 飼料要求率には影響しなかったが, 卵形係数, 卵殻厚, 卵殻重量, 卵殻密度を有意に低下させた. 飼料給与を2日齢から開始すると, 血漿中の25-ヒドロキシビタミンD濃度および大腿骨中のカルシウム含量が有意に減少した. 一方, 暑熱感作は, 血漿中の25-ヒドロキシビタミンD量には影響しなかったが, 大腿骨中のカルシウム含量を有意に減少させた.

 以上の結果より, 夏季の暑熱環境または飼料給与の開始時期は, 鶏の生体内の代謝状態を変化させ, 鶏肉・鶏卵の生産性のみならず品質にも影響することが明らかとなった.

【略歴】
2009年3月 筑波大学大学院生命環境科学研究科 修了
2009年4月 安田女子大学薬学部薬学科
2012年1月 鹿児島大学農学部生物資源化学科
2016年4月 鹿児島大学農学部農業生産科学科