[S09-02]Categorization of inland earthquakes in Japan by differential Frequency Index (dFI) and their spatial distribution
*Masahiro KOSUGA1, Takuto MAEDA1, Shinako NOGUCHI2(1. Grad. School Sci. Tech., Hirosaki Univ., 2. ADEP)
1. はじめに
最近,地震波の周波数特性を表すFrequency Index(FI)を用いて低周波地震の識別が行われるようになったことで,日本列島内陸での浅部低周波地震の発生状況が明らかになり,地殻深部も含めた低周波地震全般の発生メカニズムについての研究が進んだ.FIは地震波のスペクトル振幅から求められるので,震源スペクトルの特性や伝播経路の減衰構造の影響を受け,地震のマグニチュード(M)や震源距離に依存する.そのため,FIの空間分布についてはほとんど議論されてこなかった.
一方,震源スペクトルのモデルや応力降下量とコーナー周波数の関係式等を用いると,Mと震源距離に対応する理論的なFIを求めることが可能である.片山・他(2024)は日本海東縁部を対象に,観測FIと理論FIの差(本論ではdifferential FI, dFIと述べる)の空間分布を求めた.ここでは日本列島内陸下の地震を対象に,dFIの深さ分布を基に地震をカテゴリーに分け,各カテゴリーの地震の空間分布について議論する.
2. データと方法
観測FIは,気象庁によって低周波地震のフラグ付けがなされた全国の地震,およびその周辺で発生したM1–4の浅発地震(通常地震)に対して求めた.スペクトルを求める時間ウィンドウはS波到達の0.26 s前からの2.56 s間とし,低周波側は2–4 Hz,高周波側は10–20 Hzの周波数帯域を用いた.波形はHi-net観測点でのデータを用い,S波振幅とP波到達前の波動の振幅比で定義したS/N比が2以上の場合に,水平2成分の平均FI値を求めた.次に,それぞれの観測点で理論FIを計算し,観測値との差をdFIとした.最後に,観測点平均したdFIを地震のdFIとした.
理論FIを求めるには,震源および観測点周辺における均質無限媒質の仮定の下での平均S波速度,応力降下量,Q値を仮定する必要がある.これらの値を,通常地震に対する観測FIと理論FIの残差二乗和が最小になることを条件に,グリッド・サーチにより領域ごとに推定することを試みた.対象領域は,北海道,東北,関東・中部,近畿・中国,九州とした.推定すべきパラメータ間にはトレードオフがあることがわかったので,S波速度の範囲を狭めてパラメータを推定した.推定された応力降下量は東北地方で大きく,関東・中部および九州で小さく,Q値は近畿・中国と九州で大きいといった特徴が見られた.推定されたパラメータを用いて求めたdFIは,震源距離と地震のマグニチュードには依存しないことが確認できた.
3. dFIの空間分布
dFIの深さ分布には地域差があるが,大まかな特徴は共通することがわかった.その分布の特徴から,ここでは地震を4つのカテゴリーに分類した.
(1) カテゴリー1は浅発地震で,特定のdFIと深さの範囲にデータが集中している.dFIの上限はある深さまで上昇し,ピークに達した後は減少し,その形は地殻内の岩石の強度分布を連想させる.dFIの下限は深さとともに上昇し,Q値の深さ依存性を反映していると考えられる.
(2) カテゴリー2はカテゴリー1よりも深部の,いわゆる深部低周波地震である.
(3) カテゴリー3は浅部低周波地震で,カテゴリー1の下限よりもさらに低いdFIをもつ地震群である.カテゴリー1のdFIの下限が明瞭であることから,カテゴリー1と3の地震の発生メカニズムは異なることが示唆される.
(4) カテゴリー4は深部低周波地震の深さ範囲にあるがそれほど低周波ではなく,深部高周波地震とでも呼ぶべき地震群である.このカテゴリーの地震は多くないが,全国的に分布することが明らかになった.
地域ごとの違いとしては以下のようなことが挙げられる.カテゴリー1のdFIの上限がピークとなる深さは,北海道では深く,関東・中部では浅い.また,低周波地震が集中する領域が,関東・中部では深さ10–20 km,近畿・中国では深さ25–35kmにある.一方,九州では特に低周波が卓越する地震は少ない.
震源分布については,カテゴリー1の低周波の地震は,2014年長野県神城断層地震,2016年鳥取県中部地震の震源域や,定常的に地震活動が活発な和歌山などに多く分布する.また,規模の大きな地震が発生した地域では高周波の地震も多いことから,発生する地震の周波数範囲が広いように見える.このように,地震波の周波数特性が地震活動と対応する例が見つかってきた.
4. おわりに
今回はdFIの深さ分布から地震を4つのカテゴリーに分類し,各カテゴリーの地震の空間分布を概観した.分類した地震の分布が,地震波速度構造,重力,地質構造等とどのように対応するかは今後の検討が必要であるが,地震波の周波数を考慮して地震活動が議論できるようになったことから,地震活動の物理的背景についての研究の進展が期待される.
謝辞:本研究では気象庁一元化処理の検測値と震源要素,防災科学技術研究所Hi-net観測点の波形データを使用した.以上の機関に謝意を表する.
最近,地震波の周波数特性を表すFrequency Index(FI)を用いて低周波地震の識別が行われるようになったことで,日本列島内陸での浅部低周波地震の発生状況が明らかになり,地殻深部も含めた低周波地震全般の発生メカニズムについての研究が進んだ.FIは地震波のスペクトル振幅から求められるので,震源スペクトルの特性や伝播経路の減衰構造の影響を受け,地震のマグニチュード(M)や震源距離に依存する.そのため,FIの空間分布についてはほとんど議論されてこなかった.
一方,震源スペクトルのモデルや応力降下量とコーナー周波数の関係式等を用いると,Mと震源距離に対応する理論的なFIを求めることが可能である.片山・他(2024)は日本海東縁部を対象に,観測FIと理論FIの差(本論ではdifferential FI, dFIと述べる)の空間分布を求めた.ここでは日本列島内陸下の地震を対象に,dFIの深さ分布を基に地震をカテゴリーに分け,各カテゴリーの地震の空間分布について議論する.
2. データと方法
観測FIは,気象庁によって低周波地震のフラグ付けがなされた全国の地震,およびその周辺で発生したM1–4の浅発地震(通常地震)に対して求めた.スペクトルを求める時間ウィンドウはS波到達の0.26 s前からの2.56 s間とし,低周波側は2–4 Hz,高周波側は10–20 Hzの周波数帯域を用いた.波形はHi-net観測点でのデータを用い,S波振幅とP波到達前の波動の振幅比で定義したS/N比が2以上の場合に,水平2成分の平均FI値を求めた.次に,それぞれの観測点で理論FIを計算し,観測値との差をdFIとした.最後に,観測点平均したdFIを地震のdFIとした.
理論FIを求めるには,震源および観測点周辺における均質無限媒質の仮定の下での平均S波速度,応力降下量,Q値を仮定する必要がある.これらの値を,通常地震に対する観測FIと理論FIの残差二乗和が最小になることを条件に,グリッド・サーチにより領域ごとに推定することを試みた.対象領域は,北海道,東北,関東・中部,近畿・中国,九州とした.推定すべきパラメータ間にはトレードオフがあることがわかったので,S波速度の範囲を狭めてパラメータを推定した.推定された応力降下量は東北地方で大きく,関東・中部および九州で小さく,Q値は近畿・中国と九州で大きいといった特徴が見られた.推定されたパラメータを用いて求めたdFIは,震源距離と地震のマグニチュードには依存しないことが確認できた.
3. dFIの空間分布
dFIの深さ分布には地域差があるが,大まかな特徴は共通することがわかった.その分布の特徴から,ここでは地震を4つのカテゴリーに分類した.
(1) カテゴリー1は浅発地震で,特定のdFIと深さの範囲にデータが集中している.dFIの上限はある深さまで上昇し,ピークに達した後は減少し,その形は地殻内の岩石の強度分布を連想させる.dFIの下限は深さとともに上昇し,Q値の深さ依存性を反映していると考えられる.
(2) カテゴリー2はカテゴリー1よりも深部の,いわゆる深部低周波地震である.
(3) カテゴリー3は浅部低周波地震で,カテゴリー1の下限よりもさらに低いdFIをもつ地震群である.カテゴリー1のdFIの下限が明瞭であることから,カテゴリー1と3の地震の発生メカニズムは異なることが示唆される.
(4) カテゴリー4は深部低周波地震の深さ範囲にあるがそれほど低周波ではなく,深部高周波地震とでも呼ぶべき地震群である.このカテゴリーの地震は多くないが,全国的に分布することが明らかになった.
地域ごとの違いとしては以下のようなことが挙げられる.カテゴリー1のdFIの上限がピークとなる深さは,北海道では深く,関東・中部では浅い.また,低周波地震が集中する領域が,関東・中部では深さ10–20 km,近畿・中国では深さ25–35kmにある.一方,九州では特に低周波が卓越する地震は少ない.
震源分布については,カテゴリー1の低周波の地震は,2014年長野県神城断層地震,2016年鳥取県中部地震の震源域や,定常的に地震活動が活発な和歌山などに多く分布する.また,規模の大きな地震が発生した地域では高周波の地震も多いことから,発生する地震の周波数範囲が広いように見える.このように,地震波の周波数特性が地震活動と対応する例が見つかってきた.
4. おわりに
今回はdFIの深さ分布から地震を4つのカテゴリーに分類し,各カテゴリーの地震の空間分布を概観した.分類した地震の分布が,地震波速度構造,重力,地質構造等とどのように対応するかは今後の検討が必要であるが,地震波の周波数を考慮して地震活動が議論できるようになったことから,地震活動の物理的背景についての研究の進展が期待される.
謝辞:本研究では気象庁一元化処理の検測値と震源要素,防災科学技術研究所Hi-net観測点の波形データを使用した.以上の機関に謝意を表する.
