[S09-09]Hypocenter Distribution and Migration preceding the 2021 M6.0 Ibaraki-Oki Earthquake Based on S-net Data
*Yoshiaki Matsumoto1, Keisuke Yoshida1, Naoki Uchida1, Ryota Hino1(1. Tohoku University)
茨城県沖プレート境界では,M6-7クラスの地震に先行して,度々前震活動が観測されている (例えば,Nishikawa & Ide, 2018).2021年8月4日のM 6.0 地震についても,発生の約1日前から前震活動を確認できる.気象庁一元化震源によると,前震活動は,上盤プレート内とプレート境界付近にわかれて分布している.しかし,震央位置が最寄りの観測点から約20 km離れており,震源決定誤差が大きいために、この分布は実状を表していない可能性がある.東北日本の沖合では, 2016年からS-net観測網による海底地震計のデータが利用可能になり,2020年以降の気象庁一元化震源にも利用されている.しかし,S-netデータによりどの程度震源決定精度が向上したのかを詳細に評価した先行研究は少ない.本研究では,最初に S-net データによる震源決定の信頼性を検証したのち,相対震源決定により震源分布の信頼度を向上させ,2021年M6.0茨城県沖地震をトリガーしたメカニズムを調べる.
震源決定の不確定性の評価には相似地震を利用した.相似地震を抽出するために,対象領域に近いHi-net観測点 (N.TYOH) の観測波形の相互相関を計算した.2003/03/08 – 2024/3/31に発生したイベントを対象に,2-5 Hzバンドパスフィルターを適用した28秒間の上下動成分の波形を用いて,相互相関係数が 0.98 以上を満たすペアを相似地震とみなし,グルーピングした.計算の結果,20個のイベントを含む相似地震グループを特定し,それらについて,S-net データを用いて推定した観測点補正値 (Matsumoto et al., 2024JpGU) を使用した震源決定を行った.その結果,S-netデータが使用できない相似地震の震源は,東西方向に約20 km広がり、深さ方向には10 – 70 km の範囲に散らばった分布を示した.震源決定時の残差に基づき,観測点分布の違いによる震源の不確定性を調べたところ,S-net データが使用できない期間の地震については,震央の東西の抑えが効かず,深さに関してはほとんど拘束できないことがわかった.一方,S-net データを用いたイベントについては,震央位置を5 km以下に拘束できた.しかしながら,最寄りのS-net観測点からおよそ20 km離れるため,この場合にも,震央に比べて深さの不確実性が大きい (約20 km)結果が得られた.
震源の相対位置の精度を向上させる目的で,S-net データが利用可能な期間の地震 (2020/9/1 - 2024/3/31のM≧1.5の3021イベント)を対象に DD法 (Waldhauser & Ellsworth, 2000) による震源決定を行った.この結果,気象庁一元化震源で二つのクラスターに分かれていた震源は,プレート境界に平行な一枚の面上に集中した.これらの地震のF-netのメカニズム解は低角逆断層型を示し,節面と震源の並びから,各地震がプレート境界上で発生したことが示唆される.震源再決定後,近くに位置するイベントペア間の距離と観測波形の相互相関係数の間の相関もより明瞭になった.このことも,DD法により震源間の相対位置精度が向上したことを支持する.
2021年M6.0茨城沖地震の約30時間前から発生した前震活動もプレート境界に沿って分布しており,その活動は本震震源から約 7km updip側から始まり,その後本震震源の方に向かって拡大した.この震源 migration は,その活動の背後に存在する非地震的なメカニズム(流体移動,非地震性すべり等)を反映している可能性が高い.今回の前震の migration のパターンは,内陸地殻内で発生した鹿児島湾の M5.3地震の前震活動 (Matsumoto et al., 2021)のそれと類似しているが,鹿児島湾でのmigration速度が約 0.1 km/day であったのに対して,今回の前震活動の migration速度は約 10 km/day と約2桁高い.この傾向は,プレート境界の Permeabilityが地殻内断層のそれより遥かに大きいことを意味するのかもしれない.一方,今回得られた速度は,沈み込み帯プレート境界型巨大地震の発生前に観測された地震活動 (例えば,Kato et al., 2012)や,非地震性すべりにより誘発されたと考えられている群発地震活動のそれと類似する (例えば,Lohman & McGuire, 2007).Nishikawa et al. (2023) は,2021年茨城沖地震の前震活動に先行する短期的 SSE や tectonic tremor を検出している.断層すべりと高圧流体の拡散が相互作用する可能性があり (Yamashita et al., 2017),非地震性すべりの伝播や流体移動,あるいはその両方が2021年茨城沖地震の前震震源migrationに関与したことが示唆される.
震源決定の不確定性の評価には相似地震を利用した.相似地震を抽出するために,対象領域に近いHi-net観測点 (N.TYOH) の観測波形の相互相関を計算した.2003/03/08 – 2024/3/31に発生したイベントを対象に,2-5 Hzバンドパスフィルターを適用した28秒間の上下動成分の波形を用いて,相互相関係数が 0.98 以上を満たすペアを相似地震とみなし,グルーピングした.計算の結果,20個のイベントを含む相似地震グループを特定し,それらについて,S-net データを用いて推定した観測点補正値 (Matsumoto et al., 2024JpGU) を使用した震源決定を行った.その結果,S-netデータが使用できない相似地震の震源は,東西方向に約20 km広がり、深さ方向には10 – 70 km の範囲に散らばった分布を示した.震源決定時の残差に基づき,観測点分布の違いによる震源の不確定性を調べたところ,S-net データが使用できない期間の地震については,震央の東西の抑えが効かず,深さに関してはほとんど拘束できないことがわかった.一方,S-net データを用いたイベントについては,震央位置を5 km以下に拘束できた.しかしながら,最寄りのS-net観測点からおよそ20 km離れるため,この場合にも,震央に比べて深さの不確実性が大きい (約20 km)結果が得られた.
震源の相対位置の精度を向上させる目的で,S-net データが利用可能な期間の地震 (2020/9/1 - 2024/3/31のM≧1.5の3021イベント)を対象に DD法 (Waldhauser & Ellsworth, 2000) による震源決定を行った.この結果,気象庁一元化震源で二つのクラスターに分かれていた震源は,プレート境界に平行な一枚の面上に集中した.これらの地震のF-netのメカニズム解は低角逆断層型を示し,節面と震源の並びから,各地震がプレート境界上で発生したことが示唆される.震源再決定後,近くに位置するイベントペア間の距離と観測波形の相互相関係数の間の相関もより明瞭になった.このことも,DD法により震源間の相対位置精度が向上したことを支持する.
2021年M6.0茨城沖地震の約30時間前から発生した前震活動もプレート境界に沿って分布しており,その活動は本震震源から約 7km updip側から始まり,その後本震震源の方に向かって拡大した.この震源 migration は,その活動の背後に存在する非地震的なメカニズム(流体移動,非地震性すべり等)を反映している可能性が高い.今回の前震の migration のパターンは,内陸地殻内で発生した鹿児島湾の M5.3地震の前震活動 (Matsumoto et al., 2021)のそれと類似しているが,鹿児島湾でのmigration速度が約 0.1 km/day であったのに対して,今回の前震活動の migration速度は約 10 km/day と約2桁高い.この傾向は,プレート境界の Permeabilityが地殻内断層のそれより遥かに大きいことを意味するのかもしれない.一方,今回得られた速度は,沈み込み帯プレート境界型巨大地震の発生前に観測された地震活動 (例えば,Kato et al., 2012)や,非地震性すべりにより誘発されたと考えられている群発地震活動のそれと類似する (例えば,Lohman & McGuire, 2007).Nishikawa et al. (2023) は,2021年茨城沖地震の前震活動に先行する短期的 SSE や tectonic tremor を検出している.断層すべりと高圧流体の拡散が相互作用する可能性があり (Yamashita et al., 2017),非地震性すべりの伝播や流体移動,あるいはその両方が2021年茨城沖地震の前震震源migrationに関与したことが示唆される.
