[S20-04][Invited]Statistical Seismological Study on the Activity of Earthquakes and Slow Earthquakes in Subduction Zones
*Tomoaki NISHIKAWA1(1. Disaster Prevention Research Institute, Kyoto University)
沈み込み帯では、多種多様な地震とスロー地震が発生する。これらの地震現象の活動を理解することは、将来発生する地震を予測する上で極めて重要である。我々は、これまで、世界各地の沈み込み帯を対象として、そこで発生する地震とスロー地震の活動の解明と、その特徴の理解に一貫して取り組んできた。本発表では、これまでに得られた下記の3つの顕著な成果を紹介する。
沈み込み帯において発生する地震の規模を決めるものは何か?これは、地震活動に関する最も基本的かつ重要な問いである。我々は、この問いに答えるべく、沈み込み帯で発生する地震の規模別頻度分布(特にグーテンベルグ・リヒター則のb値)が、どのような沈み込み帯の特徴量(プレートの収束速度、沈み込むプレートの年齢等)と相関するのか世界的に調査した(Nishikawa & Ide, 2014)。ここで、グーテンベルグ・リヒター則のb値とは、地震の規模別頻度分布の冪指数であり、統計地震学の最も基本的な指標である。
解析の結果、沈み込み帯のグーテンベルグ・リヒター則のb値は、主に沈み込むプレートの年齢に依存することが明らかとなった。b値とプレートの年齢は正の相関を示し、沈み込むプレートが古いほど、b値は大きく、小地震が発生する割合が大きい。逆に、沈み込むプレートが新しいほど、b値は小さく、大地震が発生する割合が大きい。プレートテクトニクスにおいて、プレートの年齢は、プレートの浮力を決定する重要な特徴量である。これを踏まえると、本研究の結果は、大きな浮力をもつプレートが沈み込む地域ほど、大地震が発生する割合が大きいことを示す。つまり、本研究は、沈み込むプレートの浮力が、沈み込み帯において発生する地震の規模別頻度分布を決めていること示唆する。その後、我々とは別の複数の研究グループによって、同様の解析が行われ、いずれも本研究と整合的な結果が報告されている(Bilek & Lay, 2018; Petruccelli et al., 2019)。
我々は、スロー地震の活動の解明にも注力してきた。特に、日本海溝沈み込み帯において顕著な成果を得た。西南日本の南海トラフ沈み込み帯におけるスロー地震研究の急速な進展とは対照的に、東日本の日本海溝沈み込み帯では、スロー地震活動の詳細は長らく不明であった。我々は、日本海溝海底地震津波観測網S-net、広帯域地震観測網F-net、GNSS連続観測システムGEONET等の陸海域の地震測地観測網のデータ解析と統計地震学的解析を通して、日本海溝沿いのスロー地震の活動の詳細な解明に取り組んだ。具体的には、三種類のスロー地震(テクトニック微動、超低周波地震、スロースリップイベント)を検出し、スロー地震と関連する二種類の地震(繰り返し地震、群発地震)の活動を調査した(Nishikawa et al., 2019)。本研究のような、多種多様な地震とスロー地震の活動を対象とした総合的地震活動研究は、世界的にも珍しい。
解析の結果、スロー地震と、その関連現象は、日本海溝沿いで発生した超巨大地震(東北地方太平洋沖地震)の大滑り域を南北から挟み込むように頻繁に発生していたことが、明らかとなった。これらの観測結果は、日本海溝北部(岩手県沖)と南部(茨城県沖)には、広大なスロー地震発生帯が存在しており、東北地方太平洋沖地震はスロー地震の活動が比較的低調である日本海溝中部のみを破壊し、北部と南部の広大なスロー地震発生帯を破壊することなく停止したことを示唆する。これは、超巨大地震の破壊停止プロセスに関する極めて重要な知見である。さらに、我々は、上記の研究の遂行過程で得た膨大な知見をレビュー論文にまとめた(Nishikawa et al., 2023)。このレビュー論文が、日本海溝沈み込み帯における今後の地震研究の知識的基盤となることを期待する。
近年、我々は、地震とスロー地震の活動をともに考慮することで、統計地震学的モデルを改良することにも取り組んでいる。ETASモデル(Ogata, 1988)は、地震活動の世界標準モデルであるが、スロー地震が地震の活動に及ぼす影響は考慮していない。地震とスロー地震の活動の関連性が明確になった現在では、ETASモデルを、スロー地震の効果を考慮したモデルへとアップデートする必要がある。そこで、我々は、スロー地震の中でも特にスロースリップイベントに伴う地震活動活発化の効果を、ETASモデルに初めて明示的に組み込んだ。そして、新たなモデルを、ニュージーランド・ヒクランギ沈み込み帯の地震活動に適用し、その有用性を確認した(Nishikawa & Nishimura, 2023)。これは、統計地震学の新たな発展の方向性を提示する成果であると考えている。
沈み込み帯において発生する地震の規模を決めるものは何か?これは、地震活動に関する最も基本的かつ重要な問いである。我々は、この問いに答えるべく、沈み込み帯で発生する地震の規模別頻度分布(特にグーテンベルグ・リヒター則のb値)が、どのような沈み込み帯の特徴量(プレートの収束速度、沈み込むプレートの年齢等)と相関するのか世界的に調査した(Nishikawa & Ide, 2014)。ここで、グーテンベルグ・リヒター則のb値とは、地震の規模別頻度分布の冪指数であり、統計地震学の最も基本的な指標である。
解析の結果、沈み込み帯のグーテンベルグ・リヒター則のb値は、主に沈み込むプレートの年齢に依存することが明らかとなった。b値とプレートの年齢は正の相関を示し、沈み込むプレートが古いほど、b値は大きく、小地震が発生する割合が大きい。逆に、沈み込むプレートが新しいほど、b値は小さく、大地震が発生する割合が大きい。プレートテクトニクスにおいて、プレートの年齢は、プレートの浮力を決定する重要な特徴量である。これを踏まえると、本研究の結果は、大きな浮力をもつプレートが沈み込む地域ほど、大地震が発生する割合が大きいことを示す。つまり、本研究は、沈み込むプレートの浮力が、沈み込み帯において発生する地震の規模別頻度分布を決めていること示唆する。その後、我々とは別の複数の研究グループによって、同様の解析が行われ、いずれも本研究と整合的な結果が報告されている(Bilek & Lay, 2018; Petruccelli et al., 2019)。
我々は、スロー地震の活動の解明にも注力してきた。特に、日本海溝沈み込み帯において顕著な成果を得た。西南日本の南海トラフ沈み込み帯におけるスロー地震研究の急速な進展とは対照的に、東日本の日本海溝沈み込み帯では、スロー地震活動の詳細は長らく不明であった。我々は、日本海溝海底地震津波観測網S-net、広帯域地震観測網F-net、GNSS連続観測システムGEONET等の陸海域の地震測地観測網のデータ解析と統計地震学的解析を通して、日本海溝沿いのスロー地震の活動の詳細な解明に取り組んだ。具体的には、三種類のスロー地震(テクトニック微動、超低周波地震、スロースリップイベント)を検出し、スロー地震と関連する二種類の地震(繰り返し地震、群発地震)の活動を調査した(Nishikawa et al., 2019)。本研究のような、多種多様な地震とスロー地震の活動を対象とした総合的地震活動研究は、世界的にも珍しい。
解析の結果、スロー地震と、その関連現象は、日本海溝沿いで発生した超巨大地震(東北地方太平洋沖地震)の大滑り域を南北から挟み込むように頻繁に発生していたことが、明らかとなった。これらの観測結果は、日本海溝北部(岩手県沖)と南部(茨城県沖)には、広大なスロー地震発生帯が存在しており、東北地方太平洋沖地震はスロー地震の活動が比較的低調である日本海溝中部のみを破壊し、北部と南部の広大なスロー地震発生帯を破壊することなく停止したことを示唆する。これは、超巨大地震の破壊停止プロセスに関する極めて重要な知見である。さらに、我々は、上記の研究の遂行過程で得た膨大な知見をレビュー論文にまとめた(Nishikawa et al., 2023)。このレビュー論文が、日本海溝沈み込み帯における今後の地震研究の知識的基盤となることを期待する。
近年、我々は、地震とスロー地震の活動をともに考慮することで、統計地震学的モデルを改良することにも取り組んでいる。ETASモデル(Ogata, 1988)は、地震活動の世界標準モデルであるが、スロー地震が地震の活動に及ぼす影響は考慮していない。地震とスロー地震の活動の関連性が明確になった現在では、ETASモデルを、スロー地震の効果を考慮したモデルへとアップデートする必要がある。そこで、我々は、スロー地震の中でも特にスロースリップイベントに伴う地震活動活発化の効果を、ETASモデルに初めて明示的に組み込んだ。そして、新たなモデルを、ニュージーランド・ヒクランギ沈み込み帯の地震活動に適用し、その有用性を確認した(Nishikawa & Nishimura, 2023)。これは、統計地震学の新たな発展の方向性を提示する成果であると考えている。
