[S20-06][Invited]Studies focusing on heterogeneity and uncertainty of subsurface structures through computational science and Bayesian methods
*Ryoichiro AGATA1(1. JAMSTEC)
地震現象を定量的に理解する上でボトルネックとなっているのは、地下構造の不均質性と不確実性である。しかし、従来の研究では、定式化の困難さや計算コストの問題により、これらの効果は無視されるか、考慮された場合でも限定的かつ近似的であった。講演者は、このボトルネックに対処すべく、計算科学、データ科学、機械学習の有用性に着目して研究を進めてきた。本講演では、このような着想に至った経緯に言及しつつ、講演者のこれまでの研究活動について紹介する。
1.地下構造の3次元不均質性を考慮した地殻変動・地震動モデリング
海溝型巨大地震等における断層すべりの空間分布、非地震時のひずみ蓄積過程、地震後の余効変動の成因等を明らかにするため、地下構造の3次元不均質性を考慮した精度の良い地殻変動モデリングを行うことが重要である。このようなモデリングに伴う計算コストを克服するため、大規模並列計算による地殻変動の有限要素解析に取り組み、断層すべり・地下構造パラメータ推定のための逆解析手法への拡張を行った(Agata+2016CAGEO,2018GJI)。さらに、地下物性の不均質性と非線形性に着目し、2011年東北地方太平洋沖地震後に観測された急激な余効変動の原因を明らかにするための順モデリングに取り組んだ。アセノスフェアが温度依存べき乗粘弾性構成則に従うと仮定した数値シミュレーションにより、地殻変動観測データから示唆されていたリソスフェア・アセノスフェア境界の低粘性領域が、地震に伴う応力変化による一時的な粘性低下によるものである可能性を指摘した(Agata+2019NatComms)。また、日本列島の3次元不均質モデルに基づく地殻変動データからの断層すべり逆解析を誰でも気軽に行えるよう、地殻変動の単位断層すべり応答関数を東北・西南日本について計算し、グリーン関数ライブラリとして公開した(Hori,Agata+2021EPS)。
2.地下構造モデルの不確実性を考慮した有限断層インバージョン手法の開発
1に取り組む中で、地下構造の3次元不均質構造モデルを妥当に設定することの困難さに直面した。そこで、構造モデル設定の任意性を、不確実性の定量的情報という形で地震現象のモデリングと有限断層インバージョンに反映させることを試みた。一般的な有限断層インバージョンは、地下構造が不確かな中で、地下構造の媒質モデルを前もって一つ仮定して実施される。このことは推定結果にバイアスを生じる原因となりうる。従来の研究では、データの共分散成分にモデリング誤差を導入することで、近似的にこの問題に対処してきた。これに対して、「不確かな地下構造」を多数のモデルからなるアンサンブルにより丸ごと表現することで、この問題をより直接的に解決し、「一つの地下構造モデル」の仮定を必要としない新しい有限断層インバージョン手法を構築した(Agata+2021GJI)。さらに、本手法をマルチモデルベイズ推定として実データ解析用に発展させ、豊後水道で発生した長期的スロー地震の断層すべりと応力変化を推定した。長期的スロー地震によって応力が高まっている領域で深部微動が発生していることが示唆された(Agata+2022JGR)。
3.地下構造モデルの不確実性を定量化する手法の開発
2の研究は、単純な地下構造モデルと不確実性の大まかな仮定に根差している。1と組み合わせた本格的な適用のためには、地下構造モデルとその不確実性自体をデータから推定することが必要となる。そこで、偏微分方程式に基づく逆解析に対して有用な新解法として注目されるPhysics-informed neural network(PINN)に着目し、地震探査などによる走時データから地下の地震波速度構造を推定するトモグラフィに着手した。逆問題としてのPINN解の不確実性についての実用的な研究事例はほとんどなかったため、PINNとベイズ推定を融合した新たな手法を構築し、トモグラフィの不確実性定量化を可能とした(Agata+2023IEEE-TGRS)。さらに、本手法を南海トラフ域の海域地震探査データに適用してP波速度構造をアンサンブル推定し、2で開発したマルチモデルベイズ推定の入力とし、2016年Mw5.9三重県南東沖地震の震源決定を行った。これにより、震源決定において不確かな地下構造を前提とすることの重要性を確認した(Agata+, under review)。このように、初歩的な段階ではあるが、1・2・3の融合を実現しつつある。これらの研究をさらに推し進めるため、PINNを包含する、機械学習と科学技術計算・科学データ解析の融合による新しい学術分野Scientific machine learning(SciML)に大きな期待を寄せており、講演ではその期待についても言及する。
1.地下構造の3次元不均質性を考慮した地殻変動・地震動モデリング
海溝型巨大地震等における断層すべりの空間分布、非地震時のひずみ蓄積過程、地震後の余効変動の成因等を明らかにするため、地下構造の3次元不均質性を考慮した精度の良い地殻変動モデリングを行うことが重要である。このようなモデリングに伴う計算コストを克服するため、大規模並列計算による地殻変動の有限要素解析に取り組み、断層すべり・地下構造パラメータ推定のための逆解析手法への拡張を行った(Agata+2016CAGEO,2018GJI)。さらに、地下物性の不均質性と非線形性に着目し、2011年東北地方太平洋沖地震後に観測された急激な余効変動の原因を明らかにするための順モデリングに取り組んだ。アセノスフェアが温度依存べき乗粘弾性構成則に従うと仮定した数値シミュレーションにより、地殻変動観測データから示唆されていたリソスフェア・アセノスフェア境界の低粘性領域が、地震に伴う応力変化による一時的な粘性低下によるものである可能性を指摘した(Agata+2019NatComms)。また、日本列島の3次元不均質モデルに基づく地殻変動データからの断層すべり逆解析を誰でも気軽に行えるよう、地殻変動の単位断層すべり応答関数を東北・西南日本について計算し、グリーン関数ライブラリとして公開した(Hori,Agata+2021EPS)。
2.地下構造モデルの不確実性を考慮した有限断層インバージョン手法の開発
1に取り組む中で、地下構造の3次元不均質構造モデルを妥当に設定することの困難さに直面した。そこで、構造モデル設定の任意性を、不確実性の定量的情報という形で地震現象のモデリングと有限断層インバージョンに反映させることを試みた。一般的な有限断層インバージョンは、地下構造が不確かな中で、地下構造の媒質モデルを前もって一つ仮定して実施される。このことは推定結果にバイアスを生じる原因となりうる。従来の研究では、データの共分散成分にモデリング誤差を導入することで、近似的にこの問題に対処してきた。これに対して、「不確かな地下構造」を多数のモデルからなるアンサンブルにより丸ごと表現することで、この問題をより直接的に解決し、「一つの地下構造モデル」の仮定を必要としない新しい有限断層インバージョン手法を構築した(Agata+2021GJI)。さらに、本手法をマルチモデルベイズ推定として実データ解析用に発展させ、豊後水道で発生した長期的スロー地震の断層すべりと応力変化を推定した。長期的スロー地震によって応力が高まっている領域で深部微動が発生していることが示唆された(Agata+2022JGR)。
3.地下構造モデルの不確実性を定量化する手法の開発
2の研究は、単純な地下構造モデルと不確実性の大まかな仮定に根差している。1と組み合わせた本格的な適用のためには、地下構造モデルとその不確実性自体をデータから推定することが必要となる。そこで、偏微分方程式に基づく逆解析に対して有用な新解法として注目されるPhysics-informed neural network(PINN)に着目し、地震探査などによる走時データから地下の地震波速度構造を推定するトモグラフィに着手した。逆問題としてのPINN解の不確実性についての実用的な研究事例はほとんどなかったため、PINNとベイズ推定を融合した新たな手法を構築し、トモグラフィの不確実性定量化を可能とした(Agata+2023IEEE-TGRS)。さらに、本手法を南海トラフ域の海域地震探査データに適用してP波速度構造をアンサンブル推定し、2で開発したマルチモデルベイズ推定の入力とし、2016年Mw5.9三重県南東沖地震の震源決定を行った。これにより、震源決定において不確かな地下構造を前提とすることの重要性を確認した(Agata+, under review)。このように、初歩的な段階ではあるが、1・2・3の融合を実現しつつある。これらの研究をさらに推し進めるため、PINNを包含する、機械学習と科学技術計算・科学データ解析の融合による新しい学術分野Scientific machine learning(SciML)に大きな期待を寄せており、講演ではその期待についても言及する。
