[S20-08][Invited]Elucidation of interplate slip behaviors in a subduction zone based on seafloor geodetic observations
*Fumiaki TOMITA1(1. IRIDeS, Tohoku University)
沈み込み帯プレート境界では,プレート間固着に加えて,多様なすべり現象(大小様々な規模のプレート間地震・スロー地震・ゆっくりすべりなど)が発生する.これらの現象を精密に捉え,その背後にあるメカニズムを追究することが「地震」という現象を理学的に解明し,かつ社会に影響を与える地震・津波ハザードを評価する上で重要であると考える.こうした究極的な目標の達成には様々な観測・理論・モデルを要するが,まずはどのような現象が現在起きているかを精密に捉えることが全ての第一歩になると考える.2011年東北沖地震をはじめとした沈み込み帯プレート境界での断層すべり現象の多くは海底下が発生源となるため海域観測が重要となる.海域観測の中でも,著者は GNSS音響測位による海底測地観測に注力して研究を進め,[1] 海底測地観測の実施・測位の高精度化による海底変位の検出,[2] 海底測地観測データの特性を生かした断層すべり推定手法の開発,を通して沈み込み帯プレート境界での断層すべり現象の解明に努めてきた.
[1] GNSS音響測位による海底測地観測の実施と測位解析手法の高精度化に従事した。主な観測成果としては,2011年東北沖地震後の海底での広域の地殻変動場を検出し,地震時主破壊域での粘弾性緩和による西向き,福島沖海溝近傍での余効すべりによると考えられる東向きの変動がそれぞれ現れることを明らかにした(Tomita+, 2017, Sci. Adv.).また,近年では複雑な海中音速構造を仮定したGNSS-A測位手法の開発により測位精度の向上を図るとともに,開発した手法をオープンソースソフトウェアとして公開した(Tomita & Kido, 2024, EPS).公開しているプログラムは,海中音速構造について時間変化しない単傾斜構造を仮定しているが,ベイズ推定により多様な事前分布を取り入れる改良を行い,時間変化や多層傾斜構造を取り入れた解析やそれらに様々な拘束条件を与えて解析手法を現在考案している(Tomita, 2024, Res. Squ.).
[2] 著者はこれまで2つの断層すべりインバージョン手法を開発し,海域観測データの持つ情報を適切に引き出す試みを行なってきた.まず,粘弾性グリーン関数を断層すべりインバージョンに導入することで,地震後の測地観測データから地震時すべり分布の拘束が可能となることを示した.これを[1]で示した海域観測データを含む2011年東北沖地震時・地震後の地殻変動データに適用したところ,GNSS音響測位で得られた西向き変動範囲の北限から,従来求められていたよりも北側に延びた地震時すべり分布が推定された(Tomita+, 2020, EPS).これは,地震後に設置した海底測地観測データが地震時の観測データのみでは解像できなかった海溝近傍でのすべりを,粘弾性緩和を介して検出できたためである.また,海域観測データを適切に扱うための,断層すべりにおける小断層配置の最適化にも取り組んでいる.海底測地観測データ,特にGNSS音響測位によって得られた観測データは,陸上のGNSS測位の成果と比べると概して空間的に観測網が疎でありかつ観測精度が低いが,シグナルそのものは大きいという特徴がある.こうした海陸の観測データを統合して断層すべり分布を推定する場合,プレート境界断層面でのすべりの解像度が空間的に大きく異なってしまう.そのため,一般的なすべりの平滑化条件(空間的に均等な小断層配置に対して一様なすべり平滑化条件を課す場合など)ではすべり解像度の空間不均質性に対応できず,「小断層配置の最適化」や「すべり平滑化の空間不均質」を考慮する必要がある.著者は,Trans-dimensional inversion (TDI)法を応用し,小断層配置をボロノイセルで表現し,その最適化を図った(Tomita+, 2021, JGR).すべりパラメータがすべりの上限・下限を課したボックスカー型の一様分布に従うことを仮定した事前分布を与えており,それがなるべく少ないボロノイセルですべりを表現するスパースモデリングの効果をもたらしている.TDI法における事前分布の与え方はまだまだ検討の余地があり,様々な特性を持つ地球物理データに対して応用できる可能性がある.
以上のように, 著者はGNSS音響測位による海底測地観測自体の発展と,その観測データの持つ情報を適切に引き出すモデリング研究を進めてきており,今後はこれらの研究のさらなる加速,東北沖以外の観測領域への適用,新たなモデリングアプローチの開拓に取り組み,より地震学に貢献していきたい.
[1] GNSS音響測位による海底測地観測の実施と測位解析手法の高精度化に従事した。主な観測成果としては,2011年東北沖地震後の海底での広域の地殻変動場を検出し,地震時主破壊域での粘弾性緩和による西向き,福島沖海溝近傍での余効すべりによると考えられる東向きの変動がそれぞれ現れることを明らかにした(Tomita+, 2017, Sci. Adv.).また,近年では複雑な海中音速構造を仮定したGNSS-A測位手法の開発により測位精度の向上を図るとともに,開発した手法をオープンソースソフトウェアとして公開した(Tomita & Kido, 2024, EPS).公開しているプログラムは,海中音速構造について時間変化しない単傾斜構造を仮定しているが,ベイズ推定により多様な事前分布を取り入れる改良を行い,時間変化や多層傾斜構造を取り入れた解析やそれらに様々な拘束条件を与えて解析手法を現在考案している(Tomita, 2024, Res. Squ.).
[2] 著者はこれまで2つの断層すべりインバージョン手法を開発し,海域観測データの持つ情報を適切に引き出す試みを行なってきた.まず,粘弾性グリーン関数を断層すべりインバージョンに導入することで,地震後の測地観測データから地震時すべり分布の拘束が可能となることを示した.これを[1]で示した海域観測データを含む2011年東北沖地震時・地震後の地殻変動データに適用したところ,GNSS音響測位で得られた西向き変動範囲の北限から,従来求められていたよりも北側に延びた地震時すべり分布が推定された(Tomita+, 2020, EPS).これは,地震後に設置した海底測地観測データが地震時の観測データのみでは解像できなかった海溝近傍でのすべりを,粘弾性緩和を介して検出できたためである.また,海域観測データを適切に扱うための,断層すべりにおける小断層配置の最適化にも取り組んでいる.海底測地観測データ,特にGNSS音響測位によって得られた観測データは,陸上のGNSS測位の成果と比べると概して空間的に観測網が疎でありかつ観測精度が低いが,シグナルそのものは大きいという特徴がある.こうした海陸の観測データを統合して断層すべり分布を推定する場合,プレート境界断層面でのすべりの解像度が空間的に大きく異なってしまう.そのため,一般的なすべりの平滑化条件(空間的に均等な小断層配置に対して一様なすべり平滑化条件を課す場合など)ではすべり解像度の空間不均質性に対応できず,「小断層配置の最適化」や「すべり平滑化の空間不均質」を考慮する必要がある.著者は,Trans-dimensional inversion (TDI)法を応用し,小断層配置をボロノイセルで表現し,その最適化を図った(Tomita+, 2021, JGR).すべりパラメータがすべりの上限・下限を課したボックスカー型の一様分布に従うことを仮定した事前分布を与えており,それがなるべく少ないボロノイセルですべりを表現するスパースモデリングの効果をもたらしている.TDI法における事前分布の与え方はまだまだ検討の余地があり,様々な特性を持つ地球物理データに対して応用できる可能性がある.
以上のように, 著者はGNSS音響測位による海底測地観測自体の発展と,その観測データの持つ情報を適切に引き出すモデリング研究を進めてきており,今後はこれらの研究のさらなる加速,東北沖以外の観測領域への適用,新たなモデリングアプローチの開拓に取り組み,より地震学に貢献していきたい.
