[S20-09][Invited]High-performance and multifunctional tsunami simulation code: JAGURS
*Toshitaka BABA1, Kenji Satake2, Phil R. Cummins3, Sebastien Allgeyer3, Tatsuhiko Saito4, Hiroaki Tsushima5, Kentaro Imai6, Kei Yamashita7, Naotaka Chikasada4, Masaaki Minami5, Ayumu Mizutani8, Toshihiro Kato9(1. Tokushima University, 2. Earthquake Research Institute, the University of Tokyo, 3. Australian National University, 4. NIED, 5. MRI, 6. JAMSTEC, 7. then at Tohoku University, now at Nuclear Regulation Agency, 8. Tohoku University, 9. NEC)
津波シミュレーションコードJAGURSは,地震学会に所属する津波研究者および海外の研究者がこれまでに開発した計算モジュールを融合させる形で共同開発しているオープンソースである.津波ハザードマップの作成に使われる一般の津波モデルと比較して格段に高精度な解析が可能である.津波計算には,非粘性の3次元流体の支配方程式であるオイラーの式から非圧縮と長波の近似を用いて導出される平面2次元のモデルが用いられる.平面2次元のモデルはさらに,線形長波式,非線形長波式,線形分散波式,非線形分散波式の4つに区別される.断層のすべり分布の推定には津波の線形性を利用した線形インバージョンがよく利用されるが,ここには線形長波式,あるいは,線形分散波式が用いられる.津波の陸上への遡上計算には非線形性が無視できないため,非線形長波式が用いられる.長波式ではすべての波長の津波が一定の速度で進行するが,実際には津波の波長が短くなると波速が遅くなるので,これを補正するために線形/非線形分散波式を利用する.遠地津波に関しては,2011年東北地方太平洋沖地震の津波の走時が線形長波からの計算値よりも遅れたのは固体地球とのカップリングの効果によることや,2022年トンガ火山津波の際には大気圧変動によって津波が励起されるなど,最近新たな発見があった.JAGURSはこれらのすべてを扱うことができる有限差分法のコードであり,少なくとも遠地津波のシミュレーションにおいては,世界で最も優れたソフトウェアである.また,ノートPCで利用できる汎用性の高いコードであるとともに,MPIおよびOpenMPを用いて高度に並列化されスーパーコンピュータでもよく稼働する.並列化と近年の計算機の発展により大規模な計算が可能となり,津波研究の進展を支えている.例えば,JAGURSと高性能計算機を利用すれば,1万におよぶ津波シナリオ計算が可能で,その計算結果は機械学習や深層学習の教師データとして利用することもできるし,不確実性の高い津波現象において必須な確率論的なハザード評価を実現する. 2016年の完全オープンソース化以降,国内外で広く利用されている.高精度な津波計算を実現している点に加えて,ユーザーマニュアルも日本語,英語ともに整備しており,国内外の大学院生などの初学者も多く利用している.JAGURSを利用して研究を開始した学生が,JAGURSを基礎としてより高度なモデルを自ら開発し,秀でた研究成果を上げている例もいくつもある.さらに,津波研究の枠組みを超え,地震波シミュレーションとの連成計算の試みにも利用されている. 和歌山県,三重県,千葉県では津波即時予測システムをデータベース検索方式で自前運用しているが,この津波データベースの構築にはJAGURSが利用されている.地震調査研究推進本部津波評価部会の資料作成にもJAGURSが利用されている.民間企業(建設コンサルタントなど)での利用実績も増えており,社会への波及効果も大きい. 現在でも開発は継続しており,能登半島地震で注目された海底地すべりによる津波の計算モジュールや,津波とほぼ同じ方程式で計算できる高潮現象への拡張を行っている.講演では,JAGURSの名前の由来や開発史についても紹介させていただく.
