[S20-10][Invited]Present and future of observation seismology by development of ocean bottom seismometers
Toshihiko Kanazawa1, *Hajime SHIOBARA1, Masanao Shinohara1, self-popup OBS development team2(1. Earthquake Research Institute, the University of Tokyo, 2. N/A)
このたび「海底における長期・多点・広帯域地震観測の実現による地震学分野への貢献」として日本地震学会技術開発賞を受賞できたこと、著者一同大変うれしく思います。推薦者および選考委員の皆様に深く感謝いたします。これは、1990年代以降、陸上観測から進展してきた広帯域地震観測研究を念頭に、地表面全域を覆う広帯域地震観測網による観測研究を展望し、広範囲を占める海域での長期・多点・広帯域地震観測を実現するための自由落下・自己浮上方式の広帯域海底地震計(BBOBS)の開発を軸として推進してきたものです。陸域の広帯域地震観測と同等の観測帯域とデータ品質が必要という観点から、英国Guralp社に特注して低消費電力・軽量化したBBOBS専用の固有周期360秒の広帯域地震センサーCMG-3Tを主に採用しています。BBOBS開発初期での解決すべき技術的課題は多岐にわたり、海水という金属腐食環境下での長期観測(1年程度)の実現、大きく重いCMG-3Tを鉛直かつ安定に保つための姿勢制御装置、大容量のデジタル記録装置、確実に自己浮上させて機器とデータを回収するための信頼性の高い錘切離機構、それと同時に海底との良好なカップリングの確保、底層流に起因して発生する振動雑音の低減、などがありました。
このBBOBS開発の直接的契機は、1996年にスタートした新プログラム(創成的基礎研究費)「海半球ネットワーク」(研究代表者 深尾良夫)において、機動的な広帯域地震観測を「西太平洋域(海半球)の地球深部を覗く新しい目」の一つとして組み込んだことです。この新プログラム推進の中核組織として翌年の1997年に地震研究所に「海半球観測研究センター(OHRC)」が設置されて本格的な開発がスタートしました。著者らが1980年代に実用化したガラス球OBSでの多くの技術的蓄積を持っていた、地震観測機能を耐圧容器に内蔵する一体化形状を基にし、CMG-3Tを載せた姿勢制御装置や多数の電池を搭載するために直径65cmのチタン球耐圧容器を使用する方向で開発を開始しました。1年程度という過去に経験のない海底設置(観測)期間への対処を室内・実地試験で進めつつ、著者らが蓄積してきた機器開発と観測技術の知見を活かすことで、1999年に最初のBBOBSを北西太平洋に設置、翌年に無事回収することが出来ました。その後、2005年頃までには実用的BBOBSの初期開発フェーズは完了しました。これで海底での広帯域地震観測データは得られるようになりましたが、より多くの研究者がデータを活用できる公開システムへの準備、BBOBSの安定した運用を確保するための保守整備と内部機器の更新を、継続的に行っています。このように研究者による主体的な新たな機器開発によって実用化されたBBOBSですが、この開発と運用があって初めて、その後の長期・多点の広帯域地震観測研究は、現在のような研究分野の一つを構成するレベルまで発展できたと思います。
今後の展望としては、当然ながら広帯域地震観測の一層の高度化です。一体型であるBBOBSの開発以降に進めてきた高度化のひとつは自己埋設方式センサーの実現です。初期のBBOBS観測データが得られた直後から、センサー部を海底面に埋設することでのデータ品質向上を検討してきました。2010年には潜水艇で設置回収する方式のBBOBS-NX、2017年には自己浮上型のBBOBSと同様な自律動作が可能なNX-2Gという新型機の長期試験観測が完了し、この埋設センサー方式も実用化されつつあるところです。その他にも、BBOBSの適応範囲を拡げるために、6000m以深へ対応する超深海型、測地学的周期帯域へ拡大した計測への開発が進んでいます。一方で、BBOBS開発初期から、小型の地震センサーを内蔵する50㎝チタン球を用いた長期観測用のOBSも実用化しており、近年には120秒センサーを搭載して2年間程度の長期観測が可能な小型の広帯域地震計も開発されました。また観測中の海底地震計から観測データを回収するための海底−海上間での通信手法も開発されつつあります。
先進的な観測研究の進展を展望するには、データ処理および解析技術の高度化だけでは無く、このような研究者による主体的な観測機器の高度化・新規開発による、新たな観測対象領域を切り開くことでの、全く新しいデータの取得は、今後も欠かすことはできません。自らの手で未知のデータ取得を志す若手研究者が、このような観測研究分野へ参画してくれることを期待します。
自己浮上式海底地震計開発チーム
(構成員 杉岡裕子、一瀬建日、山田知朗、伊藤亜妃、中東和夫、望月将志、渡邉智毅、八木健夫)
このBBOBS開発の直接的契機は、1996年にスタートした新プログラム(創成的基礎研究費)「海半球ネットワーク」(研究代表者 深尾良夫)において、機動的な広帯域地震観測を「西太平洋域(海半球)の地球深部を覗く新しい目」の一つとして組み込んだことです。この新プログラム推進の中核組織として翌年の1997年に地震研究所に「海半球観測研究センター(OHRC)」が設置されて本格的な開発がスタートしました。著者らが1980年代に実用化したガラス球OBSでの多くの技術的蓄積を持っていた、地震観測機能を耐圧容器に内蔵する一体化形状を基にし、CMG-3Tを載せた姿勢制御装置や多数の電池を搭載するために直径65cmのチタン球耐圧容器を使用する方向で開発を開始しました。1年程度という過去に経験のない海底設置(観測)期間への対処を室内・実地試験で進めつつ、著者らが蓄積してきた機器開発と観測技術の知見を活かすことで、1999年に最初のBBOBSを北西太平洋に設置、翌年に無事回収することが出来ました。その後、2005年頃までには実用的BBOBSの初期開発フェーズは完了しました。これで海底での広帯域地震観測データは得られるようになりましたが、より多くの研究者がデータを活用できる公開システムへの準備、BBOBSの安定した運用を確保するための保守整備と内部機器の更新を、継続的に行っています。このように研究者による主体的な新たな機器開発によって実用化されたBBOBSですが、この開発と運用があって初めて、その後の長期・多点の広帯域地震観測研究は、現在のような研究分野の一つを構成するレベルまで発展できたと思います。
今後の展望としては、当然ながら広帯域地震観測の一層の高度化です。一体型であるBBOBSの開発以降に進めてきた高度化のひとつは自己埋設方式センサーの実現です。初期のBBOBS観測データが得られた直後から、センサー部を海底面に埋設することでのデータ品質向上を検討してきました。2010年には潜水艇で設置回収する方式のBBOBS-NX、2017年には自己浮上型のBBOBSと同様な自律動作が可能なNX-2Gという新型機の長期試験観測が完了し、この埋設センサー方式も実用化されつつあるところです。その他にも、BBOBSの適応範囲を拡げるために、6000m以深へ対応する超深海型、測地学的周期帯域へ拡大した計測への開発が進んでいます。一方で、BBOBS開発初期から、小型の地震センサーを内蔵する50㎝チタン球を用いた長期観測用のOBSも実用化しており、近年には120秒センサーを搭載して2年間程度の長期観測が可能な小型の広帯域地震計も開発されました。また観測中の海底地震計から観測データを回収するための海底−海上間での通信手法も開発されつつあります。
先進的な観測研究の進展を展望するには、データ処理および解析技術の高度化だけでは無く、このような研究者による主体的な観測機器の高度化・新規開発による、新たな観測対象領域を切り開くことでの、全く新しいデータの取得は、今後も欠かすことはできません。自らの手で未知のデータ取得を志す若手研究者が、このような観測研究分野へ参画してくれることを期待します。
自己浮上式海底地震計開発チーム
(構成員 杉岡裕子、一瀬建日、山田知朗、伊藤亜妃、中東和夫、望月将志、渡邉智毅、八木健夫)
