[SY11-2]大学病院と市中病院での病院歯科の展開
○曽我 賢彦(岡山大学病院 医療支援歯科治療部)
【略歴】1998年 岡山大学歯学部卒業
2002年 岡山大学大学院歯学研究科 修了 博士(歯学)
2002年 岡山大学歯学部附属病院 医員(第二保存科)
2003年 国立療養所邑久光明園(おくこうみょうえん) 厚生労働技官 歯科医師
2007年 国立療養所邑久光明園 厚生労働技官 歯科医長
2008年 岡山大学医学部・歯学部附属病院(現 岡山大学病院) 歯周科 助教
2008年 岡山大学医学部・歯学部附属病院(現 岡山大学病院)
周術期管理センター歯科部門 部門長 兼任(~2010年)
2010年 日本学術振興会特定国派遣研究者(オランダ)
(ライデン大学メディカルセンター,Academic Centre for Dentistry in Amsterdam)
2011年 岡山大学病院 中央診療施設 医療支援歯科治療部 副部長・助教
2013年 岡山大学病院 中央診療施設 医療支援歯科治療部 副部長・准教授
2017年 岡山大学病院 中央診療施設 医療支援歯科治療部 部長・准教授
現在に至る
【抄録】
私は、縁あって、歯周病の教室で研鑽を積んだ歯科医師の駆け出しの頃から、岡山大学病院における医科歯科連携の仕事に関わっています。医科歯科連携に特化した中央診療施設(医療支援歯科治療部)が設置された2011年以降は、この治療部の実務を統括する立場として、病院医療の質を歯科の専門性でより良くするための仕事をしています。
対象疾患はがんが多く、手術療法や化学療法等を受ける患者の口腔管理を積極的に行っています。また、心臓血管外科の患者の口腔管理も多く行っています。医療の進歩とともに高齢者にも適応できる治療が増え、私たちが対応する患者の高齢化も著しくなっています。延伸した寿命における生活の質がより良いものとなるよう、あるいは口腔が生活の質を低下させる原因とならないよう、必要な口腔管理を、地域の歯科医療機関の協力も得ながら行っています。
病院における医科歯科連携は極めて重要なはずですが、実際に歯科を設置している病院は約2割で、病院に従事している歯科医師は全体の約3%と少ない状況です〔厚生労働省第5回歯科医師の資質向上等に関する検討会資料(2017)より〕。医科歯科連携をさらに進める観点から、病院に歯科医師の配置を進めていく議論があり、前述の検討会が示した「歯科保健医療ビジョン」でも提言されていますが、5年経った現在、目立った進捗は見られません。
この原因の一つは、病院歯科の経営的な困難さにあると思われます。一例となりますが、私は2019年から、縁あって、心臓血管外科を主とする高知市の近森病院(512床・高知県の急性期医療の拠点病院の一つ)でも、病院医療の質を向上させるための歯科の開設と運営のお手伝いをしています。加齢による心臓弁膜症(主として大動脈弁狭窄症)で慢性心不全を患う高齢者に対し、近年カテーテルによる心人工弁置換術を施行しており、90歳代の患者も多くおられます。心周術期の口腔管理は重要かつニーズが高いものです。しかし、現在の診療報酬で回収できるのは歯科医師の人件費のみ程度にとどまり、採算のとりようがありません。2012年に周術期等の口腔管理に対して診療報酬が新設されたのは画期的でしたが、在院日数が極めて短い超急性期病院ではほぼ管理料収入のみとなります。歯科に極めて理解がある副院長(心臓血管外科)は、私の顔を見るたびに、「君ら(の診療報酬)はほんとにかわいそうだ」とおっしゃるのが口癖のようになっています。
もう一つの原因として、人材育成体制が整っていないことも問題と思われます。学部教育における多くの科目で、その専門分野の観点から高齢者を支える歯科医療の重要性に触れられるようになりました。一方で、その医療提供の場について、地域のみならず、病院を想像できる学生や研修歯科医はまだ少ないように思われます。超高齢社会の病院医療を支える歯科医療者の重要性を理解できるような教育が必要と思われます。
大学病院と市中病院での病院歯科の展開について、私が経験し考えていることについて、具体例を示しながら、皆様の議論のお役に立てることができればと考えております。
私は、縁あって、歯周病の教室で研鑽を積んだ歯科医師の駆け出しの頃から、岡山大学病院における医科歯科連携の仕事に関わっています。医科歯科連携に特化した中央診療施設(医療支援歯科治療部)が設置された2011年以降は、この治療部の実務を統括する立場として、病院医療の質を歯科の専門性でより良くするための仕事をしています。
対象疾患はがんが多く、手術療法や化学療法等を受ける患者の口腔管理を積極的に行っています。また、心臓血管外科の患者の口腔管理も多く行っています。医療の進歩とともに高齢者にも適応できる治療が増え、私たちが対応する患者の高齢化も著しくなっています。延伸した寿命における生活の質がより良いものとなるよう、あるいは口腔が生活の質を低下させる原因とならないよう、必要な口腔管理を、地域の歯科医療機関の協力も得ながら行っています。
病院における医科歯科連携は極めて重要なはずですが、実際に歯科を設置している病院は約2割で、病院に従事している歯科医師は全体の約3%と少ない状況です〔厚生労働省第5回歯科医師の資質向上等に関する検討会資料(2017)より〕。医科歯科連携をさらに進める観点から、病院に歯科医師の配置を進めていく議論があり、前述の検討会が示した「歯科保健医療ビジョン」でも提言されていますが、5年経った現在、目立った進捗は見られません。
この原因の一つは、病院歯科の経営的な困難さにあると思われます。一例となりますが、私は2019年から、縁あって、心臓血管外科を主とする高知市の近森病院(512床・高知県の急性期医療の拠点病院の一つ)でも、病院医療の質を向上させるための歯科の開設と運営のお手伝いをしています。加齢による心臓弁膜症(主として大動脈弁狭窄症)で慢性心不全を患う高齢者に対し、近年カテーテルによる心人工弁置換術を施行しており、90歳代の患者も多くおられます。心周術期の口腔管理は重要かつニーズが高いものです。しかし、現在の診療報酬で回収できるのは歯科医師の人件費のみ程度にとどまり、採算のとりようがありません。2012年に周術期等の口腔管理に対して診療報酬が新設されたのは画期的でしたが、在院日数が極めて短い超急性期病院ではほぼ管理料収入のみとなります。歯科に極めて理解がある副院長(心臓血管外科)は、私の顔を見るたびに、「君ら(の診療報酬)はほんとにかわいそうだ」とおっしゃるのが口癖のようになっています。
もう一つの原因として、人材育成体制が整っていないことも問題と思われます。学部教育における多くの科目で、その専門分野の観点から高齢者を支える歯科医療の重要性に触れられるようになりました。一方で、その医療提供の場について、地域のみならず、病院を想像できる学生や研修歯科医はまだ少ないように思われます。超高齢社会の病院医療を支える歯科医療者の重要性を理解できるような教育が必要と思われます。
大学病院と市中病院での病院歯科の展開について、私が経験し考えていることについて、具体例を示しながら、皆様の議論のお役に立てることができればと考えております。
