The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Nov 7 - Nov 9, 2014Kobe International Conference Center
The Japanese Association of Educational Psychology
The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Nov 7 - Nov 9, 2014Kobe International Conference Center

[JA02]生徒指導における「精神的充足・社会的適応力」評価尺度(KJQ)の発展的活用

綿井雅康1, 菅野純2, 増田みちよ3, 藤井靖2, 山田達人4, 加藤陽子1, 桂川泰典5(1.十文字学園女子大学, 2.早稲田大学, 3.藤枝市立藤枝中学校, 4.早稲田大学大学院, 5.岡山大学)
●企画意図
 児童生徒が学校生活や社会的場面で他者と調和しつつ意欲的に自己発揮していくための「心の土台」として菅野(2002)は「精神的充足」と「社会的適応力」を提案し,この2つを測定するために菅野・綿井(2002)は,「精神的充足・社会適応力」評価尺度(KJQ)を作成した。
 これまでに本尺度について,「コーピング行動との関連」(綿井・菅野,増田,蓑地,2004),「無気力尺度との関連」(綿井・菅野・増田,2006),「仲間関係同調態度尺度との関連」(綿井・初川・菅野,2007),「登校持続要因との関連」(桂川・加藤・菅野,2008)などの基礎研究と,教育相談や生徒指導,学校保健活動,特別支援教育などへの活用を検討する様々な臨床教育的研究(綿井・菅野,2004,増田ら,2004,2006,2007,2008,菅野ら,2006)が行われてきた。また,クラスの全生徒をマトリックス上に布置して,「個」としての生徒だけではなく,「集団の中における個」としての生徒理解も可能であるため,いじめ問題や不登校予防へも積極的に活用されている(桂川,2014,藤井,2014,など)。
 しかし,学校教育場面においては心理教育的測定や教材は,1)手間がかかる,2)費用がかかる,3)実際の指導との間にギャップがある,など,まだ様々な問題があるのも事実である。本シンポジウムでは「精神的充足・社会適応力」評価尺度(KJQ)の最近の研究と活用例を紹介し,学校教育に根づくためには何が必要かを,フロアの皆さんとともに考えていきたい。

●児童・生徒理解に回答状況分析を活用する
菅野 純
 「精神的充足・社会的適応力」評価尺度(以下,KJQと記す)児童・生徒理解に活用する方法は以下のとおりである。1)「教師用シート」で3特性からなる「こころのエネルギー(精神的充足)」の充足状況と6特性からなる「社会生活の技術(社会的適応力)」の獲得状況をみる。2)毎年実施していればプロフィールからそれぞれ9特性の経年変化を把握する。3)臨床尺度でSOSのメッセージをチェックする。4)クラス集団の中でどのような位置にいるかをマトリックスで把握する。5)回答状況表より,その子が各質問項目にどのように回答したかを把握する。
 今回はケース理解の方法として5)の回答状況分析について発表する。
 KJQの各質問項目は,教師や友人との関係などの学校場面や家族との関係,自分についての項目など,実際に生じそうな内容から構成されている(例:「この学校に困った時相談できる先生がいます」「家での食事は楽しみです」など)。一般に質問紙による心理テストでは各質問項目は統計的に処理され,個々の質問内容までさかのぼって考察されることはほとんどない。演者はこのことに長い間,違和感を感じてきた。回答内容を子どもの「声」として受け取ることで,子どもの心との対話を試みることができるのではないだろうか。たとえば,「この学校に困った時相談できる先生がいます」「家での食事は楽しみです」の項目にどちらも「いいえ」の回答であれば,その子が「僕にはこの学校に相談できる先生がいないし,家での食事もちっとも楽しくありません」と「語った」と読んで行くのである(回答状況分析)。そうすることで,児童生徒との直接的な面接では容易に得難い子どもの気持を理解し,学校からは見えにくい家庭状況などの把握が可能ではないだろうか。本発表では,子どもの事例をいくつか取り上げ,回答状況分析を通してより深い児童・生徒理解に到達していくプロセスを明らかにしたい。

●学校保健活動における活用
 増田みちよ
 中部圏の公立A・B中学校において生徒の自己理解力・自己成長力を促すことを目的に,「精神的充足・社会的適応力」評価尺度を健康教育に活用した実践を13年間にわたって取り組んだ。
 年度によって取り組み内容は異なるが,いずれの年度も本尺度を全校生徒に実施し,測定結果のフィードバック学習をしたうえで健康教育の実践を行った。それらの実践は次のようなものである。
(1)学校全体への働きかけ 
 学年別生徒理解研修会により教師の生徒理解力を深める一方,学校保健委員会,保健集会,教育講演会等を開催して生徒は「精神的充足・社会的適応力」という観点から自分の力で自分を成長させる方法を学んだ。同時に,参会者である保護者や地域の方々から「精神的充足・社会的適応力」の大事さとそれを推進する学校教育への理解が深まった。また,生徒会活動でピア・サポートを導入した取り組みを行い,その関わりの中からも「精神的充足・社会的適応力」への意識を高めた。
(2)クラスへのサポート
 「精神的充足」と「社会的適応」の二つの評価尺度を軸とした布置図(マトリックス)より,学年・学級集団の性格がわかり,集団の中にいる「気になる生徒」の位置や「気になる生徒」を取り巻く集団の人間関係をふまえた上での的確な指導が可能となった。
(3)個人へのサポート
 不登校,いじめ,その他の問題行動の生徒に関わる際には生徒理解資料(特に配慮等が必要な生徒を校内で共通理解するための資料)と本尺度による回答結果を活用して関わった。それにより実際への関わりのヒントとなる有意義な情報を得ることが可能となり,問題解決にむけてよりよい職員体制ができた。
 以上の実践より,本尺度の多面的な活用価値と職員の共通理解への有用性が明らかになった。

●心身症様症状と尺度による測定結果との関連
藤井 靖
 学校場面においては,児童生徒の不適応・問題行動に身体症状が伴うことが少なくない。特に心身症に代表される,心理社会的ストレスに起因していると考えられる状態像を呈す例は,本人もその症状によってQOLが著しく障害されていることが多いので,心理的特性も含めて統合的に理解することは指導・支援の方略を考える上で有用であると考えられる。本発表では,複数人の児童生徒における測定結果から,心身症様症状との相互作用について考察する。
 対象となる児童生徒は,首都圏近郊の学校における校内相談室の対応記録,担任や養護教諭からの聞き取り,保護者から提供された情報を通じて,心身症様症状と考えられる身体不調を有している群から抽出した。尺度の測定結果より,まず二次元布置図においては社会的適応力が高く精神的充足が低い「息切れタイプ」と両特性とも高い「意欲タイプ」が多かった。また,臨床尺度において要注意項目がある者はほとんどいなかった。個別の回答状況も合わせて考察すると,いわゆる過適応状態である可能性が考えられたが,総じて一見,予防的にマークしづらい児童生徒であることが窺われた。
 心身症様症状を有する子どもたちにおいては,予期できない身体の不調があることにより自己コントロール感が低くなったり,不安や抑うつが高まりさらに症状が増悪するという悪循環に陥ってしまうことは一定した知見である。
 単に「身体に不調がある子ども」というラベリングではなく,教員が尺度結果を踏まえた理解に基づき指導・支援にあたったり,児童生徒自身が心理的特性と身体症状の関係について自己理解を進めることは,症状とうまく付き合って社会的生活への適応度を向上されるために肝要であると思われた。

●中高一貫校における活用事例
山田達人
 私立中学・高校の多くで,高校受験や環境移行がない中高一貫教育が取り入れられている。生徒はこの教育課程において,より主体的に自らの力を発揮し,安定した学校生活を送れると推察される。ところで,本尺度(精神的充足)は,生徒がエネルギーを充足される環境(学校や家庭)で生活しているかについて質問している。本稿では,中高一貫校に在籍する生徒の高校移行期に生じる環境の変化を,本尺度から検討する。
 研究は2013年3月と9月に,中高一貫教育を行う私立中学・高校3校に在籍する中3と高1(n=303)を対象に本尺度を実施した。学年を独立変数,精神的充足に関する18項目の各値をそれぞれ従属変数とした,対応のあるt検定を1%水準で行ったところ,表1に示される8項目において,ポジティブな回答への変化が確認された。つまり,中高一貫校の高校移行期に生じる変化として,自らの行動を褒めたり困ったときに頼れたりする先生の存在や, 部活動や行事などに目標をもてる環境があると示唆された。
 以上より,本尺度(精神的充足)の質問項目を縦断的にとらえることは,学校や学年を単位とした環境変化の検討に有用であると思われる。