The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Nov 7 - Nov 9, 2014Kobe International Conference Center
The Japanese Association of Educational Psychology
The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Nov 7 - Nov 9, 2014Kobe International Conference Center

[JA03]教育に資するための行動遺伝学研究

中室牧子1, 敷島千鶴2, 川本哲也3, 高橋雄介4, 藤澤啓子1(1.慶應義塾大学, 2.帝京大学, 3.東京大学, 4.京都大学)
【企画趣旨】
教育は,個人がそれぞれの形で社会に適応し,個人の集合体としての家族や社会を維持するうえで,学校教育場面のみならず,人間の人生のどの段階においても,またどのような文化・社会においても,きわめて重要な役割を担っている。教育は,さまざまな形で個人に獲得され,その過程と成果には,大きな個人差がある。この事実を適切に理解することは,今日の教育的・社会的問題を解決に導くうえで不可欠である。
行動遺伝学は,人間のさまざまな行動や心理傾向の個人差のほぼ全てにおいて,個人間の遺伝的差異と個人が独特に経験する環境の差異が関与していることを明らかにしてきた。学業成績や教育達成,気質やパーソナリティ,知能や社会的認知能力など,狭義・広義に関わらず教育に関連する指標においても,遺伝要因と環境要因がそれぞれに特異的に機能を果たすこと,また人間の発達過程において両者が複雑に相互作用をしながら個人差を生み出す機序が明らかにされてきた。
教育の諸側面の個人差に部分的に遺伝要因の寄与があるとする知見は,そこに環境としての教育の余地は少ないといった悲観的な解釈をされることがあるが,それは誤りである。教育の諸側面や教育の結果としての社会的・経済的格差をもたらしているのは,確かに部分的には個人間の遺伝的差異かもしれないが,行動遺伝学は決して遺伝決定論に基づくものではない。遺伝の影響を明らかにすることは,環境の影響を詳らかにすることと表裏一体の関係にあり,遺伝と環境双方の影響について適切に考える必要がある。
本自主企画シンポジウムでは,日本全国の双生児を対象としたウェブ調査,慶應義塾大学ふたご行動発達研究センターにおける双生児レジストリを利用した研究(主に成人を対象とした慶應義塾双生児研究・子どもを対象とした首都圏ふたごプロジェクト),双生児研究について半世紀超の歴史をもつ東京大学教育学部附属中等教育学校におけるアーカイブデータという,異なるデータソース及び方法論に基づく研究成果が発表される。教育に関わる諸側面について,本邦において大規模に行われた行動遺伝学研究の成果を踏まえ,教育が適性としての遺伝的差異を基盤にし,個人を社会に適応させるために機能する可能性について,広く議論を進めたい。

【出生時体重の効果-出生の原点はその後の人生に影響するのか-】
慶應義塾大学 中室牧子
日本では「小さく産んで,大きく育てる」といった考え方が,出産における1つの理想として流布してきた。しかし近年,国内外の疫学研究は,出生時体重と乳幼児期の健康や発達には相関があることを明らかにしているほか,海外の経済学研究は出生時体重の影響が大人になった後まで残る可能性について検討しており,学校での成績,最終学歴,賃金に対する効果を示した研究もある。
しかし,出生時体重が長期的なアウトカムに及ぼす影響を,因果的効果として実証するのは非常に難しい。というのも,まず胎児期の成長率と出生後の脳や身体の発達の両方に影響を与える遺伝子があれば,出生時体重の効果と見られるものが,実はその遺伝子の効果である可能性がある。また,社会経済的に恵まれた母親が,妊娠中に豊富な栄養摂取を行うとともに,出産後には子どもの発達や教育に有利となる投資を行うならば,出生時体重と出生後のアウトカムの関連は,実際には家庭背景によってもたらされている可能性もある。出生時体重の因果的効果を推計するには,以上の遺伝子要因と家庭要因を制御する必要があるが,これを可能にするデータと方法は限られている。
そこで本研究は,発表者らがインターネット調査を通じて収集した,日本全国の20歳~60歳の一卵性双生児のデータを用い,出生時体重がどの程度長期的なアウトカムに影響を及ぼしているか実証的に明らかにすることを試みた。双子固定効果の推計結果によると,出生時体重の差は,中学3年時の成績を左右する要因であることが明らかになった。しかし,海外のいくつかの研究成果とは異なり,教育年数や賃金にまで影響するというエビデンスは得られなかった。ただし,最終的な教育達成を年数ではなく学歴により測定した場合や,また賃金を幅のある自己申告値よりも正確な数値で測定した場合に出生時体重の効果が見られるかどうかは,今後の検討課題として残されている。
【教育的達成,社会的達成の遺伝と環境】
帝京大学 敷島千鶴
慶應義塾双生児研究は,1971~1991年に生まれた首都圏出身双生児約2300組のレジストリを保有する。1998年以来,郵送調査,来校形式による集団調査・個別調査,ウェブ調査を繰り返し,蓄積されたデータは,アジア最大規模の双生児データセットを構成している。本報告では,この現在20~40歳代となる双生児対の縦断的,横断的多変量データを分析することにより,若者の教育的達成,社会的達成に影響を与える遺伝要因ならびに環境要因について精緻な検討を行う。
認知能力あるいはパーソナリティの個人差に及ぼす遺伝の影響を明らかにした国内外の行動遺伝学研究は数多い。そして,遺伝要因の相対的な寄与率は,成人のIQで60~70%程度,パーソナリティで40~50%程度と,その数値はほぼ一定であることが知られている。しかしながら,個人の教育的達成(学歴)および社会的達成(就業)は,その時代の社会における様々な条件の中で形成されていくものである。したがって,それらにどのような遺伝要因と環境要因が,どの程度寄与しているのかは,その個人の置かれた文化に依存し,社会的背景を反映したものであるという仮説が立てられる。
発表者は,まず,構造方程式モデリングの手法を用いて,現代日本における若年成人の教育的達成と社会的達成に影響を与える遺伝要因と環境要因の相対的寄与率を推定する。そして,潜在変数として仮定する遺伝要因と環境要因が何を反映したものであるか,多変量遺伝解析によって明らかにする。さらに,海外の研究結果と比較することにより,若者の達成に寄与する遺伝要因と環境要因の構造が,文化を超えて普遍であるか,あるいは特殊であるかについて,考察を行う。

【身体発達と思春期の始まりがもたらすもの】
東京大学 川本哲也
思春期 (puberty) において,人は大きな変化を経験する。男女ともに陰毛の生え始める時期であり,身体的な発育のスパートを経験するのもこの時期である。男性では声変わりやひげが生えてくるなどの変化がみられ,女性では月経の開始や乳房の発達などの変化がみられる。このような身体的変化が思春期の特徴といえるが,この変化の開始時期には個人差が存在することが指摘されている。
この思春期の開始時期の個人差は,児童期における栄養状態や家族の社会経済的な要因といった複数の要因と関連することが知られている。その一方で,この思春期の開始時期の個人差は,その後の心理社会的な問題のリスクとなったり,ライフコースそのものに影響することも示唆されている。したがって,思春期についての理解を深めることは,研究者のみならず少しでも子どもに携わる人にとって重要なことである。
発表者の所属する東京大学教育学部には附属の中等教育学校が設置されており (以下,東大附属と記述),毎年20組近くの双生児と80人以上の一般児が入学している。東大附属で行われている調査は,過去のものからアーカイブデータという形でまとめられており,心理学のみならず,教育学や医学などに大きく貢献している。本発表でも,この東大附属のアーカイブデータを用い,児童期までの身体発達と思春期の開始の関連,そしてその個人差が様々な心理社会的側面にどのように影響しているのか,またはいないのかについて,筆者の行った分析結果を報告する。特に,双生児のデータを用いることによりつまびらかになる遺伝的要因と環境要因のもたらす影響の違いに着目し,思春期を理解する一助になるよう議論を深めていきたい。

【セルフコントロールを育む遺伝と環境】
慶應義塾大学 藤澤啓子
セルフコントロールは,様々な概念を包含するものであるが,大まかには,自らの欲求や衝動,情動の表出を適切にコントロールする能力とされる。他の心理行動指標と同様に,セルフコントロール能力には個人差がある。行動遺伝学研究は,セルフコントロール能力の個人差が,遺伝要因と環境要因の両方の影響により説明されること,また,成長につれて,遺伝要因の説明率が高くなることを明らかにしてきた。
幼少期のセルフコントロール能力の高さは,家庭の社会経済的要因や本人の知的能力とは独立に,適応的な発達結果(例:良好な学業成績・身体的及び精神的健康など)を長期的に予測することが分かっている。そのため,セルフコントロール能力を育てるために有効な要因やその効果を明らかにすることが望まれている。これまでの研究で,子どもの行動への敏感な反応や子どもの自律的行動へのサポートといった親の養育態度が,幼少期のセルフコントロール能力を育むことなどが報告されている。
これらを踏まえ,発表者は,慶應義塾大学ふたご行動発達研究センターにおいて,首都圏ふたごプロジェクトが双生児約300組を対象に,乳児期から幼児期にかけて縦断的に調査したセルフコントロールの発達調査のデータを元に,幼児期におけるセルフコントロール能力の個人差を説明する遺伝要因や環境要因の効果及びその発達的変化について報告する。さらに,遺伝要因の影響を統制したうえで,どのような具体的な環境要因がセルフコントロール能力の発達に寄与するかについて報告し,セルフコントロールを育む遺伝と環境について議論したい。