The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Nov 7 - Nov 9, 2014Kobe International Conference Center
The Japanese Association of Educational Psychology
The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Nov 7 - Nov 9, 2014Kobe International Conference Center

[JB01]認知心理学からみた教授学習過程研究の現状と今後の展開

井上毅1, 市川伸一2, 佐藤浩一3, 森敏昭4, 植阪友理2(1.滋賀大学, 2.東京大学, 3.群馬大学, 4.広島大学)
(企画の趣旨) 企画者代表 井上 毅
1970年代くらいから急速に発展した認知心理学の豊富な研究成果は,教育心理学の教授学習領域の研究に大きな影響を及ぼすこととなり,1990年代頃からは,認知心理学を理論的ベースとした教授学習過程の考え方が急速に広まった。それとともに,教育現場に入って問題を見つけて教授学習過程の研究に取り組む,教育実践により近い立場からの研究も数が多くなってきている。
本シンポジウムでは,認知心理学の観点から教授学習過程研究のこれまでの動向と現状を検討し,今後の研究の方向性を考える機会としたい。
会場では,まず始めに,植阪先生と佐藤先生から,違った観点からの最近の優れた研究事例の報告を行ってもらう。それを受けて,森先生から,認知心理学をベースにした教授学習研究について,歴史的スパンに立っての研究動向の概観と評価,現在の課題,今後の方向性などについて論じていただく。その後,市川先生からの指定討論,さらにフロアを交えての討論と進めていく。

(話題提供1) 植阪友理
「心理学を生かして,既存の心理学を超えていく
-実践性・協同性・国際性をキーワードに-」
筆者は,学部学生の頃から実践と接点の多い研究環境の中で育った。こうした中で,REAL(Researching by Extracting, Analyzing and Linking)アプローチ(植阪,2014)と呼ばれる現場とのかかわり方をとっている。このアプローチは3つの段階からなる。フェーズ1として(文献研究から心理学的研究を立ち上げのではなく)心理学を活用した実践を行う中で,学習者のつまずきを明らかにし,そこから見えてくる学校現場の指導上の問題や,既存の心理学的研究の限界から研究を着想する。フェーズ2では,実践から得た問題意識を踏まえ,調査や実践といった心理学的手法によって要因や介入方法を検討する。フェーズ3では,研究知見を学校現場で利用し,知見を実際の指導に生かすための工夫などを明らかにするという一連のアプローチである。
例えば,心理学を生かした個別学習を行うことで,心理学研究では図表が有効とされており,教師も多くの図を使って教えている一方で,これらが自発的に利用されていない実態が明らかになった。一方,図表研究や学習方略研究では,自発性を促すための指導上の工夫は何かといった点は十分に明らかにされていなかった(フェーズ1:問題点の発見)。これを踏まえて,図表利用方略の自発的利用に影響する学習者要因・課題要因の検討や,自発的利用を促す指導法の開発などを,国際比較調査なども含めながら実施した(フェーズ2:心理学的検討)。さらに,学校現場の教師と協同をし,心理学的知見を学校現場で活用するための具体的な工夫などを明らかにした(フェーズ3:教育実践での活用)。
このアプローチは,心理学の知見を単に現場に応用するという発想ではなく,むしろ(実践にかかわり,心理学を活用する中で),既存の理論にはなかった新たな研究視点を付け加えるという発想に立つ。この結果,海外で展開している諸理論を輸入してくるだけではなく,日本側から海外に対して学校現場の現実に即した新たな研究視点を輸出することにもつながる。例えば,REALアプローチを通じて得られた視点は,Scienceのレターに取り上げられた。また,学習方略の自発性を促すというテーマで日本と海外の研究者が協同で書籍を刊行するといった活動へとつながっている。若手の新たな現場への関わり方の1つとして提案したい。

(話題提供2) 佐藤浩一
「認知心理学を教職大学院での実践に生かす」
筆者は教職大学院で,現職教員と学部卒院生に,認知心理学の視点から学習支援の在り方を考える授業と研究指導を行っている。そしてその指導を受けた大学院生が現場で,認知心理学を生かした授業と研究に取り組んでいる。
1.認知心理学の発想の有効性
授業の指導案を検討すると,教師からの働きかけにより学習者の思考が動く(あるいは逆に,つまずく)という視点が,やや不足していると感じられる。その視点を持つためにも認知心理学の発想は有効である。例えば,(1)知識があってはじめて理解できる,(2)情報処理に使える資源は有限である,(3)情報処理は複数のステップを踏んでいる,(4)問題解決とは目標と現状の距離を計り埋めていくことである,(5)個人で学習を進めるだけでなく道具や人など外的リソースの活用が有効である,(6)教師自身によるモデル提示が有効である,(7)学習者の思考は教員からの発問や課題提示により方向づけられる,(8)学習内容や学習方法の転移を図る取り組みが必要である,(9)学習者同士の協同を進めるにはその方法を学ぶことと協同に向かう動機づけが必要である,といった発想である。
2.現場での実践
これまで国語,算数,理科などの実践に,協同学習,図表や道具の活用,メタ認知,転移などの視点から取り組んできた。小6の意見文作文に相互推敲活動を取り入れた実践,小4国語の「話すこと・聞くこと」に協働思考プログラムを取り入れた実践などを紹介する。どのように理論を生かし成果をどう評価するか,現場の様々な状況の中で可能な方法を検討する。
3.今後の期待される取り組み
筆者は今後も,認知心理学の基本的な発想を現場に伝える地道な活動を続けていきたい。さらに認知心理学の視点から期待される取り組みとしては,(1)学習者が活用できる『学習の手引』を作成する,(2)単元間あるいは教科間の転移を図る授業を構想する,(3)学習者のメタ認知を育む指導方法を検討する(例:学習者自身が手がかりとして活用できるような評価規準の作成),(4)話型ではない思考型の育成方法を検討する,などがあげられる。

(話題提供3) 森 敏昭
「21世紀の教育心理学の課題は何か」
20世紀の教育心理学には,常に不毛性に対する批判がつきまとっていた。すなわち,「教育心理学の研究は教育実践の改善に役立たない」という批判である。おそらくその原因は,日本の教育心理学は伝統的にアカデミズム志向が強く,理論的な精緻さを追求するあまりに,教育実践の現実からは遊離しがちであったからだと思われる。しかし,20世紀末の90年代以降,教育実践のフィールドに果敢に踏み込みながらもアカデミズムの輝きを失わない研究がなされ始めた。
21世紀の教育心理学は,高度化・学際化・実践化への社会的要請が,さらに強まるであろう。したがって,その要請に応えるためには,次の3つの課題に取り組む必要があるだろう。
第1は,理論研究と実践研究を繋ぐ懸け橋を築くことである。すなわち,理論研究の成果が教育実践の改善に役立ち,同時に教師の実践知が理論研究の発展を刺激する,というような,理論研究と実践研究の相補的な関係を構築する必要があるだろう。
第2は,教育心理学からの単独のアプローチではなく,教育諸科学の多様な学問分野を総合する学際的視点に立って,次の3つの包括的課題に取る組むことである。①理論研究の成果をカリキュラムや教材・教授法の細部に至るまで精緻化すること,②研究者の理論知と教師の実践知を結びつけ,研究が教育実践の改善にも教育理論の発展にもつながるように,研究者と教師の協働的研究体制を整備すること,③教育実践の絶えざる改革・改善のために,学力,カリキュラム,教師の指導力,学級経営,学校経営などの多様な観点から総合的に評価するための新しい教育評価の理論と方法を開発すること。
第3は,理論研究と実践研究を?ぐための新たな研究法を開発することである。伝統的な理論研究で用いられてきた厳密な実験研究の方法を,そのままの形で実践研究に適用するのは無理がある。なぜなら,教育実践は多数の要因が相互作用する複雑な現象であり,厳密な条件統制は不可能だからである。したがって,理論研究と実践研究の橋渡しをするためには,従来の実験室研究やフィールド研究の限界を克服するための新たな研究法の開発が重要になるだろう。

(指定討論) 市川伸一
「教育心理学者の立ち位置 -教育実践との関わり方のこれまでとこれから-」
戦後長きにわたって,教育心理学の不毛性が問われたころ,森先生の言われる「教育実践のフィールドに果敢に踏み込みながらもアカデミズムの輝きを失わない研究」というものに私たちはどれだけあこがれていただろうか。この20年ほどの間に,教育心理学者と教育実践現場との関わり方は明らかに変化しており,遅々たる歩みではあるが,教育実践に影響を与えると同時に,日本での研究の方法・内容も変化してきた。少なくとも研究上の問題意識が,学術の動向からではなく,実践を通して生まれることが増えつつある。
かつては,教育心理学者にとっての教育現場というのは,「データをとらせてもらう場」や「研究授業で助言をする場」であり,日常的な教育実践に直接関わることは少なかった。それが,授業の観察や分析,研究者自身の個別学習相談,教材やカリキュラムの協同開発というように,教師あるいは児童生徒と関わりながら研究するアプローチがしだいに盛んになってきたと言えよう。
教育心理学者に何ができるのか,何をすべきなのかは,こうした関わりを通してはじめて浮き彫りになってくる。たとえば,心理学で使われる学習者の内的過程を考察するための概念やモデル,データのとり方やその量的・質的分析手法というのは,大きな強みである。ただし,それらを一般的な知識や訓練として身につけても,すぐに実践場面で生かしたり,新たな研究が生まれてくるわけではない。では,何が必要なのかを話題提供から抽出し,考えていきたいと思う。