The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Nov 7 - Nov 9, 2014Kobe International Conference Center
The Japanese Association of Educational Psychology
The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Nov 7 - Nov 9, 2014Kobe International Conference Center

[JC04]ネットいじめと匿名性信念

金綱知征1, 戸田有一2, 足達昇3, 山崎澄夫4, 石原一彦5, 大橋正人6, 加納寛子7(1.甲子園大学, 2.大阪教育大学, 3.高知県立追手前高校, 4.高知県立高知東高校, 5.岐阜聖徳学園大学, 6.文溪堂, 7.山形大学)
企画趣旨 スマートフォンやタブレット端末などに代表される高機能通信機器や高速通信を可能とするネットワーク環境の急速な発展と普及に伴って, 「ネットいじめ」と呼ばれる新たないじめ行動が注目を集めている。ネットいじめの被害発生率は, 小学校で0.9%, 中学校で5.9%, 高等学校で16.8%(文部科学省, 2010)と, いじめ全体の発生件数からすれば少数ではあるが, 自分専用の携帯電話やパソコンを所持する児童の低年齢化に加えて, そうした子ども達の携帯電話利用状況や利用しているサイトなどを大人が詳細に把握・確認することが困難であることなどから, 今後も増加・深刻化する可能性が高いことが指摘されている(日本PTA 全国協議会, 2010)。
またインターネット(以下ネット)の世界では, 匿名性という性質から, 自身の感情や欲求といった内的側面にとどまらず, 性別や年齢など自身の外的側面をも偽装提示することが簡単である。それ故に例えば誰かが名乗っているネット掲示板上の仮名を別の誰かが意図的に名乗ったり,特定の他者の名前を無断で使用したブログやSNSサイトを立ち上げるなどの「なりすまし行為」が発生しやすかったり(折出, 2009), 安易に誹謗中傷の書込みが行われるなど, 誰もが簡単にネットいじめの被害者にも加害者にもなり得るとの指摘もある(文部科学省, 2008)。このような状況にあってネットいじめを始めとする種々のネット諸問題に対する有効な対策の検討は急務といえよう。
本シンポジウムでは, ネットいじめに関わる心理的諸要因の中でも, 特にネット諸問題に広く関わると考えられる「匿名性」の問題に焦点化する。3組の話題提供者によって, まず背景となる理論を検討し, 続いて調査結果を検討し, そして現場での実践について吟味するという3段階で, ネットいじめと匿名性問題との関連について包括的に検討する。最後に,情報リテラシーや情報モラル教育等の見地からの指定討論をうけて,ネットと匿名性の問題について議論を深めたい。

話題提供
ネットいじめ研究と背景の人間観
戸田 有一
従来型のいじめとネットいじめの研究について, 戸田・青山・金綱(2013)が国際的な動向をまとめているが, 次々と新たな研究が行われつつある。ここでは, その動向をふまえつつも、背景の人間観を問い直したい。ネットいじめの特徴として Pornari & Wood(2010)は匿名性と無境界性と群集化を,小野・斎藤(2008)は匿名性とアクセシビリティと傍観者性を挙げているが,内容的にかなり似通っている。正確にはネット環境は匿名ではないが,ネットいじめは,いじめる側が匿名であると思うことによる道徳不活性(大西・戸田, 印刷中)と,学校という枠を超えて短時間でエスカレートする特性をもっている。
そもそも, 対面状況であっても私たちは、「化粧」「感情演技」などにより, 程度の差こそあれ, 見え方の操作をしている(木戸ら, 2013)。ネット上では, その見え方(あるいは見せないままでの思われ方)の操作性が高く, 「なりすまし」による犯罪も多発している。近年のネットいじめ研究では, ネットという特別な状況での見え方の操作性の高さによる「自己呈示」のあり方や攻撃性の亢進が問題になっているように思える。
しかし, 感情労働研究で, 表層演技と深層演技という言葉で演技の深さや自覚の程度が論じられるのと同様に, ネット上の自覚的な「自己呈示」のあり方を問題にするだけでは不十分で, さらに深く, 別人格とはいかないまでも, ネット上でのアイデンティティとして自覚される「自己」のあり方も問題にする必要があろう。近年, 「ネット自己」「リアル自己」等の用語での研究が見られるようになっているが, そのような研究の流れと, ネットいじめの研究の流れを俯瞰して, ネットネイティブとも呼ばれる世代のネット問題研究を行い, その中にネットいじめ研究を位置付ける必要があるのではないかと考えている。
上記のような問題意識から, 最近の研究を概観するとともに, 今後行われるべき研究の方向性を展望する。その中で, 本シンポジウムで議論される「匿名性」あるいは「匿名性信念」がどう理解されるべきなのかを考えてみたい。

ネットいじめに関する心理的諸要因と匿名性信念との関連 金綱 知征・足達 昇・山崎 澄夫
これまでのネットいじめに関する国内外の研究の多くは行動的側面における実態解明にその主眼が置かれてきたことから, (例えば、文部科学省, 2007; Smith, Mahdavi et al., 2008), ネットいじめの行動的側面に関する知見は集積されつつあるといえようが, 一方で子ども達のネットいじめを始めとするネット問題の被・加害に関する認知, 感情, 態度といった心理的諸要因については従来型いじめのそれと比べると検討が不十分である。例えば, 子ども達は日々ネットいじめ等の被害者にも加害者にもなり得るリスクを抱えている。被害者になるリスクをどれだけ認識しているのか(被害リスク認知), また,そうした被害に遭うことをどれだけ不安に感じているのか(被害不安)などは,今後ネット問題に対する対策を検討する際の重要な情報となるが、十分な検討がなされていない。また,ネットいじめの加害行為に目を向けると, その生起に大きく影響を及ぼすと考えられる心理的要因の一つに「匿名性信念」が挙げられる。ネット世界では未だ実名を秘匿したコミュニケーションが主流であり, そのことがネット上での安易な誹謗中傷に繋がっていることが指摘されている。たとえば, 警察庁(2012)によると,ネット上において何らかの違法行為を行ったために検挙された者のうち実に74%が,ネットの匿名性を前提に犯行に及んだことを示唆していたという。しかし実は, こうしたネット上の匿名性はある種の信念にすぎず, 実際には特定の書き込みが誰によって行われたのかを明確にすることはそれほど難しくないという。この匿名性信念がネットいじめ加害行為の一因となっていると仮定すれば, それはすなわち加害行為への他者からの非難に対するリスク認知の指標の一つと捉えることもできよう。これらネットいじめに関わる心理的諸要因について, 高校生を対象とした調査結果からその様相と相互関連性について検討する。

デジタル版情報活用トレーニングノートを用いた授業実践 石原 一彦・大橋 正人
今回開発した「情報活用トレーニングノート(情トレ)」は, 情報活用能力の基礎を育てる学習教材である。小学校の学習指導要領総則には「児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け,適切に活用できるようにするための学習活動を充実する」と書かれている。また平成22年に文科省が発表した「教育の情報化ビジョン」には「・・・その基本的な操作方法の習得や基礎的な学習体験の機会を確保するために教育課程上まとまった時間の確保を検討することや, 基礎的教材としてのデジタル版「情報活用ノート(仮称)」等を開発することも考えられる。」と記載されている。「情トレ」はここで言う「情報活用ノート(仮称)」を意識したものである。
情トレは5つの章から成り, 第1章文字入力と 第2章情報収集で基本的操作を学び, 第3章から第5章では国民的課題である情報モラルを学習する。本教材の特長は, 疑似体験を取り入れることで実践的な学習を可能にすることである。たとえば, 実際にチャットやトークを匿名で送り合い, 体験後に匿名を実名に切り替えることで, ネットでのコミュニケーションには完全な匿名性がないことに気付かせるようになっている。
今回の発表では, 「情トレ」を用いて各地で行った授業の様子などを中心に, 本教材のねらいや教育効果について提案する。

【本シンポジウムは, 科学研究費補助金若手研究(B)「ネットいじめの生起と対応に関する心理的諸要因の解明」(課題番号25870960・研究代表者 金綱知征)による研究活動の一環である】