The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Nov 7 - Nov 9, 2014Kobe International Conference Center
The Japanese Association of Educational Psychology
The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Nov 7 - Nov 9, 2014Kobe International Conference Center

[JD02]小学校における法教育の可能性を探る法学・教育学・心理学の研究者の協同

樟本千里1, 橋本康弘2, 桑原敏典3, 中原朋生4, 磯山恭子5, 土井真一6, 根本信義7, 須本良夫8, 渡部竜也9, 二階堂年惠10, 二宮克美11(1.岡山県立大学, 2.福井大学, 3.岡山大学, 4.川崎医療短期大学, 5.静岡大学, 6.京都大学, 7.筑波大学, 8.岐阜大学, 9.東京学芸大学, 10.広島文化学園大学, 11.愛知学院大学)
企画趣旨
本シンポジウムの目的は、法学、教育学、心理学の研究者が協同し、①小学生に育成すべき法的概念の提示、②小学生の法的発達の実態に基づいて、③小学生向け法教育のあり方を議論することにある。そして、子どもの発達を踏まえた法教育研究の必要性を提案するものである。
近年、法教育は学習指導要領にも位置づけられ、急速に教材の開発が進められている(法教育研究会2005・関東弁護士連合会2011)。法教育は、「法律の専門家ではない一般の人たちが、法や司法制度、これらの基礎になっている価値を理解し、法的なものの考え方を身につけるための教育(法務省)」と定義され推進されている。法教育の理念は、一人ひとりの人間が,かけがえのない一個の個人として互いに認められる自由で公正な社会を目指すものであり、従来の道徳教育にも通じるものである。
道徳に関する発達研究では,幼児期から子どもが「公正」「権力」「個人の自由」といった法の基礎にある概念を認識していることが報告されている(Damon,1977;Turiel,1983)。米国では,心理学的な実証研究を背景に,幼児期から子どもたちの法的発達に挑戦する法教育プログラムも開発されている(Center for Civic Education,2001)。しかし我が国においては,中学校を中心に教材開発が進んでいるものの小学校、特に低学年からの法教育のあり方について本格的に検討されてきたことはないだろう。
そこで本シンポジウムでは,法学者と教育学者と心理学者が共同して,①子どもが学ぶべき法的概念の提示(法教育ミニマム・エッセンシャルズ探求部門),②子どもの法的概念発達の実態調査の報告(法的発達調査部門)、③学校現場における法教育の実際と上記調査が示唆するもの(法教育プログラム作成部門)を示し、小学校における法教育のあり方について議論を深めたい。

子どもが学ぶべき法概念について考える法教育ミニマム・エセンシャルズ探究部門
土井真一(京都大学)
根本信義(筑波大学)
まず法教育ミニマム・エッセンシャルズ探求部門の土井真一(憲法学)と根本信義(法実務学・弁護士)が法学者の立場から小学生に育成すべき法概念に関する報告を行う。小学生に法教育を展開する場合、抽象的な法概念をその本質を踏まえたうえで、小学生でも理解できる言葉に置き換える必要がある。
例えば、法教育の最もベースとなる民主主義という概念は、「みんなのことは、みんなで決めなければならない。」「みんなで決めるときには、一人ひとりが対等でなければならない。」「みんなで決めるときには、一人ひとりが自由に意見を言えなければならない。」「みんなで決めたことは、みんなで守らなければならない。」「みんなで決めたことが間違っていたと思われるときは、みんなで改めなければならない。」といった言葉に置き換えることができる。
本部門では、法学者の立場から小学生に育成すべき法概念の提示を行うとともに、小学校における法教育の意義、法と道徳との関係、教育心理学研究に期待すること等の話題提供も行う。

小学生の民主主義に関する概念発達
法的発達調査部門
樟本千里(岡山県立大学)
中原朋生(川崎医療短期大学)
ここでは法的発達調査部門の樟本千里(教育心理学)と中原朋生(社会科教育学)が,法教育の最も基礎となる民主主義に関する小学生の実態調査に関する報告を行う。本部門では,子どもたちの民主主義概念の発達状況を探るために,非民主的な3つの事象に対する善悪の判断に関する調査を行った。非民主的な3つの事象とは,第1に「みんなのことはみんなで決める」という民主主義の原則に反する状況,第2に「少数者の意見を尊重する」という原則に反する状況,第3に「皆で決めたことは皆で守る(または皆で決めていないことへの抵抗を認める)」という原則に反する事象である。
子どもの発達的な知見から,子どもの民主的な思考・態度を阻害するものには,視点取得能力の未熟さ,権威主義的思考,同調性の高さの3 点が考えられる。視点取得能力の未熟さは,自己と他者の信念や思考,価値観などの違いに気づかない可能性,気づいても複数の視点を統合することが困難であることにつながる。Piajet やKohlberg流の他律から自律へという一元的な発達理論に基づけば,幼い子どもは権威志向的であることが明らかにされており,公正,正義などの概念形成には児童期後期あるいは青年期まで構成されないと考えられている。このことから児童は,権威者が行うことならば正しいと考えるのではないかと予想される。また,児童期とくに中学年はギャングエイジともよばれ集団性が芽生える時期であり,同時に良い子志向,対人同調的であることも知られている。このことから,児童は多数者への同調を過度に重視するのではないかと予想される。
認知的制約である,視点取得能力の未熟さはその発達時期を待たなければならないが,権威志向や対人同調性に関しては価値観の要素も多く含み,教育可能性の余地があると考えられる。したがって,児童期からの法教育を考えるにあたり教育プログラムとして操作できるのはこの2 点であろうと思われる。そこで,特別な法教育の機会を与えられていない児童の意識調査を行うに当たり,子どもの非民主的な事象における考え方に対して,権威性と同調性がどんな効果をもつのかを明らかにする必要があると考えた。
上述の3つの事象に対して次のような調査計画を立てて調査を行った。第1の「みんなのことはみんなで決める」という原則に反する状況に対する児童の善悪判断への,学年(2 年生,4 年生,6年生)×権威(先生,私)×同調(多数者への同調,少数者への同調,同数)の影響を検討した。
第2 の「少数者の意見を尊重する」という原則に反する状況に対する児童の善悪判断への,学年(2年生,4 年生,6 年生)×権威(先生,私)×同調(少数者の意見表明,同数者の意見表明)の影響を検討した。第3の「皆で決めたことは皆で守る(または皆で決めていないことへの抵抗を認める)」という原則に反する状況に対する児童の善悪判断への学年(2 年生,4 年生,6 年生)×同調(みんなで休む,ひとりで休む)×関与(関与している,関与していない,当事者以外も関与)の影響を検討した。
さらに,それぞれの善悪判断に対しての理由づけを問い自由記述で応えさせた。第1の「みんなのことはみんなで決める」という原則と第2 の「少数者の意見を尊重する」という原則に対しては,
①多数者への同調(人気がある),②配慮(意見が通らなかった側への),③勝手(手続きが無視されている)の3つの基準で分類を行った。第3の「皆で決めたことは皆で守る(または皆で決めていないことへの抵抗を認める)」という原則に対しては,①抵抗する(休む)ことが悪い,②個人の自由を認める,③配慮(他の理由を探す),④手続きの不備の4つの基準で分類を行った。それぞれの理由づけにおいても,学年や状況の違いによって,判断理由に違いがあるのかどうかを報告する。
本部門では,小学生の法教育の可能性について,子どもの発達的な変化から話題提供を行うものである。それに加え青森,大阪,岐阜,広島と複数の地域で調査を行っていることから,それぞれの地域ごとの特徴を報告することで,民主的な規則に関する考え方への環境要因の影響についても話題提供を行うものとする。

学校現場における法教育の実際
法教育プログラム作成部門
須本良夫(岐阜大学)
渡部竜也(東京学芸大学)
ここでは法教育プログラム作成部門の須本良夫(社会科教育学)と渡部竜也(社会科教育学)が学校教育における法教育の実際と上記の調査が法教育に示唆するものを報告する。
小学校教育における法教育は、社会科教育、道徳教育、特別活動といった学校教育の様々な場面で展開されている。社会科教育においては高学年を中心に法、民主主義、司法制度といった法的概念や知識を直接の学習対象としている。また道徳教育では、公正、個人の尊重といった法の基礎にある価値や概念を扱っている。また特別活動では、クラス憲法づくりや民主的な学級経営などを子どもたちは民主主義概念を体験的に学んでいる。
法的発達調査部門が行った調査では、低学年、中学年、高学年と民主主義に関する概念の発達に変化が見られた。本部門では、小学校の現場の状況を踏まえ、本調査結果が示唆するものを報告するとともに、教育心理学研究に期待すること等の話題提供も行う。

引用文献
Damon,W. 1977 The Social World of The ChildJossey-Bass.
Turiel,E. 1983 The Development of Social Knowledge Cambridge University Press.
Center for Civic Education 江口勇治監訳 2005 『テキストブック・わたしたちと法』現代人文社.
法教育研究会 2005 『はじめての法教育』ぎょうせい.
関東弁護士連合会 2011 『これからの法教育』現代人文社.

本シンポジウムは、科学研究費補助金基盤研究(B)「法・心理・教育研究者の協同による小学生の発達段階に対応する法教育プログラム開発(24330242)代表:橋本康弘」の助成に係るものである。