The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Nov 7 - Nov 9, 2014Kobe International Conference Center
The Japanese Association of Educational Psychology
The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Nov 7 - Nov 9, 2014Kobe International Conference Center

[JE01]認知カウンセリングの講習・研修のあり方

市川伸一1, 藤澤伸介2, 深谷達史3, 篠ヶ谷圭太4, 和田果樹1(1.東京大学, 2.跡見学園女子大学, 3.群馬大学, 4.日本大学)
■企画趣旨

筆者(市川)が,東京工業大学で地域の児童生徒を対象にした学習相談室を開設した1989年から,四半世紀が経過した。教育心理学者の実践的研究活動として始められたこの活動は,「認知カウンセリング」と呼ばれ,心理カウンセリングのようにケース検討会を行って相談・指導の力量を高めるとともに,子どもたちの学習の実態把握や各自の指導経験を,基礎研究としても生かしていく努力がなされてきた。近年では,認知カウンセリングの考え方をもとに,児童生徒の学習方略の改善をはかる「学習法講座」や,日常的な習得の学習における授業設計として「教えて考えさせる授業」などが,この研究会をベースにして検討・実践されている。
しかし,その一方で,本来の認知カウンセリングそのものの,講習・研修・トレーニングなどについては,あまり大きな進展が見られなかった。初期に提案された方針や技法(市川, 1991, 1993)はあるが,心理カウンセリングのようなsupervision や体系的な研修システムもなく,授業研究における公開授業や協議会もしにくい。他者のカウンセリングのようすを知る手がかりは,ほとんどの場合,ケース記録だけであって,現実のリアルな場面の様子をもとにして認知カウンセリングを学習したり検討しあったりする機会はなかなかもてなかったといってよいだろう。
とくに最近,認知カウンセリングが,研究者や学生が実践経験をもって研究に生かすというだけでなく,個別学習支援のニーズが高まり,また,教員養成や教員研修にも有効であることが認識されるようになってきた。こうなると,認知カウンセリングをどう学ぶかということ自体が,大きなテーマになってくる。今回のシンポジウムは,そうした講習・研修の試みを紹介しながら,認知カウンセリングの今後の展開を考える場にしたいという趣旨で企画された。対象や方法がそれぞれ異なる藤澤,深谷,篠ヶ谷の3氏から話題提供をしていただき,現在認知カウンセリングの実践を初めてまもない和田氏から率直な疑問や悩みを提出してもらう,という形で進行していきたい。

■大学の科目「認知カウンセリング」実践報告
藤渾伸介

筆者の所属大学の臨床心理学科の教育課程には専門科目に「認知カウンセリング」が含まれている。半期15回の講義だけで認知カウンセラーとしての十分な技量を習得させることは不可能に近いが,最近全国的に奨励されている受講生参加型の講義方法により,少なくとも「教師による個別学習指導」でなく「認知カウンセリング(以下CC)」と呼べる面談が実施できるようにすることを目標に,授業を行ってきている。受講生は,教職課程履修者及び臨床心理学科の学生である。
この科目を担当して10年になるが,この間に気づいた受講生の特徴(カウンセラー入門期の問題点)は,次の5点である。1)正答教示的個人指導の体験が染み付いている。2)学習者としての疑問が未解決のまま残っている。3)学習方略の手持ちが少ない。4)CCの技法は,解説を聞くだけでは習得できない。5)初体験時は,技法2つの実行がせいぜい。従って,盛り沢山に教え込んでもカウンセラーとしての成功体験には結びつかないので,1)クライエント体験をさせる。2)未解決問題の解決体験でCCの価値を理解させる。3)他教科の指導に任せる(教育心理学,認知心理学など)4)ロールプレイなど練習場面を作る。5)2技法のみを完全習得とし,他の技法は紹介のみで自己研讃を促す。という方針で当たるようにしている。
筆者が選んでいるCCの2つの技法は「能動的な聴き方」と「教訓帰納」である。「能動的な聴き方」は,クライエントに適切に自己診断させるための技法で,CCはここから始まる。学習者の自発的自己診断は必ずしも問題解決につながるとは限らないので,能動的な聴き方で分析的につまずきの原因に気づかせるのである。「教訓帰納」は,問題解決の後につまずきを一般化し,教訓を引き出して,今後の学習改善を図るものである。つまり,一つの問題解決単位の人口と出□の技法をまずはおさえておこうという考えである。
受講者には,クライエントを自分で見つけてCCを行わせ授業時間にケース報告を求めているが,再挑戦も認めてどの受講者もある程度の成功体験ができるように配慮している。CCの意義に納得がいけば,その他の技法などはカウンセラー自身が体得していけるものだと考えている。


■大学の講義型授業における認知カウンセリングの導入
深谷達史

認知カウンセリングは,個別学習相談を通した実践的研究活動であり,カウンセラーとなるのは主に研究者や学生とされるが,そこで必要とされる資質は学校の教師にも求められるものだと考えられる。個別での学習指導場面はもちろんのこと,例えば授業においても学習者の認知的なつまずきをみとり,克服するような指導を行えることは重要であろう。
こうした発想のもと,筆者は教職課程を受講する学部学生に対する授業(「教育内容方法学概論」)において認知カウンセリングを取り入れた授業を実施している。授業は100名以上の学生が受講する講義型の授業であるため,一人ひとりがケースを報告する機会は持てない。しかし,中間レポート課題として認知カウンセリングの実施を求め,すべての受講生が認知カウンセリングを経験する。さらに,授業の中で代表として複数名のケースレポートを取りあげ,事後検討会を実施した後,自分のケースをふり返り,よかった点と改善可能な点を考えることでやりっぱなしにならないように配慮している。
また,本授業は認知カウンセリングに特化した演習型の授業として開講されていないが,むしろ講義であることを生かし関連する幅広いトピックを取り上げている。具体的には,「知識」「メタ認知」といった認知心理学の基本的な事項とともに,「授業づくり」「教育評価」といった一連の学習指導についても扱っている。したがって,認知カウンセリングで培おうとする学力のイメージを理解するとともに,ケースで得た経験を一斉授業など別の文脈に転移させ指導力の向上につなげられるような構成になっている。
なお,以上の取り組みは東京大学の植阪友理氏と共同で進めているもので,筆者たちは認知カウンセリングに取り組むことが個別指導や一斉指導の進め方にどのような影響を及ぼすかを定量・定性的に検討している(e.g., Fukaya & Uesaka, 2013)。本実践においても実証的なデータをもとに,学生がどのように認知カウンセリングに取り組み,その経験がどのように学習指導のあり方に影響を及ぼしたのかを紹介する。加えて,教職課程に認知カウンセリングを導入する意義と方法についても議論したい。


■学校教員と研究者がケースに携わりながら展開する研修
篠ヶ谷圭太

研究者が認知カウンセリングの考え方や手法を学校の教員に伝え,学校での教育実践の向上に寄与するためには,どのような研修の進め方が考えられるであろうか。筆者は大阪府貝塚市の教育センターの要請で,2013年度より,市内の学校教員を対象に認知カウンセリングの研修を行うこととなった。まず,市内の小学校,中学校,高校の教員を対象として研修会を開催し,「自立した学習者の育成」,「学習者のつまずきの診断」などの重要なコンセプトやそれに関わる手法を伝えた。
次に,市内の公立中学校で行われた放課後の個別学習指導に筆者も同席し,教員(O先生)とともに,中学1年生の男子生徒(Mくん)の指導にあたった。教科は数学(文字を用いた方程式)を扱った。Mくんが問題を解き,O先生が解説を行う形で指導が展開される中,筆者はMくんのつまずきの原因を探り,随時,補足説明を行った。指導終了後,O先生(他2名の先生)とともに,Mくんに特徴的な学習上の問題点とは何であったのか,また,その問題に対してどのようにアプローチしていけばよいのかについて議論を行った。さらにその1か月後,教育センターで市内の教員を対象に再度研修会を開き,上述した個別指導の様子を紹介し,学習者のつまずきに着目した指導のあり方について議論を行った。
このように,貝塚市で進められた学校教員を対象とした研修は,単に研究者から教員へと認知カウンセリングの考え方や手法を伝えるだけでなく,教員と研究者が協同して一人の生徒の指導にあたり,その事例を紹介しながら議論が展開された点に特徴がある。同じ市内の教員が実際に関わった事例をもとに研修会が行われたことで,参加者が認知カウンセリングの考え方や手法を取り入れる際の負担感は大きく減じられたものと考えられる。さらに興味深いのは,前述のO先生が,「学習スキル」や「学習方略」に以前よりも着目するようになり,そうした力を意識して通常の一斉授業を構成するようになったという点である。
シンポジウムでは,そのときの個別指導および指導後の議論,全体研修会での議論の様子を紹介する。学校教員と研究者がともに個別指導にあたりながら進められる研修方法のメリットや問題点について,参加者の方々と議論を深めたい。

◆認知カウンセリングに関する初期の基本的文献として,市川伸一編(1993)『学習を支える認知カウンセリング』,市川伸一編(1998)『認知カウンセリングから見た学習の相談と指導』が,現在市川研究室のWebページから自由にダウンロード可能になっている。