The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Oct 7 - Oct 9, 2017Nagoya Congress Center
The Japanese Association of Educational Psychology
The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Oct 7 - Oct 9, 2017Nagoya Congress Center

[JC01]学力の評価と測定をめぐって

大塚雄作1, 柴山直2, 遠藤利彦3, 植阪友理4, 野口裕之5(1.独立行政法人 大学入試センター, 2.東北大学, 3.東京大学, 4.東京大学, 5.名古屋大学)
 大学入試改革が社会的にも大きな関心を呼んでいる。そこでは,「学力の3要素」,「多面的・総合的評価」等,さまざまなキーワードが飛び交っているが,「学力」をどう捉えるか,それを状況に応じてどう評価するかといった基本的な部分で,十分な理解が共有されていないということが痛感されることも少なくない。しばしば,形成的評価に適合する手法を短絡的に選抜に利用しようとしたり,調査と選抜の違いが安易に無視されたり,目的にふさわしい評価手法を状況に応じて選択するという基本が存外軽んじられてしまう。そこで,本シンポジウムでは,学力の測定をめぐって,大規模学力調査,形成的評価,非認知的要素の評価などの異なる観点から,学力評価のあり方について改めて考えてみることにしたい。
大規模学力調査のポイント
―学力のエビデンスとテスト―
柴山直(東北大学)
 大規模学力調査においては,一般的な調査デザインに加えて,学力の測定モデルとでもいうべき心理計量モデル(psychometric model)も同時に考慮する必要がある。そのため学力調査の設計ないし利用にあたって念頭に置くべきポイントは,
 1)心理計量モデルの考え方への理解,
 2)目的と設計仕様との整合性の担保,
 3)個人スコアと集団スコアの使い分け,
 4)データ収集デザインの設定,
 5)エビデンスとして必要な強度の確保,
とまとめることができる。
 心理計量モデルについては個々の定式化への理解を含めてその基本的な考え方を把握しておくことが重要となる。学力,パーソナリティ,適性などを心理学的特性と総称するならばこれらは実体としては存在しない。そこで,それらを仮に存在するものとして,心理学的モデルに組み上げ,それを介して数量化し個人差を表現する。また心理計量モデルはきわめて統計的なモデルであって,認知プロセス自体の解明や記述にはほとんど関心がおかれていないことにも注意が必要である。
 次に,調査目的に設計仕様を合致させなければならない。たとえば選抜目的なら分割点付近で個人差の識別が最大となる設計が必要になろう。しかし現実には相反する目的が一つのテストに課せられることはしばしば生じる。
 また,得られたスコアを個人の処遇に利用するのか,それとも,行政判断のようにある集団を総体として見るのに使うのかの問題がある。全国学力学習状況調査のように左裾の重い分布の平均を上げようとすれば,そのあたりの集団の平均を上げる方がそうでない集団の平均を上げるよりも効率的である。しかしそのような対策は個々の児童生徒の学力向上に資する指導とは言い難い。
 さらに,一つのテストでカバーできる範囲は時間制限のため,本来測定したい内容量の3分の1程度といわれる。その一方でたとえば子どもたちの学習定着度を領域ごとにきめ細かく測定しようとするならば,データ収集デザインとしては,一冊子一斉実施方式ではなく,IRTモデルにもとづくマトリックス・サンプリング(重複テスト分冊法)などを採用する必要がある。
 最後に,対象者にとって不利益となるような調査・実験をおこなってはならない教育において,より客観的なエビデンスを得るために,ランダム化比較実験や疫学的アプローチはもっと利用されてしかるべきものであることを指摘する。
日々の授業・学習改善に寄与する評価と測定
―心理学を生かした実践的試みからの考察―
植阪友理(東京大学)
 大規模学力調査や入試等における測定評価は非常に重要な問題である。しかし,テストの利用はそれだけにとどまらない。本発表では,子どもの学習改善や教師の日々の授業改善に寄与する評価や測定のあり方について考えてみたい。
 私たちの研究グループでは,長年にわたって,学習上に悩む子どもたちの支援を行ってきた。その中で,狭義の学力(いわゆる知識・技能)のつまずきの原因として,日々の授業の受け方や家庭での学習の仕方等,学習方略や学習観に問題の根本的原因が潜んでいることに気づかされた。
例えば,自分の間違いの理由を分析するというメタ認知的方略が活用できていないために,くり返し問題を解きながらも,学習成果を上げられず,一種の学習性無力感に陥っている学習者も見受けられる。間違いを振り返らない(振り返れない)理由の背景には,失敗は見たくないという失敗を忌避する学習観も伺われた。こうした子どもが悩みから解放されるには,学習観や学習方略についても広義の学力として含め,改善を促す必要があるだろう。
 学習方略や学習観は「学び方」と捉えられ,古くからある心理学の独特な発想である。近年では,こうした広義の意味にまで拡張して学力を捉えようとする機運が高まっている。例えば,新指導要領にむけた審議のまとめにおいても,「何を学ぶか」のみならず「どのように学ぶか」を方向づける必要性が議論されており,21世紀型スキルやキー・コンピテンシーなどといった国際的な議論とも軌を一にする。
 では,どのようにすれば学習観や学習方略を含めて育てるような評価,測定を学校現場の中で実現できるのだろうか。本発表では,学習観や学習方略といった広義の学力にまで視野を広げ,それらを育てるような評価のあり方を模索した実践的試みを2つ取り上げる。1つは,学校現場の数学教師の床勝信教諭(現在は中学校教頭)が筆者らの研究グループと連携しながら行った実践である。学校で行われている中間期末テストを抜本的に見直し,学習観の改善にまで目指した実践である。もう一つは,広義の意味での学力を学習改善/授業改善のために測定することを目指した算数数学基礎学力・学力学習力診断テストCOMPASSの開発と,それを利用した学校での実践である。実践の具体例として岡山県日生西小学校を取り上げる。以上2つの実践例を踏まえ,日々の授業改善・学習改善に寄与する測定評価のあり方の方向性について議論したいと考えている。
「非認知」なるものの発達と教育
―殊に学力形成との関わりにおいて―
遠藤 利彦(東京大学)
 話者は,学力の測定や評価に関わる研究のはるか埒外に位置する者として在る。当然のことながら,この領域の先端部分における熱い議論の何たるかを知らない。もっとも,話者が専門とする子どもの発達に関わる研究領域では,人の生涯に亘る心理社会的適応や経済的安定性などを長期的に支え得る絶対的な基盤として,殊に人生早期に培われる「非認知」的な心の性質に,近年にわかに多大な関心が寄せられるようになってきている。そして,そこでは,その「非認知」的な心の構成要素のいくつかが,学童期以降の学力や認知的能力の最も効果的な予測因となり得ることが明らかにされつつあるのである。実のところ,こうした関心の高まりは,一見,子どもの発達や教育の世界とは相対的に遠いところに位置しているかに見える経済学や政治学などの領域において特に顕著であり,率直なところ,話者のように長く発達心理学の中に在った者からすれば,何を今更という感がない訳でもないのだが,何はともあれ,社会全体の注目が,これまで子どもの認知的能力の陰に隠れていた心の機能に注がれるようになってきていることについては,それを素直に喜びたいと考えるものである。しかし,James Heckmanなどに代表される教育経済学の領域において,この「非認知能力枢要説」のエビデンスとされているものの中には,心理学的視座からすると,いささか疑念を抱かざるを得ないものが少なからず含まれていることも否めないところである。このシンポジウムでは,Heckman以来の「非認知」なるものをめぐる大きな議論のうねりを批判的に再吟味し,人の生涯に亘る心身の健康や社会経済的成功などの鍵を握るとされる「非認知」的な心の性質とはそもそも何なのか,とりわけ子どもの学力との関連で真に問われるべき「非認知」的な心の構成要素はいかなるものであるかを審らかにしようと考える。その上で,実は,「非認知」なるものと学力との因果的連関に関しては,これから解明されなければならない問題が手つかずに多く残されていることを指摘し,今後のあり得べき研究の方向性を話者なりに占うことにしたい。