The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Oct 7 - Oct 9, 2017Nagoya Congress Center
The Japanese Association of Educational Psychology
The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Oct 7 - Oct 9, 2017Nagoya Congress Center

[JC03]他律から自律を促す学習支援とは分野越境から実践をふりかえり諸理論とのリンクを試みる

寺田未来1, 石上浩美2, 福嶋ゆい#3, 中川和亮#4, 中島梓#5(1.大手前大学, 2.大手前大学, 3.大手前短期大学, 4.大手前大学, 5.立命館大学)
企画趣旨
 大学生の就学・学修意欲の低下,基礎学力の低下の問題が取り沙汰されて久しい。一方で彼らへの他律的ではない自律的な学習の促進も重要視されている。自主・自律的な学習の促進に有効なアプローチとして,自己調整学習(SRL)研究がある。大学生のSRL研究にはさらなる蓄積・発展が必要である。また昨今の状況を鑑みても,「レポートが書けない」,「授業に出席していない」などの大学生にいかにSRLを促し,支援していくかについて検討を重ねる意義は大きい。本企画では,「学習に対しあらゆる悩み・困難を抱える大学生に対するSRLの促進・支援法」とはいかなるものか,そしてその支援がどのような意味をもつかについて,実践者による事例をもとにSRL諸理論とリンクさせながら,考えていく。はじめに寺田によるSRL理論と問題意識の提示を行う。その後,現場で1対1の学習支援に継続的にかかわった3名の実践者(福嶋・中川・中島)による事例を報告する。最後に,教育心理学の観点から指 定討論者(石上)をまじえ,フロアの実践家,理論家,そして他分野・領域の研究者とともに議論する。
本企画の特徴は,実践者3名が学習支援や認知カウンセリングにかかわる心理学をバックグラウンドとしていない点にある。それぞれ社会学,ライティング,初年次,リメディアル,キャリア教育を専門とする。まさしく異分野の視点の交流から生まれる新たな視座を得ながら,そして周辺領域から分野越境的に実践をふりかえることを通じ,学習支援に新たな示唆や展開をもたらすことができれば幸いである。

SRL理論と問題意識
(寺田未来)
 SRL研究は動機づけ及び認知を統合させ,自ら学ぶ力について理論的に解明する研究である。SRLとは動機づけ,メタ認知,行動において主体的に関与する学習と定義される(Zimmerman, 2011)。自ら目標をたて,目標達成に必要な自己効力感,自律性を高めたり,学習過程をモニタリングし自己評価したり,つまずきを明確にするなどのメタ認知方略を用いるなどである。加えて他者に援助を求めたり,学習施設に向かい調べ物をしたり主体的に学ぶことも含まれる。動機づけと認知は相互に関連し合いPlan-Do-Checkサイクルをなす(Schunk & Zimmerman,1998 塚野他訳 2007; Schunk & Zimmerman,2007 塚野他訳 2009)。各サイクル過程において,SRLの上達レベルと初歩レベルではそれぞれの学習活動に違いがある。従来,学習方略の指導や動機づけの介入にかんする多くの実践や知見が示されてきた。
 しかし,SRLの初歩レベルに特化した支援法は十分に検討されておらず,またSRLに辿り着くまでの未熟者は少なくない。また大学生がかかえる学習に対する悩みや困難はより複雑化している。そこで大手前大学の学習支援センターにおける教え手(実践者)と学び手(学生)による1対1での学習支援事例を取り上げ,2者間のインタラクションによる実践例から,いかに未熟者にSRLを促し支援すべきか,その意義は何かを問う。

1年生の必修科目対応を通じて
(福嶋ゆい)
 授業で課される基礎学力向上テストのために学習支援センター(以下,センター)を訪れたXは小数・分数のかけ算・割り算に不安があった。例題を繰り返すなかでXは割り算の筆算をこれまで目にしたことがないことがわかった。さらに,九九の暗記に限界があること,文章問題の言葉が理解できないことも明らかになった。Xには来室のたびに教え手が解き方をマン・ツー・マンでやってみせ,次にやることを具体的に指示した。Xは自分自身が今の年齢や学年であれば当然あるはずの学力がないことを自覚しており,そのことに危機感をもっていた。センターに通いながら「できるようになりたい」と目標設定し,何度も例題に挑む姿は自主学習にかわりない。この後Xは約3ヶ月にわたり,2週に一度のペースでセンターを利用した。九九と整数同士による割り算は定着した。手取り足取りという印象は否めないが,それでもセンターへの来室があれば解き方だけでなく学習意欲を高め,自主学習に導くことができた。
 英語の構造をわかっていなかったYは,これまで「聞いたことのある語感かどうか」に依拠しながら課題をクリアしてきていた。Yは1年を通じ来室した。英語の学力が向上したかは疑問だが,少なくとも英語科目の単位は取得でき,教え手と信頼関係を形成した。そしてY自身が大学へ来ることに楽しみを見出した様子もうかがえた。ほかにも辞書を使えない学生,できるなら答えを早く教えてほしいとする学生,「センターなら辞書を使わずとも単語の意味を教えてもらえる」という認識をもつ学生は少なくない。このような学生への対応を通じたやりとりについても示していく。
 
2年生のレポート対応を通じて
(中川和亮)
 日々アルバイトに精を出し,4,000字レポート提出期限まで時間的余裕がないにもかかわらず,何を書いていいのか全く考えが及ばないXについてである。Xの興味・関心から問題意識を浮上させようとしたが,そもそも問題意識がなく,「テーマが定まっていない」,「明らかにしたいことがわからない」という状況でなかで,問題意識を浮かび上がらせ,課題をサポートするのは非常に困難であった。参考になる著書,論文を一緒に検索しながら問題となるテーマを浮上させようとした。Xに印象に強く残った文献を見つけ出せるよういろいろな角度からサポートをした。Xはほぼ毎週来室し,「文章を書く」という障壁は取り除かれた。ある日,Xが「文字数がオーバーしてしまい,見直すと無駄な部分って結構ある」と話した。Xの目標が,「いかに4,000字書き切るか」から「いかに文章を推敲して仕上げていけるか」に変化をきたしたのである。Xは毎週足を運んだため,信頼関係を築きながら課題に取り組むことができ,4,000字レポートを提出することができた。教え手には,学生の学習への恐怖心を取り除く役割がある。当初Xは「文章を書く」ことに対し全く考えが及ばず何を書けばよいかわからないともみえる状況だった。ところが,数ヶ月で「いかに文章を推敲して文章を仕上げていける」まで「文章を書く」意識が変化したのである。発表ではこのやりとについて詳細に示していく。

4年生の卒論対応を通じて
(中島 梓)
 卒業論文の支援を求める学生の多くは,修得単位数が足りず,卒業論文のテーマも決められず,何をどのように進めればよいのか思い悩んでいる。彼らに対しては,卒業論文よりも,まずはセンターに通わせ学習習慣をつけさせることが支援の中心になる。Xは,当初大学にまじめに通う学生であった。しかし,授業が本人にとって心理的負担になり始めた頃から,徐々に成績全般が振るわなくなった。3年生になりゼミに所属した以降も,修得単位数が足りず,履修科目のうちひとつでも単位を落とせば4年間での卒業が叶わなくなるという状況にまで追い込まれていた。
 教え手は,まず他愛も無い対話を繰り返した。Xの緊張感を取り除き,センターへの来室を習慣づけさせることが狙いであった。対話を繰り返すなかで,Xの性格や特性,置かれている状況を捉え,教え手は2つの目標を課した。1つは各授業を3回以上は休まないこと,もう1つは履修する各授業の課題レポートを全て期限内に提出することである。Xが多少の努力をすることによってクリアできそうな目標を設定し,一定期間教え手の管理・指導下でXに学習を進めさせた。Xは単位を全て修得でき,本人の予想を上回る成績を収めることができた。これはXにとって,卒業論文に対する意欲の芽生えに繋がった。その後,教え手主動からX主動へ,すなわち,教え手がXに話しかけ目標提示を行うことから,Xが教え手に話しかけ,自ら目標を立てる側へと徐々に切り替わった。Xはセンターを定期的に訪れ,卒業論文執筆に励んだ。順調に執筆が進んでいるかどうかを見守ることが,Xへの中心的支援になっている。この一連のやりとりを発表では示していく。