The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Oct 7 - Oct 9, 2017Nagoya Congress Center
The Japanese Association of Educational Psychology
The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Oct 7 - Oct 9, 2017Nagoya Congress Center

[JC04]学びのユニバーサルデザイン(UDL)に基づく教育実践の再考

名越斉子1, 川俣智路2, 松戸結佳#3, バーンズ亀山静子4(1.埼玉大学, 2.北海道教育大学, 3.東京都立蒲田高等学校, 4.早稲田大学)
企画趣旨

 学びのユニバーサルデザイン(Universal Design for Learning, UDL)は,米国のCAST(The Center for Applied Special Technology)が提唱している,学ぶための選択肢を多様にすることによって,教室における学びを,誰にとっても達成可能となるように調整するための理論的枠組みである。近年,日本においてもユニバーサルデザインを志向した教育,あるいはUDLに基づいていることを謳った実践報告が増え,UDLはよりいっそう注目されるようになっている。
 しかし,「何がUDLに基づく教育実践なのか」という点に関しては,まだ明確にはされておらず,ユニバーサルデザインを取り入れた他の教育実践との共通点や相違点の整理もされているとは言えないのが現状である。そのため,UDLに対する誤解や混乱が生じたり,UDLの理念に合致しない教育実践も少なからず見受けられたりしている。そうした結果,UDLがもたらすはずの学びの豊かさを,児童・生徒が十分に享受できてない現状があるのではないだろうか。
 そこで,本シンポジウムでは,まず,高校及び小学校で行われたUDLに基づく教育に関して,実践内容にとどまらず,実践に至るまでのプロセスとその結果について報告する。そして,それらをUDLの観点で詳細に解説し,フロアと議論することで,「UDLに基づく教育実践とは何か」という点について再考することを目的とする。また,UDLに関する最新の知見が発信されるUDL-IRN Summit 2017の報告からUDL研究の動向を探り,今後の我が国におけるUDLに基づく教育実践のあり方について提起したい。

高等学校におけるUDLを活かした国語授業の実践
松戸結佳
 本校はエンカレッジスクールであり,義務教育範囲からの学びなおしを目指した授業を日々行っている。しかし,学習到達度を測定すると義務教育範囲の学習が身に付いていない生徒が約8割いる一方,四年生大学一般入試で合格が目指せるほどに読解力のある生徒やその中間にある生徒が約2割おり,偏差値にして30~60までと値に幅のあることが確認された。また,軽度知的障害や発達障害を持つ生徒,外国語を母語とし日本語力が不十分な生徒など特別な支援を要する生徒も同教室内に在籍しており,個々の学習形態のニーズも多様である。このような状況で,全員一律での指導を試みると,その指導法に合わない学習者が現れるのも必然である。そこで,多様性に応じ,教室内全ての学習者の能力を伸ばすためにUDLを活かした授業を行った。
 本実践では,UDLの導入により生徒が主体的な学習者になること,また,自身の目的に向けて学べる学習者になることを期待した。
 授業者が意識して行ったことは,事前に「カリキュラムの障害」を想定し授業を設計することである。授業における生徒の適応が悪いとき,生徒に障害があると考えるのではなくカリキュラム自体に障害があるとUDLでは考える。「授業者がどう教えるか」ではなく「学習者がどのように学ぶか」を考え,授業や教材に潜むカリキュラム上の障害を事前に見出す。例えば,筆記が遅いためにノートを取るので精一杯で授業理解まで及ばない生徒がいると考えられた場合,ノートを書かなければ学べないカリキュラム自体に見直しが求められる。そうして問題が見いだされれば板書の撮影や代替のプリントなどオプションをいくつか用意することが可能になる。事前に「カリキュラムの障害」を授業者が予測することで,授業中の学習者の適応度は高くなる。本校はICT環境や人材資源が他校と比し特に優れた状況にあるわけではない。しかし,用意できるものや既に有るものでも十分,複数のオプションの提供は可能である。UDLというと準備が大変なイメージも現場の教員の中にはあるかもしれない。しかし,ガイドラインに沿ってできるところから着手していくだけでもその効果は確認される。本校での実践報告はどのような学校においてもUDLの実践が可能であることを示すものであると考える。
 本シンポジウムでは,本校でUDL授業の実践をし,どのような変化や効果があったと言えるのかについて検討し報告したい。そして,高等学校におけるUDL実践の普及の一助になれば幸いである。


UDLは何を意図された実践であるか?〜UDLの実践からその意図を検討する〜
川俣智路
 UDLが実践に適用するためには,学ぶ内容が明確になっているか(ゴールの明確化),ガイドラインに沿って学ぶための選択肢が複数用意されており柔軟な利用が可能となっているか(オプションの用意),子どもたちが選択肢を用いて多様な学びを実現しているか(行動,学習内容の評価),という3点を満たしていなければならない。
 しかし,当然のことながら学ぶ内容は毎回異なっている。それに伴い,子どもたちが利用するオプションも学ぶ内容やその子どもの特性によって異なってくる。そして,子どもたちが学びにアクセスできたかどうかという評価も,目的と方法が異なっていれば異なってくるだろう。つまり,UDLを適用した実践は,「これをしていればUDL」といった方法や,「これさえ守っていればUDL」という基準がないのである。このことが,UDLを取り入れようとした際の混乱につながっていると考えられる。
 UDLを取り入れた実践を展開するために,自らの実践を整理して検討しながら,ゴールの明確化,オプションの用意,行動,学習内容の評価,それぞれの実践方法を計画していかなければならないのである。そういった点ではUDLにはマニュアルはない。あるのは原則と,それぞれ個々の実践に関する取り組みのケーススタディなのである。
 本報告では,これまでに実践報告された小学校の授業にUDLを取り入れた実践について,「何を実施したか」ではなく「どのように目的を決めて,どのような意図を持ってオプションを用意して,その結果をどう意味づけたか」という点について検討し報告することを目的としたい。当日は,国語のひらがなの学習に関して,UDLを実施するための計画,目標の設定,実際の教室の場面の変化,実施後の様子の意味づけについて詳しく紹介する予定である。今回はひらがなの学習を取り上げたが,これは漢字や英単語,英文法の学習,算数的活動・数学的活動の展開,理科や社会の探究学習などにも十分応用可能なものである。本報告では特に,児童がどのような場面で学びにつまずいて学びに参加することができていなかったのか,その児童を教員はどう理解していき,そして目的に合わせてどのような手段を講じていったのか,そのプロセスを明確にして,今後UDLを実践していく際の一助となるような報告としたい。

UDL-IRN Summit報告:米国におけるUDL実践と研究の最新情報
名越斉子
 UDL-IRN(The Universal Design for Learning Implementation and Research Network:UDLの実践と研究とネットワーク)は, 2010年に設立された。年次大会では,UDLに基づく先進的な教育実践,教育実践の効果と課題について,教育関係者と研究者が議論を交わし,連携を強めるための様々なプレゼンテーションやワークショップが行われ,参加者数は毎年右肩上がりである。
 2017年3月にフロリダで開催された第4回年次大会では,前大会であまり見聞きすることのなかった「自分に合った学習:Personalized Learning」という用語が,主要な考え方の一つとして至るところで使われていた。学習者本人に最適な学習を提供することのできるICT技術の発展により,「自分に合った学習」は着実に広がりを見せている。これが,学習者の多様な学び方を尊重し,オプション,代替手段,段階的支援,調節可能の工夫においてICT機器が活用されるUDLと共に用いられることは,ごく自然だと考えられる。
 しかし,それらの定義(何を,どのように,どの程度行うことが「自分に合った学習」やUDLと言えるのか)は明確ではなく,質の高い実践や効果検証のための研究の壁となっている。そうした中,Eric J. Mooreは,UDLを厳密に定義するのではなく,UDLに含まれるものと,そこから除外されるもの(誰にでも有効な1つの方法,障害のある生徒のみが対象,意図的ではない教師の行動,アコモデーションなど)の区別から,UDLを領域として定義するというアプローチを紹介し,参加者から高い関心が寄せられていた。これに関連して,研究者間では,何を行うことがUDLに基づく教育実践と言えるのか,何を成果と考えれば良いのか,どうすれば実践につながる研究や継続的な実施と広がりを後押しすることができるのか,という本質的な問いについて議論され,概念的な整理や研究の蓄積の必要性について再確認された。 
 「どの子供も成功する法」の施行や各州におけるUDL導入の推奨の流れを受けてか,米国内の教育者の参加が大幅に増えたことに,UDLに基づく教育実践の確かな普及を実感するとともに,参加者層の拡大によって,効果的なUDL実践のハウツーを志向する傾向にどう向き合うかという新たな課題が生じていることも感じられた。また,海外研究者の参加の増加は,UDLが言語や文化を超えて,子供たちの学びに効果的であることを示唆しているだろう。
 本シンポジウムでは,UDL-IRN Summit2017で得られた最新情報を提供し,我が国におけるUDL実践と研究について共に考える機会としたい。