The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Oct 7 - Oct 9, 2017Nagoya Congress Center
The Japanese Association of Educational Psychology
The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Oct 7 - Oct 9, 2017Nagoya Congress Center

[JD06]学校教育を通して育む社会情動的スキル

綿井雅康1, 桂川泰典2, 原口和博#3, 小関俊祐4, 藤井靖5, 加藤陽子6, 菅野純7(1.十文字学園女子大学, 2.早稲田大学, 3.「心の基礎」教育を学ぶ会, 4.桜美林大学, 5.明星大学, 6.十文字学園女子大学, 7.早稲田大学)
企画趣旨
 21世紀型スキル(能力)に代表されるように,これからの社会で求められる能力や態度について,新たな視点からの提案がなされ,学校教育をとおして育成する実践が展開されている。なかでも注目されているものとして「社会情動的スキル」が挙げられる。このスキルは非認知的能力とも称され「目標を達成する力」「他者と協調する力」「情動を制御する力」などから構成されている(OECD,2015)。知識の獲得と活用,課題の発見・解決といった認知的能力と並行して,社会情動的スキルを育成し,両者を融合させることが求められている。
 本シンポジウムでは,学校教育における心理教材(KJQ-M)を用いた社会情動的スキル育成の方略と実践事例の紹介,並びに種々の心理教育プログラムを用いた本スキルの育成方法について検討していく。

社会情動的スキルの育成―その効果,方略,本邦における展開(桂川泰典)
 社会情動的スキルとは「(a) 一貫した思考・感情・行動のパターンに発現し,(b)学校教育またはインフォーマルな学習によって発達させることができ,(c) 個人の一生を通じて社会・経済的成果に重要な影響を与えるような個人の能力」と定義され,目標を達成する力(例:忍耐力,意欲,自己制御,自己効力感),他者と協働する力(例:社会的スキル,協調性,信頼,共感),そして情動を制御する力(例:自尊心,自信,内在化・外在化問題行動のリスクの低さ)を含むとされる(池迫・宮本,2015)。社会性や情動の発達が子どもの将来にどのような影響をもたらすかについては非認知能力とも呼ばれ,様々な研究,議論の蓄積がなされつつある。最も有名なものとして,「ペリー就学前プロジェクト」,「アベセダリアンプロジェクト」が挙げられる。これらの研究は子どもの社会情動的スキルの育成を軸とした家庭養育環境の向上を目指したものであり,無作為割当による介入と30~40歳までの追跡調査によって,犯罪率,生活保護受給率,学歴等において対照群との差を示した。経済学者のヘックマンは,出来るだけ幼少期に恵まれない養育環境にいる子どもと家庭へ教育資源の事前配分(再配分ではなく)を行うことが,不平等を是正し,社会,経済への有益な投資となると主張した(ヘックマン,2015)。
 一方で,幼少期のみならず児童・思春期以降における社会情動的スキルへの介入であっても高い教育効果を低コストで実現できるとの主張もある(例えば,ドウェック,2015)。今後は,公教育及びそれに準ずる公益性の高い教育制度の中で上述のような教育成果をいかにして達成できるかが問われているといえる。本話題提供では,社会情動的スキルの育成に関する内外の議論を踏まえつつ,本邦でこれまでになされてきた社会性や情動に働きかける教育との接続を試みる。そしてこれからの学校教育で展開可能な社会情動的スキルの育成方略について整理,討議を試みたい。

教科授業で自他尊重の感覚を育む(原口和博)
 本発表では,「精神的充足(菅野・綿井,2002)」の視点を授業づくりに取り入れ,生徒の自尊感情を高める工夫を行った公立A中学校での研究実践について報告する。A中学では「自尊感情を育む教育活動の工夫」について検討し,全ての教育活動で,精神的充足を構成する3特性「安心感」「楽しい体験」「認められる体験」を実感できるように取り組んだ。具体的には,1年間を通して①校内研修(自尊感情・自己肯定感を育む教育活動についての講演と演習,「『心理的充足・社会的適応力』評価尺度(以下,KJQ-M)」の基礎理論の理解・測定結果の把握分析に関する研修,自尊感情を育む工夫に関するワールドカフェ形式の研修),②KJQ-Mを全校生徒に実施,③②の測定結果に基づいた生徒への個別対応,④3特性を実感させることを目指した,各教科の授業での工夫と改善,および特別活動や学級活動での取り組み,⑤効果測定としてのKJQ-Mの再実施・授業アンケートの実施,を行った。その結果,「安心して学べる授業環境であった」や「楽しみや達成感を感じた」に7~9割の生徒が肯定し,公的な調査での自尊感情に関する質問でも肯定的回答の増加が認められた。

学校教育におけるソーシャルスキルの育成(小関俊祐)
 認知行動療法において,ソーシャルスキルトレーニングは,主に適応行動の獲得や遂行の促進に焦点を当てた手続きとして用いられることが多い。しかしながら,単に「行動」を遂行することだけを目的としておらず,「行動」の遂行に随伴する「情動(感情)」や「認知」の変化もあわせて扱うことが,ソーシャルスキルトレーニングの有効性の担保には必須である。
 特に2000年以降,学級集団を対象としたソーシャルスキルトレーニングがさかんに実施されている(高橋・小関,2011)。学級集団を介入の対象とすることの利点としては,スキルの練習の場と遂行の場が同一であるために,般化が促進されやすいという点や,対象の抽出が不要であり,抵抗感を抱かせにくい点,介入後も,担任教師などがスキル遂行のプロンプトや強化子を提示しやすい点などが挙げられている(Merrell & Gimpel,1998)。このようなソーシャルスキルトレーニングの効果として,スキルの獲得や遂行促進を通して,心理的ストレス反応の低減や集団凝集性の向上などが挙げられている(高橋・小関,2011)。
 これらの視点に立てば,認知行動療法に基づくソーシャルスキルトレーニングは,社会情動スキルの重視している「他者と協調する力」や「情動を制御する力」と共通する部分が少なくない。認知行動療法における,ソーシャルスキルトレーニングに代表される手続き上の留意点や工夫点を整理することによって,社会情動スキルの育成にもつながる示唆が得られると期待される。
 具体的な実践として,小関ら(2009)では,小学2年生の学級を対象として,「ありがとう」を標的行動としたソーシャルスキルトレーニングを実施している。その際,セルフモニタリングを用いて,スキル遂行時の感情やスキル遂行の対象について評価を行った。本シンポジウムでは,実践についての紹介を通して,社会情動スキルとソーシャルスキルトレーニングのさらなる発展の契機となることを期待する。

高校生におけるKJQ-Mを指標とした社会情動的スキルの育成とキャリア発達および職場適応の関連(藤井靖)
 社会情動的スキルとは,「目標の達成」や「他者との協働」,「情動の制御」などがその要素として挙げられ,幼児期からの育成が重要であることが指摘されている。中学生,高校生といった思春期では,このスキル発達は急降下しうる時期とされている一方で,アメリカにおける縦断調査では,むしろその時期のほうが成長しやすいという知見も見出されている。そのため,思春期におけるスキル育成,発達について検討することは,一つの重要な観点である。また,OECD加盟国で調査が行われるなど,社会情動的スキルの育成は国際的な共通課題ともいえるが,スキルの育成が,具体的にどのような効果を有し,どのような子供の人間的成長につながるかについては,検討の余地があると考えられる。
 そこで本話題提供においては,高校期における社会情動的スキルの育成について,KJQ-Mを用いて推測するとともに,個人のキャリア発達や進路選択,ひいては進路先での適応の状況との関係について考察してみたい。
 具体的には,KJQ-Mにおける「こころのエネルギー」と「社会生活の技術」という,社会情動的スキルの要素と一定程度の相関を有すると思われる変数の3カ年の変化と,キャリア発達尺度との関連について検討することにより,身に付いたスキルが,キャリア発達の側面からみた内的成熟につながりうるのかを検討する。また合わせて,個人の実際の進路選択にスキルがどのような影響を与えるのかについても,質的な検討を中心に考察する。加えて,就職に至った複数の事例を調査し,卒後の職場適応状況についての本人,職場,保護者からの聞き取りを元に,スキルとの関連性について報告する。