The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Oct 7 - Oct 9, 2017Nagoya Congress Center
The Japanese Association of Educational Psychology
The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Oct 7 - Oct 9, 2017Nagoya Congress Center

[JG02]役割取得能力(社会的視点取得能力)と適応の関係を考える

本間優子1, 内山伊知郎2, 石川隆行3, 内山有美4, 荒木紀幸5(1.新潟青陵大学, 2.同志社大学, 3.宇都宮大学, 4.四国大学, 5.兵庫教育大学)
企画趣旨

 役割取得能力とは,自己の立場からだけではなく,他者の立場に立ち,相手の感情や思考を理解することのできる能力 (Selman, 1976) であり,自分の考えや気持ちと同等に他者の立場に立って,その人の考えや気持ちを推し量り,それを受け入れ,調整して対人行動に生かす能力 (荒木,1990) と定義される。役割取得能力は児童・生徒が適応的な生活を送るために必要であり,重要な要因であると考えられる。本シンポジウムの主目的は,児童期から青年期にかけての役割取得能力(社会的視点取得能力)と適応の関係に焦点を当て,両者の関係について様々な観点から検討を行うことである。
 役割取得能力(社会的視点取得能力)の発達段階の測定は,従来は物語課題を読み,設問に対する自由記述を評定することで主になされていた。2017年3月に,これまで社会的視点取得能力を測定するために用いられてきた従来型の物語課題である「中学生版社会的視点取得能力検査(荒木・松尾,1992)」が改訂され,多肢選択法により測定することのできる「簡易版中学・高校生版社会的視点取得検査」が発刊された。本シンポジウムでは,内山有美が自由記述版を用いて行った調査研究,石川が簡易版を用いて行った調査研究について発表を行う。自由記述版,簡易版を用いることで明らかになるであろう,それぞれの課題の長所・短所についても検討を行う。
 また,本間は荒木(1988)の木のぼり課題をベースに作成した児童用役割取得能力課題を用いた研究について紹介を行うが,測定は自由記述を評定する形式であり,多肢選択法による測定ではない。これまで行ってきた研究から,自由記述で評定を行うことの長所・短所についても検討を行う。
 本シンポジウムでは役割取得能力(社会的視点取得能力)と適応の関係を検討するのに加え,役割取得能力(社会的視点取得能力)の測定方法という観点からも話題提供を行うことを第2の目的とする。

役割取得能力(社会的視点取得能力)の高まりは対人行動にどう影響するのか
内山 有美(四国大学)

 社会的認知能力と対人交渉方略との関連についてはこれまでにも多くの議論がなされてきた(例えば,Selman,Beardslee,Schultz,Krupa,& Podorefsky,1986;Selman & Demorest,1984;Selman,Schorin,Stone,& Phelps,1983など)。Selmanが捉える役割取得能力(社会的視点取得能力)もまた行動面への影響がみられるものであり,社会的視点取得能力の高まりによりコミュニケーション能力の向上が導出されることも確認されている(Abrahami, Selman, & Stone, 1981)。これは,社会的視点取得能力のもつ特徴に帰するところでもあり,高次の発達段階の者は自己および多様な他者(二者間での他者,第三という他者,社会的観点を持つ一般的他者など)という様々な視点の同時的統合を可能とするため,心的葛藤が生じる場面においても視点調整がなされた適応的な対処行動が表出されやすくなる。この点において,適応行動を期待する際に基盤となる認知面での成熟は不可欠であり,社会的視点取得能力は重要な働きを担っていると考える。
 発表では適応行動の指標としてアサーションを取り上げ,社会的視点取得能力がもたらす問題解決場面への貢献について考えたい。さらに,教育プログラムである「愛と自由の声(Voices of Love and Freedom : VLF)」を用いた実践活動から,個人内で生じた社会的視点取得能力およびアサーション選好の変化について紹介する。
 また,簡易版の発刊に際し,改めて測定方法や評定についても触れていきたい。そもそも社会的視点取得能力はいくつかの心理社会的コンピテンスと関連する複雑な認知構造を有するため,通常対象者が自身の能力を自己評定することは困難であり,その測定や評定は容易ではない。これを踏まえ,調査および実践で用いた自由記述版「中学生版社会的視点取得能力検査」(荒木・松尾,1992) により明らかにされたことや,測定に伴う課題についても考えていきたい。

大学生における社会的視点取得能力について
石川 隆行(宇都宮大学)

 学校教育において,児童,生徒が他人を思いやること,善悪の規範意識をもつことなど道徳性を培うことが重要とされて久しい。昨年,わが国では,考え,議論する道徳にむけての提言がなされ,学校現場における道徳教育の充実が改めて必要とされている。道徳教育の充実におい学からのアプローチが不可欠であり,多くの研究が展開されてきた。その中で,荒木(1988, 1992)はSelman (1976) の役割取得能力(社会的視点取得能力)に着目して幼児期から青年期までの発達段階を明らかにした。とくに,その際に使用したジレンマ物語は道徳教育の発展に大きく寄与するものとなった。
 これまで石川は学校現場で生じる道徳的な問題や学校適応において,子どもの罪悪感を捉えることが重要と考え,幼児期から青年期までの罪悪感研究を行ってきた。その結果,罪悪感の喚起には役割取得能力(社会的視点取得能力) が関連することを明らかにした。しかしながら,罪悪感の機序の解明や,道徳教育に資する知見の提供にはさらなる検討が必要である。
 そこで,当日は罪悪感の規定因である役割取得能力(社会的視点取得能力) について,先頃,発刊された簡易版中学・高校生版社会的視点取得検査(荒木・松尾, 2017) を用いた調査結果を発表したいと考えている。発表内容は大学生を対象とした調査であるが,小倉ら(2014)が報告しているように,近年,大学生が起こした不祥事は社会的視点取得能力の不足が一因であるとされ,調査結果は意義深いと考える。また,大学生の社会的視点取得能力に関連する諸要因について討議することにより,児童,生徒における充実した道徳教育の一助となれば幸いである。
児童期における役割取得能力と学校適応
本間 優子(新潟青陵大学)

 学校への適応は,児童期から青年期を通して,児童・生徒が心理社会的 (psychosocial) に適応していることを示す重要な指標の1つである (Pears, Kim, Capaldi, David, & Fisher, 2012)。学校現場において,子どもの学校適応に関する問題は長年取り上げられ続けており,学校適応を促進することは教育上の大きな課題となっている。
 学校適応を促進する要因の一つとして,役割取得能力を挙げることができる。しかしながら,役割取得能力に関する幼児期以降の検討では,学校場面という文脈で検討した研究は数少なかった (Gehlbach, Brinkworth, & Wang, 2012)。そこで,本シンポジウムでは,児童期における役割取得能力と学校適応の関係について,学校適応に関して行動面での適応 (教師評定によるクラス内行動),および感情面での適応 (児童評定による学校肯定感) という観点から話題提供を行う。
 また,本間が行ってきた一連の研究 (本間・内山,2005; Honma & Uchiyama,2016; 本間・内山,2017) では,役割取得能力の各発達段階の出現率は,同じ学年を対象としているが,対象校が異なると各発達段階の出現率の様相は異なっていた。要因として,教師の指導法の相違や学校風土等が考えられるが,簡易版中学・高校生版社会的視点取得検査のように,1つの発達段階をより細かく評定できれば(簡易版中学・高校生版社会的視点取得検査では,1つの発達段階を3水準に区分できる),もう少し一定した発達段階の出現率の様相を示した可能性も考えられる。そのため,調査研究においては,多肢選択法により測定できる課題を用いることも必要と考えられる。
 しかしながら,役割取得能力課題を道徳授業等で,児童の向社会的行動を促進するためのトレーニング課題として用いる場合には,従来どおりの自由記述版の課題の方が,トレーニング前後の役割取得能力の発達段階の変化について質的に分析を行うあたり,情報量が多く,適しているようにも思われる。シンポジウムでは,これらの点をふまえ,測定方法という観点からも検討を行いたい。