[jsympo04]思春期における発達と問題行動
○平石賢二1, 河野荘子2, 笠井清登#3, 大久保智生4, 吉澤寛之5, 齊藤誠一6(1.名古屋大学, 2.名古屋大学, 3.東京大学, 4.香川大学, 5.岐阜大学, 6.神戸大学)
企画趣旨
思春期に関しては古くから思春期危機や第2反抗期などの用語によってこの年代の心理的な不安定さや困難さが言い表されてきた。また,思春期は児童期に比べて心理的不適応や問題行動が生じやすい時期であり,保護者や教師にとっても対応が難しくなる時期であるとみなされている。
しかし,心理的不適応や問題行動は必ずしもこの年代の子どもたちに共通した特徴ではなく個人差も大きい。また,このような思春期的な問題の背景要因としては,個人の資質や家庭環境,友人関係などの影響が強調されてきたが,臨床実践の現場では,多くの事例において複数のリスク要因の累積がみられる。そして,それらが複雑に相互作用した結果,問題行動が現れており,個別の発達的文脈を考慮する必要があると感じることが多い。近年では思春期における多様な発達経路を想定し,発達の多様性を重視する動きが強まってはきているが,この年代の発達のあり方が十分に明らかにされ,家庭や学校現場での理解が浸透しているとは言い難いのが現状である。
そこで本シンポジウムでは,思春期における発達と問題行動の関連について,精神医学・脳科学,教育心理学,社会心理学,青年心理学といった多分野からの最新の研究知見を紹介していただき,それらを総合しながら思春期の発達的危機の問題に関する理解を深めることを目的としたい。
話題提供
1.精神医学・脳科学の観点から
笠井清登
思春期または青年期(adolescence)は,WHOの定義によると10-18歳とされており,高度に発達した前頭前野など人に特有の神経回路が最終的に成熟を遂げるライフステージである。それを基盤としてメタ認知機能が成熟するとともに,第二次性徴に伴う性ホルモンのサージとがあいまって,同世代の他者(ピア)の中での自分の位置づけにセンシティブとなる。WHOの調査によれば,精神疾患の発症の50パーセンタイルが14歳以下,75パーセンタイルが24歳以下であるとされるように,思春期は精神的不調をきたしやすいクリティカルな時期である。
思春期に精神的不調をきたした若い当事者への臨床はもちろん,それ以降のあらゆる年代の当事者の症状の意味や回復に,その人の思春期のあり方がカギとなっていることが多い。効果的に臨床対応したり,精神疾患の症状形成や回復過程を科学的に解明するために,主体価値(personalized value)という作業概念を提案したい。小児期までは親から子へ垂直に価値が伝達するが,思春期になると葛藤や反発が生まれ,一方でピアとのかかわりのなかで,価値は本人に固有のもの(individualized)として内在化(internalized)し,主体価値となっていく。人間は,この主体価値をもとに,意識的・無意識的に年単位の長期的行動を本人に固有の方向に進めていく,という,人の人生行動のモデル化である。当日は事例を通して主体価値のアセスメントにもとづく回復支援についてお話しする。
文 献
笠井清登ら(編)(2015).思春期学 東京大学出版会
Kasai,K.,& Fukuda,M.(2017). Science of
recovery in schizophrenia research: brain
and psychological substrates of personalized
value. npj Schizophrenia,3,14.
2.教育心理学の観点から:問題行動はどのよう
にとらえられるのか−個人と環境の適合からみ
た思春期の問題行動
大久保智生
これまで,問題行動は,不適応,すなわち適応の失敗として一義的にとらえられてきたといえる。適応・不適応を個人と環境の適合・不適合(大久保, 2010)ととらえると,非社会的行動は,対人的・対社会的な接触を避けることから社会や集団への参加の拒否を意味するので,社会や集団の文化と不適合な行動となり,反社会的行動も,規範やルールに従わずに社会や集団が迷惑を受ける行動なので,社会や集団の文化と不適合な行動となる(大久保, 2011)。
その一方で,反社会的行動が学校内で続くことに着目すると適応的であるととらえることもできる(加藤・大久保, 2006)。つまり,反社会的行動の特徴である集団に参加しつつ継続するということは,ある意味社会や集団の文化と適合しているともとらえられるのである。例えば,大久保・青柳(2003)は,荒れている学校において,反社会的行動をする生徒は学校で居心地の良さを感じている
ことを明らかにしている。この結果を勘案すると,不適応行動とみられる反社会的行動も,仲間集団や学級・学校集団においては,支持あるいは肯定的な評価を得られる適応的な行動とみなせるのである(大久保・加藤, 2006)。言い換えると,反社会的行動は反学校的な価値観や文化と適合した行動としてとらえられるのである。こうした問題行動のとらえ方をすると,反社会的行動を続けさせ,支えている要因が見えてくるといえる。そして,反社会的行動を学校環境と適合してしまった行動と考えるため,その環境のあり方(教師の指導や学級・学校のあり方)も問われるようになるのである。また,思春期では悪いとわかっていても仲間の価値観を重視して問題行動を行うが,こうした思春期の問題行動は発達の視点も踏まえてとらえる必要がある。本報告では,問題行動のとらえ方によって何が可能になるのかについて考えていきたい。
文 献
大久保智生(2010). 青年の学校適応に関する研
究:関係論的アプローチによる検討 ナカニシ
ヤ出版
大久保智生(2011). 問題行動はどのようにとら
えられるのか 発達, 32(127), 41-48.
3.社会心理学の観点から:子どもの反社会性へ
の社会的影響
吉澤寛之
攻撃,非行,いじめなど反社会的行動に関する近年の研究では,個人をこうした行動へと駆り立てる心的過程が注目されている(Dodge & Pettit, 2003)。反社会的行動を行う個人の自己制御能力の低さ(e.g., Baumeister & Vohs, 2004)や認知的側面の問題(e.g., Gibbs, Barriga, & Potter, 2001)が注目され,特に後者の認知的側面の問題に関しては,統合的な説明を試みる理論が複数存在する(吉澤・大西・ジニ・吉田, 2015)。そのなかでも社会的情報処理理論は,心理教育的介入における有効性が高いことから,多くの実証的研究や介入研究へと援用されている(e.g., Crick & Dodge, 1994)。
Dodge & Pettit(2003)のBiopsychosocialモデルにおいては,個人の心的過程に影響する要因として,遺伝などの生物学的要因に加え,親子関係や仲間関係,経済・文化的背景などの社会・環境的要因が重視されている。これらの要因の影響により反社会的な心的過程が形成され,反社会的行動を生じさせる媒介モデルが提唱されている。本発表では,心的過程として社会的情報処理に着目し,親の養育やしつけ,友人や仲間との相互作用,地域社会とのかかわりが反社会的な情報処理パターンの形成に影響するメカニズムを実証した研究を紹介する。これらの研究で得られた知見に基づき,子どもの反社会性の深化を食い止める社会環境のあり方を提案する。
文 献
Dodge, K. A., & Pettit, G. S. (2003). A
biopsychosocial model of the development of
chronic conduct problems in adolescence.
Developmental Psychology, 39, 349-371.
吉澤寛之・大西彩子・ジニ, G.・吉田俊和(編著)
(2015). ゆがんだ認知が生み出す反社会的行
動―その予防と改善の可能性― 北大路書房
4.青年心理学の観点から
齊藤誠一
日本の青年心理学研究において思春期をテーマにしたものは多いが,ほとんどは思春期を青年前期と同義に,小学校高学年生から中学生くらいまでの年齢段階として用い,背景として身体的成熟,小学校から中学校への学校移行,自我の覚醒などを想定しているものと思われる。しかしながら,思春期は本来生殖可能な身体へ向けての生物学的変化の時期を意味し,観察可能な身長などの外見の変化,個人的経験としての初経/精通など性的成熟,身体内部で生じる脳発達やホルモン分泌の変化などを含んでいるが,これらを青年の行動に影響する要因として組み込む研究は多くない。こうした変化は健常であれば,一定の時期に一定の順序で生じるとされているが,発現するタイミングによるオンタイム/早熟/晩熟の影響(eg.早熟男子は有利であり,晩熟男子は人気がなく,成績が良くない(Coleman,2011)/早熟が翌年の性的行動の高さ,翌々年の性的非行の高さと関連している(Negriff他,2011)),身体的変化に対する社会的文脈の影響(eg.体重減少への圧力が身体的自尊心,ボディイメージ,食行動の否定的傾向に関連している(Ata他,2007)/バレエダンサー養成学校ではオンタイム成熟者の方が精神病理傾向,低いボディイメージ,拒食傾向が見られる(Brooks-Gunn他,1985))などが見られるが,一貫した結果は示されていない。しかし,このことは思春期の身体的変化だけでは十分に説明できず,生物学的変数,個人的-心理的変数,文脈的変数など個人的文脈によるところが大きい(Susman他,2004)ことを示唆しているといえる。ここでは,こうした観点から思春期の発達と問題行動について議論したい。
文 献
Susman,E.J.,& Rogol,A.(2004). Puberty and
psychological development. In R.M.Lerner, &
L.Steinberg(Eds.) Handbook of adolescent
psychology(2nd ed.)(pp.15-44). NJ:John
Wiley & Sons.
思春期に関しては古くから思春期危機や第2反抗期などの用語によってこの年代の心理的な不安定さや困難さが言い表されてきた。また,思春期は児童期に比べて心理的不適応や問題行動が生じやすい時期であり,保護者や教師にとっても対応が難しくなる時期であるとみなされている。
しかし,心理的不適応や問題行動は必ずしもこの年代の子どもたちに共通した特徴ではなく個人差も大きい。また,このような思春期的な問題の背景要因としては,個人の資質や家庭環境,友人関係などの影響が強調されてきたが,臨床実践の現場では,多くの事例において複数のリスク要因の累積がみられる。そして,それらが複雑に相互作用した結果,問題行動が現れており,個別の発達的文脈を考慮する必要があると感じることが多い。近年では思春期における多様な発達経路を想定し,発達の多様性を重視する動きが強まってはきているが,この年代の発達のあり方が十分に明らかにされ,家庭や学校現場での理解が浸透しているとは言い難いのが現状である。
そこで本シンポジウムでは,思春期における発達と問題行動の関連について,精神医学・脳科学,教育心理学,社会心理学,青年心理学といった多分野からの最新の研究知見を紹介していただき,それらを総合しながら思春期の発達的危機の問題に関する理解を深めることを目的としたい。
話題提供
1.精神医学・脳科学の観点から
笠井清登
思春期または青年期(adolescence)は,WHOの定義によると10-18歳とされており,高度に発達した前頭前野など人に特有の神経回路が最終的に成熟を遂げるライフステージである。それを基盤としてメタ認知機能が成熟するとともに,第二次性徴に伴う性ホルモンのサージとがあいまって,同世代の他者(ピア)の中での自分の位置づけにセンシティブとなる。WHOの調査によれば,精神疾患の発症の50パーセンタイルが14歳以下,75パーセンタイルが24歳以下であるとされるように,思春期は精神的不調をきたしやすいクリティカルな時期である。
思春期に精神的不調をきたした若い当事者への臨床はもちろん,それ以降のあらゆる年代の当事者の症状の意味や回復に,その人の思春期のあり方がカギとなっていることが多い。効果的に臨床対応したり,精神疾患の症状形成や回復過程を科学的に解明するために,主体価値(personalized value)という作業概念を提案したい。小児期までは親から子へ垂直に価値が伝達するが,思春期になると葛藤や反発が生まれ,一方でピアとのかかわりのなかで,価値は本人に固有のもの(individualized)として内在化(internalized)し,主体価値となっていく。人間は,この主体価値をもとに,意識的・無意識的に年単位の長期的行動を本人に固有の方向に進めていく,という,人の人生行動のモデル化である。当日は事例を通して主体価値のアセスメントにもとづく回復支援についてお話しする。
文 献
笠井清登ら(編)(2015).思春期学 東京大学出版会
Kasai,K.,& Fukuda,M.(2017). Science of
recovery in schizophrenia research: brain
and psychological substrates of personalized
value. npj Schizophrenia,3,14.
2.教育心理学の観点から:問題行動はどのよう
にとらえられるのか−個人と環境の適合からみ
た思春期の問題行動
大久保智生
これまで,問題行動は,不適応,すなわち適応の失敗として一義的にとらえられてきたといえる。適応・不適応を個人と環境の適合・不適合(大久保, 2010)ととらえると,非社会的行動は,対人的・対社会的な接触を避けることから社会や集団への参加の拒否を意味するので,社会や集団の文化と不適合な行動となり,反社会的行動も,規範やルールに従わずに社会や集団が迷惑を受ける行動なので,社会や集団の文化と不適合な行動となる(大久保, 2011)。
その一方で,反社会的行動が学校内で続くことに着目すると適応的であるととらえることもできる(加藤・大久保, 2006)。つまり,反社会的行動の特徴である集団に参加しつつ継続するということは,ある意味社会や集団の文化と適合しているともとらえられるのである。例えば,大久保・青柳(2003)は,荒れている学校において,反社会的行動をする生徒は学校で居心地の良さを感じている
ことを明らかにしている。この結果を勘案すると,不適応行動とみられる反社会的行動も,仲間集団や学級・学校集団においては,支持あるいは肯定的な評価を得られる適応的な行動とみなせるのである(大久保・加藤, 2006)。言い換えると,反社会的行動は反学校的な価値観や文化と適合した行動としてとらえられるのである。こうした問題行動のとらえ方をすると,反社会的行動を続けさせ,支えている要因が見えてくるといえる。そして,反社会的行動を学校環境と適合してしまった行動と考えるため,その環境のあり方(教師の指導や学級・学校のあり方)も問われるようになるのである。また,思春期では悪いとわかっていても仲間の価値観を重視して問題行動を行うが,こうした思春期の問題行動は発達の視点も踏まえてとらえる必要がある。本報告では,問題行動のとらえ方によって何が可能になるのかについて考えていきたい。
文 献
大久保智生(2010). 青年の学校適応に関する研
究:関係論的アプローチによる検討 ナカニシ
ヤ出版
大久保智生(2011). 問題行動はどのようにとら
えられるのか 発達, 32(127), 41-48.
3.社会心理学の観点から:子どもの反社会性へ
の社会的影響
吉澤寛之
攻撃,非行,いじめなど反社会的行動に関する近年の研究では,個人をこうした行動へと駆り立てる心的過程が注目されている(Dodge & Pettit, 2003)。反社会的行動を行う個人の自己制御能力の低さ(e.g., Baumeister & Vohs, 2004)や認知的側面の問題(e.g., Gibbs, Barriga, & Potter, 2001)が注目され,特に後者の認知的側面の問題に関しては,統合的な説明を試みる理論が複数存在する(吉澤・大西・ジニ・吉田, 2015)。そのなかでも社会的情報処理理論は,心理教育的介入における有効性が高いことから,多くの実証的研究や介入研究へと援用されている(e.g., Crick & Dodge, 1994)。
Dodge & Pettit(2003)のBiopsychosocialモデルにおいては,個人の心的過程に影響する要因として,遺伝などの生物学的要因に加え,親子関係や仲間関係,経済・文化的背景などの社会・環境的要因が重視されている。これらの要因の影響により反社会的な心的過程が形成され,反社会的行動を生じさせる媒介モデルが提唱されている。本発表では,心的過程として社会的情報処理に着目し,親の養育やしつけ,友人や仲間との相互作用,地域社会とのかかわりが反社会的な情報処理パターンの形成に影響するメカニズムを実証した研究を紹介する。これらの研究で得られた知見に基づき,子どもの反社会性の深化を食い止める社会環境のあり方を提案する。
文 献
Dodge, K. A., & Pettit, G. S. (2003). A
biopsychosocial model of the development of
chronic conduct problems in adolescence.
Developmental Psychology, 39, 349-371.
吉澤寛之・大西彩子・ジニ, G.・吉田俊和(編著)
(2015). ゆがんだ認知が生み出す反社会的行
動―その予防と改善の可能性― 北大路書房
4.青年心理学の観点から
齊藤誠一
日本の青年心理学研究において思春期をテーマにしたものは多いが,ほとんどは思春期を青年前期と同義に,小学校高学年生から中学生くらいまでの年齢段階として用い,背景として身体的成熟,小学校から中学校への学校移行,自我の覚醒などを想定しているものと思われる。しかしながら,思春期は本来生殖可能な身体へ向けての生物学的変化の時期を意味し,観察可能な身長などの外見の変化,個人的経験としての初経/精通など性的成熟,身体内部で生じる脳発達やホルモン分泌の変化などを含んでいるが,これらを青年の行動に影響する要因として組み込む研究は多くない。こうした変化は健常であれば,一定の時期に一定の順序で生じるとされているが,発現するタイミングによるオンタイム/早熟/晩熟の影響(eg.早熟男子は有利であり,晩熟男子は人気がなく,成績が良くない(Coleman,2011)/早熟が翌年の性的行動の高さ,翌々年の性的非行の高さと関連している(Negriff他,2011)),身体的変化に対する社会的文脈の影響(eg.体重減少への圧力が身体的自尊心,ボディイメージ,食行動の否定的傾向に関連している(Ata他,2007)/バレエダンサー養成学校ではオンタイム成熟者の方が精神病理傾向,低いボディイメージ,拒食傾向が見られる(Brooks-Gunn他,1985))などが見られるが,一貫した結果は示されていない。しかし,このことは思春期の身体的変化だけでは十分に説明できず,生物学的変数,個人的-心理的変数,文脈的変数など個人的文脈によるところが大きい(Susman他,2004)ことを示唆しているといえる。ここでは,こうした観点から思春期の発達と問題行動について議論したい。
文 献
Susman,E.J.,& Rogol,A.(2004). Puberty and
psychological development. In R.M.Lerner, &
L.Steinberg(Eds.) Handbook of adolescent
psychology(2nd ed.)(pp.15-44). NJ:John
Wiley & Sons.
