The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Sep 15 - Sep 17, 2018Keio University Hiyoshi Campus
The Japanese Association of Educational Psychology
The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Sep 15 - Sep 17, 2018Keio University Hiyoshi Campus

[JA06]フリースクールにおける多様な学びと教育心理学教育心理学はフリースクールの学びにどう迫るか

吉田梨乃1, 守谷賢二2, 斎藤富由起3, 竹林祐子#4, 金城千尋5, 森田次郎#6, 江南健志7, 竹本晴香8(1.東京学芸大学大学院, 2.淑徳大学, 3.千里金蘭大学, 4.神戸フリースクール, 5.神戸フリースクール, 6.中京大学, 7.千里金蘭大学, 8.視機能トレーニングセンターJoy Vision)
企画主旨
 文部科学省(2015)によると,フリースクールに通う子どもは約4000人であり,フリースクール(n=319)の活動内容は「相談・カウンセリング」や「個別の学習」「芸術活動」が中心と報告されている。かつては文部科学省と先鋭的な対立期もあったフリースクールだが,現在は多様な教育の機会確保法の成立をめぐり,文部科学省とフリースクールは対話期へと移行しつつある。校長の判断により出席扱いとされるフリースクールは小学生の52。9%,中学生の58。1%となっている。
 他方,公教育における学びの研究と比較して,フリースクールにおける学びの研究は乏しい。さらに公教育とフリースクールの「学び」の相違について言及している研究はより少ない。そのような中で,森田(2008)による研究は注目に値する。森田(2008)は法人格をもたず行政機関と連携する小規模フリースクールを対象に,スタッフと生徒が行う日常的実践という観点から,現代日本社会におけるフリースクール像を検討している。その結果,「理念のなさ」と見えるフリースクールのあり方こそが,制度上・財政上きわめて不安定な状態にある小規模フリースクールの特性を活かしつつ,子どもの多様なニーズに柔軟に応え,対人関係の学びを継続していくための,日常的な生活実践の結果だったと考察している。
 土方(2011)は,公教育とフリースクールが,それぞれの教育目的を語る中で,教育の「多様化」や学校の「選択」の必要性を語っていることに注目し,両者が示す「多様化」や「選択」にどのような違いがあるのかについて検討した。その結果,フリースクールの公教育化は不登校支援の新しい方向性であり,近代学校制度を問う性質があることを指摘している。
 滝口(2013)は,不登校になり,フリースクールに通っている子どもは,フリースクールを「一緒にされたくない場,学校機能を代替できる場,精神的なよりどころ,多様性のある場,コミュニケーションの学びの場,認識の相対化が生じる場,動機づけを得られる場,いずれ出て行かねばならない場」と認識していた。ここでは特に,フリースクールの「おしゃべり」の介在・作用が注目されている。またフリースクールが「多様性のある場,コミュニケーションによる学びの場,認識の相対化が生じる場,動機づけを得られる場」であることが指摘された。
 以上のような先行研究を除くと,フリースクールの学びについて言及した研究は乏しい。多様な教育の機会確保法が成立し,公教育システムとフリースクールとの連携が法的基盤を持ち,今後も展開するとおもわれるが,そこで問われるのは「フリースクールの中にどのような学びがあり,それは公教育とはどのように異なるのか」という教育心理学的な学びの性質に関する議論である。フリー-スクールの設立経緯と運営はさまざまで,統一されたフリースクールの学び像を抽出するのは難しい。本シンポジウムでは,長年不登校の受け皿となり,シュタイナー教育やフレネ教育などの「特定の教育方法」を持たないで,子どもの居場所機能を重視したフリースクールを対象にその学びを検討したい。
 本シンポジウムでは基調報告においてフリースクールの歴史的経緯を振り返り,公教育の学習と比較しつつ,いくつかのフリースクールのタイプと,不登校に関する理解と社会的背景を整理する。その後,フリースクールという言葉がまだなかった時代から不登校の子どもの受け皿となっていた神戸フリースクールの子ども活動と学びを報告する。活動の理解に際しては,エンゲストロームによるノットワーキング理論を援用したい。さらに教育社会学的な観点からはフリースクールについて長期参与観察を行った結果からフリースクールのどのような社会学的特徴が子どもの学びに影響を与えているのかを報告する。

フリースクールの歴史的背景と不登校の理解
斎藤富由起
 フリースクールの設立は高度経済成長を背景とした都市化と学歴主義に端を発し,ポスト工業化社会の中でフリースクールの形態が出そろっている。多様な教育の機会確保法の設立により,公教育との関係は「対立期」から緊張をはらんだ「対話期」へと移行しており,フリースクール相互の学びの質的検討と向上が課題となっている。
こうした中で脱学校文化型不登校や貧困などを背景とした複合型不登校(斎藤・吉森,2017)が指摘されている。脱学校文化型不登校は公教育内に居場所システムを要求し,複合型不登校はフリースクールと地域社会の関係を求めている。以上を社会文化的アプローチの観点から報告する。

神戸フリースクールの学び
竹林祐子・金城千尋
 シュタイナー教育やフレネ教育のように特定の教育方法をもつフリースクールもあるが,ほとんどのフリースクールは不登校の子どもの居場所として出発し,特定の教育方法を持たないものの,そこにいる子どもの活動に合わせて,日々の運営を行っている。したがって,フリースクールでは教科学習や一斉指導がカリキュラムとして設定されているわけではない。ある程度の枠組みや行事があるものの,その日の子どもの様子を見ながら活動が創発されるのが実際である。
 一方,これまでのフリースクールの研究は「不登校の子どもたちが安全を保障され,活力を得るのを待ち,自身のペースで自己・他者への心理的回復を行っている」というイメージがあり,「学び」という観点からの検討が乏しかった。そこで本発表では公教育の教科教育や一斉指導,生徒指導とヒドゥンカリキュラムに対するフリースクー-ルの学びをノットワーキング理論(Engeström,2007)の立場から検証する。

教育社会学からみたフリースクールの学び
森田次郎
 近代の学校空間に対する「オルタナティブ」とは何かという問いに対して,オルタナティブ教育における「転換型実践」(順応型転換,特化型転換,離脱型転換,往復型転換)という観点から各類型間の通時的な変容過程について考察する。また不登校の脱病理化(自己実現)と学歴保障(地位達成)の両立を余儀なくされる「二重のジレンマの時代」という時代状況に対し,オルタナティブ教育の現場がいかに順応し,またそこから離脱を試みているかに関する実証的な研究を報告する。また事例検討から得られた知見を整理し,1)可変性,2)複数性,3)開放性を要件とする新たなオルタナティブ教育像(alternativeness)を提示する。これら三つの要件は,近代学校空間の特徴とされてきた三要素,すなわち,1)単一性,2)固定性,3)閉鎖性という要素と対応しており,統制主義/自由主義という統一的な分析枠組みのもとで実証的に論じられてはこなかった知見である。

指定討論
 指定討論として江南健志からはエスノグラフィーや身体技法論(江南他,2018)の立場から森田氏のオルタナティブ教育論に対してご意見をいただく。また学習科学,とりわけSawyer.Kの社会的創発理論に詳しい吉田梨乃からは,神戸フリースクールの学びについての意見を伺う。
 ヴィゴツキー派の文化心理学の注目により,認知理論に基づく多様な学びへのアプローチが可能となっている。フリースクールの学びを教育心理学的観点から把握するとき,どのような「学び」の研究が生成されるのか。本シンポジウムの討論がその姿を探る一助となれば幸いである。

引用文献
江南健志・吉田梨乃(2018)身体と学びに関する社会科学的諸理論の比較と検討:対人関係論と身体技法をてがかりに 千里金蘭大学紀要 (14),13-20.
文部科学省(2015)学校基本調査 文部科学省.
森田次朗 (2008)  現代日本社会におけるフリースクール像再考:京都市フリースクールAの日常的実践から ソシオロジ 53(2),125-141.
斎藤富由起・吉森丹衣子(2018)日本におけるフリースクールの歴史と活動に関する質的研究 千里金蘭大学紀要(14),21-29.
土方由紀子 (2011) フリースクールの公教育化についての検討 : 「多様化」言説の陥穽 奈良女子大学社会学論集 18, 197-211