The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Sep 15 - Sep 17, 2018Keio University Hiyoshi Campus
The Japanese Association of Educational Psychology
The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Sep 15 - Sep 17, 2018Keio University Hiyoshi Campus

[JB01]人生の発達と語り直し青年期から中年期の縦断研究

白井利明1, 野村晴夫2, 尾崎仁美3, 日潟淳子4, 徳田治子5, 中村知靖6, 遠藤利彦7(1.大阪教育大学, 2.大阪大学大学院, 3.京都ノートルダム女子大学, 4.姫路大学, 5.高千穂大学, 6.九州大学, 7.東京大学)
企画趣旨
白井利明
 人は生涯にわたって発達していく。それはどうしたら研究できるのだろうか。
 本シンポジウムは,企画者の行ってきた縦断研究に基づく。本縦断研究の特徴は,聴き手が語り手の人生に寄り添ってきたことではないかと考えている。その結果,一人ひとりの発達がかけがえのないものであると考えざるをえなくなった。
 たとえば,サクセスフルな人生という見方がある。サクセスフルな発達軌跡があることは同時にサクセスフルではない発達軌跡があることも意味している。確かに,両者を弁別することによって,その後に人生を迎える人に有用な情報を与えることができる。しかし,当のその人にとっては,たとえサクセスフルではない人生であっても,そしてどんなに生きづらさや困難のある人生であっても,それを乗り越えて,その人なりに意味ある人生にしようとしているのではないだろうか。
 そのように捉えると,発達はどこか一時点の結果(アウトカム)のみで評価できないし,どんな人生がサクセスフルであり,どんな人生がサクセスフルでないかも容易には評価できないように思える。自分の人生に対するその人自身の評価も一義的には決まらないものであろう。
 生涯発達で特に注目したいことは発達の可塑性である。たとえば,発達早期のアタッチメントがその後の発達の基盤になることは間違いないが,たとえアタッチメントが剥奪されたとしても,その後の人生のなかで取り戻したり,あるいは個性へと転化したりすることが可能であろう。私たちはその後の人生を生き抜いたり,語り直したり,あるいは人との出会いのなかで,生き直したり,生まれ変わったりすることができるからである。
 しかも,青年期以降の発達は,それ以前と比べて個人差が大きくなり,ライフコースも多様化してくる。ここで,多様性とは単に「いろいろある」ということではない。進化論では,下等生物から高等生物への変化を進化と呼ぶのではなく(そもそも下等であるとか高等であるとかいうことではない),種の多様化のことを進化と呼ぶようである。進化に倣って言うとすれば,発達とは多様化であると言えるかもしれない。人が自分の持っているグランドプランに基づき,自分の価値を実現していくことが発達であり,成人期はそれが顕著に現れてくる時期だとも考えられるのである。
 こうした人生の発達を解明するには,人が歩んだ発達軌跡を振り返って,回顧的もしくは後付けで説明するだけでは不十分であろう。その人がそれぞれの時点で,振り返ったり,先を見通したりしながら,これからどうなるかわからない自分の人生を生きていく未完と未定の過程であると捉える前方視的な視点が不可欠であると考える。
 本シンポジウムは,上記のような問題意識を背後にもつ1つの挑戦である。縦断研究における面接調査の繰り返し(語り直し)のなかから事例を抽出し,青年期から中年期にかけての発達軌跡を前方視的な視点から検討してみたい。
 話題提供者の尾崎仁美氏は,面接調査の事例の概要を紹介する。日潟淳子氏は,事例について時間的展望の編成過程に焦点を当てて分析する。徳田治子氏は,事例について成人期発達の多様性に焦点を当てて分析する。中村知靖氏は,ここで扱った事例の典型性を量的データとの照合で検討する。指定討論者の遠藤利彦氏は,本研究が先行研究に新たに何を付け加えるのか,また今後,どのようなまとめ方をしたらよいのか示唆を与え,議論を起こす。司会は,人生の発達と語り直しについて見識のある野村晴夫氏にお願いした。

事例の概要
尾崎仁美
 本話題提供では,本シンポジウムで扱う事例の概要を説明する。
 本シンポジウムは,企画者が青年期から中年期にかけての27年間にわたり人の発達を追いかけてきた縦断研究に基づいている。具体的に言えば,学生時代からの年1回の質問紙調査と,20代に最大4回および40代の1回の面接調査からなる。
 しかも,本縦断研究は,単にその時々の意味づけを聞いてきただけではない。どんな状況に置かれており,また人はその状況をどんなふうに見て,どんな目標を立てたり,行動を起こしたりして,そして目標がどのように実現したり,実現しなかったりしたのか,そしてそれをどのように回顧し,将来展望を立てているかということを繰り返し丹念に見てきている。そこで,本話題提供では,事例の概要を紹介する際に,こうした点についても概略を説明したい。
 そして,事例の概要の紹介だけに留まらず,さらに,仕事への向き合い方や危機への直面とその乗り越え方などといった問題についても考えていければと思っている。

青年期から中年期の時間的展望の再編成
日潟淳子
 青年期・成人期前期・中年期の時間的展望の編成について検討し,それぞれの時期での時間的展望の編成の特徴について共通点と違いを検討する。また,編成・危機・再編成といった筋道が繰り返されるどうかも検討する。
 中年期になると,体力の衰えや仕事の天井感などから中年の危機を迎える。そのため,未来に目標や計画を立てて社会に出て行く青年期や成人前期とは異なる時間的展望を持つ。時間的展望とは未来や過去への見え方をいう。
 中年期の始まる40代になると,家庭や仕事を持つことにより自分の視点のみの時間的展望ではなくなる。さらには,50代に見られる人生を死から逆算して考えるという時間的展望の逆転も視界に入ってくる。それは危機を生じさせるものでもあるが,その反面,新しい視点からの理想や興味,行動を生じさせるものでもある。
 このように未来に時間が広がっている青年期や成人期前期と違い,また未来時間が狭まる老年期とも違い,中年期は,ある程度の人生を過ごしてきたが,まだ活動できる未来の時間のあるため,主体的な意味づけを伴う時間的展望を持つことで現在をよりよく生きることにつながる可能性がある。
 このことは,人が新しい世界に移行する際に危機を経験しながら時間的展望の再編成を行い,それが今までの世界の喪失とともに,そこからの解放でもあることを示している。束縛と自由は時間の持つ最も重要な働きである。そして,発達という観点から言えば,人は時間的展望により人生の非連続性と連続性を作り出している。そうした営みを捉えることは発達心理学の基本問題である。

親になるという経験とライフコースの多様性
徳田治子
 ジェネラティヴィティ(generativity)は,エリクソン(鑪幹八郎訳 2016,p.130)の漸成理論とかかわる重要な概念であり,親であることは最初の生産的な出会いである。世話(care)は後戻りできない義務につきまとう両価的アンビバレントを克服する。子どもを愛するように,仕事やアイデアを愛し,そして,そうした挑戦から自己を確認していく。
 仕事を通した発達を考えてみても,その様相は,単純に仕事の有無などといったものだけで決まるのではなく,仕事を持っていたとしてもその勤務形態や条件,その人が現在の状況(就業形態)の選択にどれだけ関わり得たのか,その選択に現在どの程度納得しているのかといった,女性の生き方や選択の過程との関連で理解する必要がある。親になることの意味も同様であり,文脈のなかで捉える必要がある。
 その意味では,人生の意味はライフコースそのものによって一義的に決まっているわけではないと言える。かといってまったく本人の自由になるわけでもない。本人の置かれた具体的な文脈のなかで,それぞれが発見していくものなのである。
 そもそも現代社会においては,従来描かれてきた「典型的な」人生観は実際には極めて限定的なものであると言えるかもしれない。たとえば結婚しない人,子どものいない人,離婚する人などの生涯発達の過程は,「典型的な」発達のかたちには必ずしも当てはまらないかもしれない。従来見落とされてきた多様な発達のかたちを再発見することは今日の発達心理学の基本課題である。

質的データと量的データの統合
中村知靖
 近年,質的研究アプローチと量的研究アプローチの混合研究法が活発になってきている。本縦断研究はすでに述べたように毎年の質問紙調査を実施しており,そこから量的な変化を捉えることができる。そこで,面接調査から得られた知見をそうした量的な変化と付き合わせていく作業を行う。
 具体的には,まず今回取り上げた事例の典型性の検討について量的データを使って行う。事例の全体の中での位置(特徴)を示すことで,何が一般化できて,何が一般化できないかについて考える情報を得られるだろう。
 次に,事例について質的分析で明らかになった結果を量的分析で明らかになったものと比較したり,関連づけたりする。たとえば,面接調査でクリティカルな出来事とその時期が特定されたとして,それが量的な変化で出てきているかなどといったことを分析する。それにより,解釈の深まりや今後の検討課題が明らかになろう。
 最後に,質的分析で明らかになった変数を量的分析に組み込むことにより,より精緻な分析ができるといった可能性を探る。逆に,量的分析で明らかになった視点について質的分析で活用するといった可能性についても提案する。
 もとより,本人が変化を認知しているということ(面接調査の結果)と,実際に尺度得点の変化として現れるということ(質問紙調査の結果)とは予定調和的に一致するとは限らない。それについては,白井(2009)の変容確認法の提案でも示されている。変容確認法を活かす方向についても検討したい。そして,ゆらぎながら発達していくことについて,質的データと量的データの統合からどう見えてくるのかについて検討したい。