The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Sep 15 - Sep 17, 2018Keio University Hiyoshi Campus
The Japanese Association of Educational Psychology
The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Sep 15 - Sep 17, 2018Keio University Hiyoshi Campus

[JB04]映像理解を捉え直す学習と教育をめぐって

村野井均1, 青山征彦2, 梶井直親3, 宇治橋祐之#4, 山本博樹5(1.茨城大学, 2.成城大学, 3.鳥取大学, 4.NHK放送文化研究所, 5.立命館大学)
企画趣旨
 近年の情報通信技術の発達はめざましく,映像を見ることだけでなく,映像を作ることも私たちの日常になりつつある。例えば,学校では,児童生徒がタブレット端末を使って映像を撮影し,プレゼンをするのは珍しいことではなくなった。メディア・リテラシー(Media Literacy)で言えば,映像の読み書きは日常的な教育内容になっているのである。若者の間では,動画投稿型SNSが当たり前になっており,将来なりたい職業は「ユーチューバー」が小学生男子で6位(日本FP協会,2017),中学生男子では3位となっている(ソニー生命,2017)。映像の読み書きは,育成すべき資質・能力になっているといえよう。
 一方,私たちの映像利用の中心であったテレビは,ザッピング対策で番組の構成が細かくなり,編集やカメラワークもより複雑になってきている。回想シーンや未来の想像といった時制表現も,けっして少なくないのである。
このように映像表現が発達することで,視聴者にとって映像理解はだんだん難しいものになっている。一方,映像の利用が日常化し,映像表現も高度なものになってきているにもかかわらず,教育心理学をはじめ,心理学からの映像理解研究はほとんどなされていないのが,現状である。このシンポジウムでは,教育心理学の立場から,現在の映像をめぐる状況をどのように捉えていくかを,あらためて考えてみたい。
 村野井(2016)は,私たちが映像を理解できるようになるプロセスには, 理解しやすいように映像を制作する制作者のようなサポートがあることを指摘している。いわば,映像が理解できるのは,理解できるように作られているからである。テレビや映像の見方は,子ども1人で自然にわかるものではなく,さまざまなサポートのもとに学ばれるものだと捉え直す必要があるだろう。
 このシンポジウムでは,近年の教育心理学的な映像理解研究から小学生の時制理解,視点の切り替えを支えるカット技法,段落わけとBGMの役割について紹介して,番組制作者とともに映像理解を学び,教えることについて考えてみたい。

話題提供
小学生の時制理解-「サザエさん」と「さわやか3組」の役割
村野井 均
 小学校英語で時制を教えることになった。小学生が時制をどの程度理解しているのか,テレビ理解の視点から紹介し,日本には見えない教育システムがあることを述べる。日本語は時制が明確でないため,小学生が自然に習得できるとは考えられない。しかし,小学校高学年になると「ドラゴンボール」や「ONE PEACE」など,回想シーンの多い番組を楽しめるようになっている。これらの番組には,回想シーンに回想シーンが入る大過去など高校英語レベルの時制変化も現れることがある。つまり,小学生はどこかで時制の読み取り方を学んでいるのである。
 テレビ理解の視点から見ると,時制表現をていねいに表す番組に「サザエさん」がある。この番組では画面に枠がつくこと(フレーム)や声の調子が変わることで時制を示している。BGMのオン,オフも手がかりとして使われている。少なくとも,この20年間同じ手がかりをつけ続けている。しかし,大過去のように複雑な時制は現れない。
 子ども向け番組の中で,回想シーンが必要な番組として「道徳」の番組があげられる。相手の心を想像したり,自分の行為を反省したりするためである。「さわやか3組」(NHK教育テレビ)は,小学校中学年向けの番組である。ところがこの番組では,大過去だけでなく,想像シーンの中に想像シーンが現れる「大未来」も使われていた。なぜ制作者はこのように複雑な時制を使用し,児童はそれが理解できるのか,その教育システムについて考えたい。

カット率の時代による推移:連続テレビ小説の分析から
青山征彦
 今日,私たちが当たり前のように視聴している映像には,かなりの数のカットが含まれている。カットが,単位時間(1分間とする場合が多い)に何回含まれているかを,カット率と呼ぶが,カット率についての体系だったデータはごく少ない。山本(1993)は,クイズ,アニメ,子ども向け番組,スポーツ,時代劇,ニュース,ワイドショーの7つのジャンルの番組について,カットの頻度を調査している。この調査によれば,カット率は番組のジャンルによって大きく異なり,もっとも少ないワイドショーでは4.3回/分,もっとも多いクイズ番組では13.7回/分であった。
 このようなカット率の分析に関して,注目されるのは稲増(2008)である。 稲増(2008) は,テレビドラマ「白い巨塔」の1979年版と2004年版で,対応するシーンの3分間あたりのカット数が23回から83回へと大幅に増加したことを指摘している。カット率に換算すると7.7回/分から,27.7回/分に増えていることになる。この結果からは,近年,映像編集が複雑化した結果として,カット率が増加していることが推測される。
 そこで,NHKの朝の連続テレビ小説を対象として,カット率を縦断的に調査した。その結果,1980年放映の「なっちゃんの写真館」では,6.1回/分だったカット率が,2010年放映の「ゲゲゲの女房」では,11.2回/分と,ほぼ倍増していたことがわかった。
特に,せりふのカット割には時代による変化が見られた。本発表では, このように時代によって変化する映像編集のありかたを通して,映像理解における制作者の役割について論じたい。

視聴者の映像理解過程に関わる要因とは
梶井直親
 近年のメディアの発達とともに,私たちは映像で表される物語に触れる機会が増えてきている。この映像で表わされている物語について,私たちはどのように理解しているのだろうか。
 物語を理解する過程については,いくつか研究がなされている。その代表的なモデルとしてイベントインデックスモデル(Zwaan et al., 1995)がある。このモデルによると,私たちは物語を読みながら,同時にその物語で起こっているできごとについての高次の心的表象(状況モデル)を構築する。また,この状況モデルは物語内の時間や場所などが変わると,新たな状況モデルに更新される。そして,物語を読み終えたときに,その物語についての状況モデルが完成される。この状況モデルは,物語の理解に重要であるとされている。
 では,映像で表わされた物語を視聴する際,状況モデルの更新は何がきっかけとなるだろうか。梶井(2017)はイベントインデックスモデルの枠組みを援用し,アニメーション視聴時における状況モデルの更新に影響する要因を検討した。この研究では,物語内の時間変化や場所移動などといった物語内容の要因に加えて,BGMの開始や終了といった映像技法の要因についても検討した。その結果,アニメーション視聴時の状況モデルの更新に,物語内の時間や因果関係の変化だけでなく,BGMの終了も影響することが明らかとなった。つまり,アニメーション視聴時の状況モデルの更新には,物語内容の要因だけでなく,映像技法の要因もきっかけとなる。本発表では,このような映像理解過程の研究を通して,視聴者が,映像で表わされた物語を理解する際に手がかりにしている要因について考えたい。

映像理解を考えた子ども向け番組の制作:NHKの学校放送番組から
宇治橋祐之
 幼稚園・保育所,小学校などを主な対象としたNHKの学校放送番組は,対象年齢(学年)を明記している。例えば『いないないないばぁっ!』(0~2歳児向け),『おかあさんといっしょ』(2~4歳児向け),『みいつけた!』(4~6歳児向け),『ざわざわ森のがんこちゃん』(幼稚園・保育所,小学校1~2年向け)などである。
 こうした学校放送番組の制作にあたっては,「各学年の生徒の学習態度や心身の発達段階に応ずるように配慮する。」(日本放送協会国内番組基準 第2章 第3項 2)と定められており,対象とする年代の子どもたちが理解できるような映像表現を心がけている。
 子どもたちの映像理解については,研究者と番組制作者が共同で研究を進めてきた。例えば1970年代末に発達心理学や教育学の研究者,テレビ研究者,番組制作者等の参加で発足した2歳児テレビ番組研究会では,番組の試作→幼児の視聴反応実験→分析結果の検討 →番組の制作という流れの中で研究が重ねられ,『おかあさんといっしょ』の「ハイ・ポーズ」(ヨガのコーナー)や「こんなこいるかな」(2歳児向け1分アニメ)等の様々なコーナーを登場させてきた。
 対象となる子どもたちの年齢に身近な存在をキャラクターに設定したり,発達段階に応じて人形や着ぐるみと扮装した人物などのキャラクターを使い分けたりするだけでなく,対象となる子どもたちの言葉の理解に応じたナレーションや字幕の作成,そして子どもたちに理解しやすい画面サイズや編集のリズムなど,子どもがきちんと映像理解できるように制作されてきた,子ども向け番組の制作方法について論じる。

参考文献
 小平さち子『子ども向け教育メディアの研究意義』NHK出版 「放送研究と調査2009年5月号」

付  記
 村野井,青山による発表は,NHKアーカイブス学術利用トライアルに基づくものである。記して感謝する。