The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Sep 15 - Sep 17, 2018Keio University Hiyoshi Campus
The Japanese Association of Educational Psychology
The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Sep 15 - Sep 17, 2018Keio University Hiyoshi Campus

[JC01]発達障害傾向のある生徒に対する高等学校の進路指導の現状と課題

西館有沙1, 水野雅之2, 徳田克己3, 水野智美4, 本城慎二5(1.富山大学, 2.東京家政大学, 3.筑波大学, 4.筑波大学, 5.東京都立府中高等学校)
企画趣旨
 我々は,発達障害傾向のある大学生や短期大学生の実習や就職をめぐる問題について,これまで議論を重ねてきた。発達障害傾向のある学生が保育や教育,医療機関での実習を行う場合には,援助の対象者との間でトラブルになったり,援助の対象者を危険な状態においてしまったり,学生自身が不適応を起こして実習の継続が困難になったりするケースがある。これらの問題には,実習先の施設や機関を利用する人たちや他の職員とのコミュニケーションがうまく取れない,一つのことに気持ちが向くと他のことが見えなくなる,頻繁に忘れ物をするといった,発達障害の特性が関係していることが多い。保育者や教育者,医療関係者などの対人援助職の養成において実習の単位は必須である。実習の単位を取れないために,養成校の卒業や就職の見通しがもてず,身動きのとれない状態に陥る学生もいる。
 日本学生支援機構が毎年行っている「障害のある学生の修学支援に関する実態調査」(2017)によれば,大学や短期大学,高等専門学校に在籍する発達障害学生の数は増えている。その内訳をみると,2016年度においては高機能自閉症(ASD)が64%であり,注意欠陥多動障害(ADHD)が20%と続く。大学等では,修学支援を行う体制をつくるところが増えている(西村,2017;田倉・藤井,2015など)が,上記の問題は学生自身,養成校の教員,実習先の指導担当者を悩ませ続けている。
 この状況をふまえると,大学等で起こっていることのみにスポットをあて,この段階での支援のあり方について論じるだけでは不十分であろう。発達障害傾向のある人が自分にあった進路を選択し,その長所を生かすことのできる場で能力を発揮できるように,幼児期からの各段階における支援のあり方に目を向け,長期的な視点をもって議論を進めていく必要がある。
 そこで本シンポジウムでは,高等学校における進路指導をテーマとした。高等教育機関における進路やキャリア支援の専門家,対人援助職者の養成校の教員,高等学校の教員それぞれの立場から話題提供をしてもらい,それらの内容をふまえて,発達障害のある生徒の進路指導はどうあるべきかについての議論を深めたい。

発達障害生徒に対する進路指導の課題
水野雅之
 高校生活から大学生活への移行には,レポートやディスカッションなど答えよりも過程が重視される学習形式や新たな友人関係,一人暮らしを始めるなど環境面での大きな変化が伴う。また,多くの大学生は入学前に抱いていた大学生活への期待と現実の間にギャップを感じる(ベネッセ教育総合研究所, 2007; 千島・水野, 2015)。多くの学生は周囲の人からサポートを受けたり,期待とは違う大学生活に新たな目的を見出して,大学生活に適応していく(半澤, 2009; Mizuno & Chishima, 2015; 和田, 1992)。
 しかし,一定数の学生は大学への初期適応が困難であり,専門家による支援を必要とするケースもある。このような学生の特徴として,自己理解や進学先の大学・専門分野への理解が不十分であることが挙げられる。加えて,自閉スペクトラム症や注意欠如多動症のような発達障害が疑われる場合,その障害特性ゆえに,特に適応が難しい(高橋, 2012, 2014, 2016)。
 たしかに,大学において,その学問分野を志す発達障害傾向のある学生の修学を様々な配慮・工夫を通して支援していくことも重要である。しかし,現実問題として支援にも限界があるだけでなく,本人から転部や退学など進路変更の希望が出されることも少なくない。そのため,高校における進路指導は大学の適応を左右する,非常に重要な取り組みであるといえる。
 現在の高校の進路指導の課題として,単に生徒の進路を決定するだけでなく,十分に自己理解と進学先の大学・専門分野への理解を深め,今後の大学生活をイメージできるようにすることが挙げられる。自己理解については,興味関心や好み・強みに関する理解を深めることと同時に,自身の障害特性による苦手さ・不向きを理解できるよう支援することが非常に重要である。また,発達障害傾向の有無にかかわらず,生徒は大学や専門分野に対して,現実的でない期待や誤ったイメージを持っていることも多く,適切な期待や正しい知識を身につけられるよう支援することが必要である。そして,進路の決定を指導のゴールとするのではなく,どのような大学生活が待っているのか,具体的なイメージを抱けるような指導が望まれる。

発達障害傾向のある人が対人援助職をめざす際に生じる問題             
水野智美
 筆者は,幼稚園や保育所等を巡回し,保育者からの相談に応じている。相談の中心は,気になる子どもの保育方法であるが,最近では,発達障害傾向のある保育者に関する相談が急増している。
 発達障害傾向のある人の問題を大別すると,1)注意視野が狭く,安全管理ができない,2)具体的な指示がないと動けない,3)期限までに物事を実行できない,4)物を無くす,忘れ物をする,5)伝達を忘れる,伝達ミスをする,6)優先順位を決められない,2つの事を同時にできない,7)日誌,文章などを書くことができない,8)当初の予定から変更があると混乱するなどがある。誰でもこれらのミスをしてしまうことはあるが,発達障害傾向のある者はその頻度と程度が高い。周囲は自身の仕事に加えて,発達障害傾向のある人のフォローをしなくてはならず,疲弊をしていくことになる。
 さらに周囲を困惑させるのが,トラブルが起こった後の発達障害傾向のある人の態度である。自傷行為を起こすなど,激しい落ち込みを見せるケース(自分が指摘したことによってその人に自傷行為をされてはたまらないという思いから,周囲は問題を指摘せず,我慢するようになる),表面上は謝罪をするが,他人事のようにふるまっているケース(周囲は,本人が自身の問題であると自覚していないことに憤慨するが,本人にはその気持ちが届かないため,次第に注意することをあきらめていく),逆に相手を攻撃するケース(関わると面倒であるため,周囲は問題を指摘しないようになる。なお,本人は問題を起こした自覚をもてないままでいる),失敗した自覚がなく,指摘しても本人は何のことかがわかっていないケース(本人に何を伝えても埒が明かないため,周囲が根負けして疲弊する)などがある。
 このように,発達障害傾向のある人が自身の特性を把握せず,苦手な業務の多い職業を選択してしまうと,本人が苦しみ,さらに周囲の人が巻き込まれて,職務満足感を下げ,職を辞していくことがある。また,利用者を危険にさらしたり,家族に迷惑をかけたりすることがある。加えて,発達障害傾向のある人が属する施設,学校,病院等は信頼を大きく失うことがある。
 特に,保育者養成校に在籍する達障害傾向のある学生の中には,単位を取得すれば保育士等の資格が得られるため,就職に有利であろうという理由で進学している者がいる。また,自身の特性が保育者に向いているかどうかを考えることなく,単に「子どもが好き」という理由だけで進路を決めているケースが目立つ。発達障害傾向のある人が,自身の特性を活かした職業選択をしなければ,結果的に周囲を巻き込んだ大きな問題を生じさせることになる。

高等学校における発達障害傾向のある生徒への進路指導の現状            
本城慎二
 今回のテーマに関わり,高等学校において問題だと思われることは,発達障害(あるいはその傾向が見られる)生徒についての理解が十分に進まず,彼らに組織的に対応するシステムが整っていない点であろう。そのことを抜きにして今回のテーマについて語ることはできないと考える。
 残念ながら,そのような生徒たちは,高等学校で行われる様々な活動に,『ちゃんと取り組めない生徒』,それらを『きちんとこなせない生徒』という理解をされ,そのような活動ができないのは本人の頑張り不足や意欲の欠如によると考えられることが多い。さらに『とても変わっている生徒だな。』という理解で片付けられ放置されてしまうことも少なくない。また一方で中学校までの段階で特別支援の対象とならずに高等学校に入学してきている生徒も多く,保護者,本人とも発達障害ということについての認識がないケースも多いという現実もある。  
 このような現状から進路指導や進路選択場面で起こりうることとして,以下のようなことが考えられるであろう。
a) 発達障害(あるいはその傾向が見られる)生徒も他の生徒と同じような進路指導の対象となる。つまり,発達障害のことを考慮して何かしら特別な枠組みで指導を受けるということはなく,他の生徒たちと同じ基準なり,評価に基づき進路選択に関わる指導を受けることになる。
b) 本人や保護者の希望が,まずは優先されることが多く,教員側から見て適性が感じられなかったとしても,なかなかその希望の変更を促すことは難しい。そもそも,その生徒の発達障害(あるいはその傾向)について学校側と本人や保護者との間に理解が共有されていない中で,そのような話を進めることは不可能に近いとも言えよう。
c) 学校側が進学実績などを優先して成績が良く学校にとって好ましい結果が期待される場合には,本人の適性を度外視してしまうこともまま起こる。つまり学力データ(いわゆる偏差値)といった基準でのみ判断されてしまうことになるのだが,それは発達障害(あるいはその傾向が見られる)の生徒においても例外ではないのである。
d) 進路指導は,そもそも関わる教員の意識や姿勢に影響される部分も多い。その生徒の人生に関わる問題であり,両者に信頼関係が構築されていない中では,指導内容の中身の濃淡にも大きな差が生じてくる。全ての生徒にその生徒に相応しい的確な指導が行われているかと言えば,決してそうは言えないのが実情であろう。このことは発達障害の生徒(あるいはその傾向が見られる)たちにはひと際大きな影響を与えていると言えよう。
 以上のような現状を踏まえ,このシンポジウムにおいて,その改善策が考えられれば幸甚である。