The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Sep 15 - Sep 17, 2018Keio University Hiyoshi Campus
The Japanese Association of Educational Psychology
The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Sep 15 - Sep 17, 2018Keio University Hiyoshi Campus

[JE04]非認知的(社会情緒的)コンピテンスの教育と展望

利根川明子1, 河本愛子2, 榊原良太3, 川本哲也4, 石井佑可子5, 武藤世良6, 遠藤利彦7(1.東京大学大学院, 2.東京大学大学院, 3.鹿児島大学, 4.東京大学, 5.藤女子大学, 6.お茶の水女子大学, 7.東京大学)
企画趣旨
 社会情緒的コンピテンス(socioemotional competence)は,児童生徒の自己と社会性に関わる有能さについて広く捉える概念である。近年は, Heckmanらの教育経済学的研究(e.g., Heckman & Rubinstein, 2001; Heckman et al., 2006)により,児童生徒の現在または将来の心身の健康や,社会的成功がIQや学力テストをはじめとする認知的能力(cognitive abilities)だけでは予測できないことが示され,むしろ認知的能力“以外の”力,すなわち社会性や情動性をはじめとする非認知的能力(noncognitive abilities)が,現在または将来の心身の健康や社会的成功に対する予測力を持つことが示されている。非認知的能力に対する国際的関心が急速に高まったことで,「非認知的能力」の内容やその測定,発達,介入可能性について,様々なレビューが行われ,従来,社会情緒的コンピテンスとして広く検討されてきた,子どもの自己と社会性の問題に改めて関心が寄せられている(例えば,英国におけるレビュー(Gutman & Schoon,2013),経済協力開発機構(OECD)によるレビュー(OECD,2015),本邦では,国立教育政策研究所(2017)によるレビューがある)。
 国際的関心の高まりの中,教育場面における児童生徒の非認知的(社会情緒的)コンピテンスの様相や教育可能性について,改めて関心が寄せられているように思われる。しかし,現代の日本の児童生徒を対象とした大規模調査や中長期的な縦断調査は少なく,実証的知見が乏しい。特に,日本の児童生徒の非認知的(社会情緒的)コンピテンスの発達軌跡,学校段階による得点の差異,教育による介入可能性について,実証的知見に基づいた議論が求められている。こうした現状を踏まえ,本シンポジウムでは,日本の児童生徒を対象に広く非認知的(社会情緒的)コンピテンスを測定した大規模調査に基づき,非認知的(社会情緒的)コンピテンスの測定の問題,非認知的(社会情緒的)コンピテンスを促進する可能性のある要因の検討,アウトカムとの関連について,多様な観点から話題提供を行い,議論を深めたい。

話題提供
自尊感情の発達的変化を探る
榊原良太
 自尊感情とは,「自分自身を基本的に価値あるものとする感覚」「自分に価値を置いている程度」である(Baumeister,Campbell,Krueger,& Vohs,2003)。自尊感情は,心理学の中でも長く関心が寄せられてきた概念であり,特にその獲得過程や種々の変数との関連について,多くの研究が行われてきた。かつては,自尊感情の向上が,子どもの学力や精神的健康の上昇,さらには問題行動の減少といった,様々な教育上の望ましい変化をもたらすと考えられ,自尊感情は“社会的ワクチン”としての機能を果たすとまで言われていた (California Task Force to Promote Self-Esteem and Personal and Social Responsibility, 1990)。その後,Baumeister e al.(2003)の報告を皮切りに,“社会的ワクチン”としての効果は必ずしも確認されないことが明らかにされ始めたが,依然として,自尊感情が子どもの教育・発達上の重要な適応指標の1つとしてあることに,疑いの余地はない。
 本発表では,この重要な適応指標である自尊感情が,子どもの発達のプロセスの中でどのように変化していくのかについて検討する。特に本発表では,学校という教育の場における自尊感情の変化に着目し,いかなる変化がどのように生じるのかについて,多面的に議論していくこととする。

学校行事への傾倒体験と,その後の社会情緒的コンピテンスの発達との関連の検討
河本愛子
 日本の学校においては,授業のみならず,学芸会や運動会といった学校行事が年中行われている。これは,学校行事が学習指導要領において,全ての学校で実施するよう定められているからである。
 先行研究においては,学校行事が,生徒の自主性,自己有能感や自己信頼感(長谷川, 2009;佐伯・石原・二橋・高・宮本・齋藤,2007;樽木・石隈, 2006; 樽木・蘭・石隈, 2008; 樽木, 2013),他者との相互理解,集団への協力・運営(樽木・石隈, 2006; 樽木・蘭・石隈, 2008; 樽木, 2013)といった社会情緒的コンピテンスに効果を有し得ることが報告されている。だが,学校行事に参加することが,実際のところ,児童生徒の発達上,いかなる意味で有用であるのか検討を行った研究は,未だ乏しく,実証的な研究を蓄積し,学校行事の意義を議論していく必要がある。
 そこで,本発表においては,学校行事に参加すること,とりわけ,そこに傾倒することが,いかにその後の児童生徒の社会情緒的コンピテンスに関連するかに関わる縦断データから実証的知見を紹介する。そこでは,学校行事が幸福感をはじめとした心理的変数に有用である可能性が示唆された。その一方で,1時点目の社会情緒的コンピテンスの高さを考慮した場合,その関連は,ほとんど見られなくなった。ここから,学校行事に傾倒することが,その児童生徒の発達上,いかなる教育的意義を有するのかに関する試論を行いたい。

児童・生徒におけるインターネット依存傾向とセルフコントロールの関連
川本哲也
 インターネット依存は国内外において,依然として児童期・青年期の大きな問題となっている (Cerniglia et al., 2017; Vondráčková & Gabrhelík, 2016)。わが国でも,特に中学生・高校生においてはインターネットの1日の平均利用時間が1時間を大きく上回り,そのために睡眠時間や勉強時間が犠牲になっている現状が指摘されている(総務省, 2013)。本発表は,社会情緒的コンピテンスがインターネット依存傾向に対していかに関連するのかを検証し,今後の予防的介入可能性について考察することを目的とする。発表においては,児童・生徒のインターネット依存傾向に対し,より基底的な社会情緒的コンピテンスといえるビッグファイブパーソナリティを統制したうえでも,セルフコントロールが強く負に関連することを示した分析結果を紹介する。さらに,セルフコントロールとインターネット依存傾向の負の関連は,小学生と比べ中学生・高校生の方が強く,青年期におけるセルフコントロールの重要性が示唆されたため,その結果も併せて紹介する。発表時はそれらの結果を通じ,児童期・青年期のインターネット依存傾向の抑制に対していかなる予防的介入が可能であるのか,現状から考えうることを議論したい。

児童期・青年期の非認知的能力に及ぼす教員および家庭環境要因の影響
石井佑可子
 子どもの非認知的能力発達を左右する要因として,教育介入や家庭環境の重要性が示されてきた(e.g.Heckman,2013 古草訳2015)。こうした知見は主に発達の早期段階に着目したものが多く,子どもが長じてからについてはあまり議論されてこなかった。しかし,就学から社会へ出るまでの長きに亘る児童期~青年期も,非認知的能力の発達において重要な時期と考えられる。従ってこの時期の非認知的能力が何によって促進されうるかを知る必要性は高いといえるだろう。
 そこで本発表では,児童期後期~青年期中期を対象とした調査から,彼らの非認知的能力に教員や家庭環境が及ぼす影響について検討した結果を報告する。学校が学業達成だけではなく社会情緒的発達の場でもあることを鑑みると,学校で教育にあたる教員が子どもたちの非認知的能力に影響を及ぼす可能性は十分に考えられる。また,養育者からの精神的自律をしつつある青年期の子どもたちでも,経済的な自立は殆どなし得ていないことから,家庭の社会経済的地位や資本が発達早期から引き続いて大きな影響力を持つこともまた容易に想像される。実際に調査結果からは,児童期以降においても,精神的健康を初めとする教員の要因や家庭の経済状況が子どもの非認知的能力に影響を及ぼしうることが示唆された。当日の話題提供では,今回の調査を元に,児童期以降の子どもたちの非認知的能力発達を促すものについて考察する機会としたい。

向社会的行動を予測する個別感情特性
武藤世良
 向社会的行動や,その頻度の個人差である向社会性は,非認知的コンピテンスが取り沙汰される以前から,人のまさに中核的な社会情緒的側面として注目され,心理学において理論的・実証的知見が積み重ねられてきた。向社会的行動や向社会性と深く関わる日常の言葉に「思いやり」があり,子どもには思いやりのある人に育ってほしい,という願いは,多くの親や教師に共通したものであるだろう。
 子どもの思いやりの育成には様々なアプローチが可能であると考えられるが,心理学においては,向社会的行動の規定因として,これまでしばしば特定の感情特性や感情状態が検討されてきた。この文脈では,従来,共感性や罪悪感が頻繁に取り上げられてきたが,近年では,誇りや感謝(e.g., Tangney, Stuewig, & Mashek, 2007; Williams & DeSteno, 2014),道徳的高揚(moral elevation: e.g., Cox, 2010),尊敬(武藤,2018)など,より多くの個別の感情状態や感情特性が向社会的行動を予測することが示唆されている。しかしながら,多くの個別感情特性を同時に扱った検討は少なく,向社会的行動や向社会性の発達に及ぼすそれぞれの感情特性の相対的な寄与については定かではない。そこで,本発表では,2時点の縦断データを用いて,1時点目の13種類の個別感情特性が,1時点目の向社会的行動を統制した上でも,2時点目の向社会的行動を予測するかを検討した研究結果を紹介する。また,結果を基に,思いやりの教育を考える際に,子どものベースラインとしての感情特性を考慮する必要性について論じたい。