The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Sep 15 - Sep 17, 2018Keio University Hiyoshi Campus
The Japanese Association of Educational Psychology
The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Sep 15 - Sep 17, 2018Keio University Hiyoshi Campus

[JF02]海外の実践から新教育課程を考えるニュージーランド,オーストラリア,スペインの授業や評価制度から

植阪友理1, マナロ エマニュエル2, 田中瑛津子3, 太田絵梨子4(1.東京大学, 2.京都大学, 3.名古屋大学, 4.東京大学大学院・日本学術振興会特別研究員)
 平成28年12月の中央教育審議会の答申を受けて,新学習指導要領が公示された。ここには「資質・能力の育成」「主体的・対話的で深い学び(アクティブラーニング)」「カリキュラム・マネージメント」など,従来の学習指導要領には見られない新たな視点が多く含まれている。しかし,なかなか具体的な実践のイメージが見通せず,悩みを抱える教員や研究者が多いのも実態であろう。
 こうした現状を踏まえ,本シンポジウムでは,新教育課程に資する海外での授業実践や評価制度を取り上げ,議論することとする。本シンポジウムに登壇するのは,いずれも教授・学習に関わる研究者であり,海外の研究者と学術研究を行うのみならず,現地において授業観察も積極的に行なっている。こうした観察の中から興味深い事例を取り上げ,フロアとも積極的に議論する。
 他の国の実践を参考とすることは,比較教育の視点からも重要である。ただし,海外の授業実践がそのまま日本の実践に当てはまると主張したいわけでも,他国の実践がより優れていることを示したいわけでもない。他国で行われた興味深い実践を取り上げ,深いレベルで議論することによって,日本の新たな教育のあり方へのヒントを探る。
 本シンポジウムでは,まずオーストラリアの実践を紹介する。単一の答えが存在しない課題や宿題を課すことによって,学習者の深い学びを促す実践例について,複数の学年,教科の事例を紹介する。次に,ニュージーランドの実践を紹介する。学習をした知識を使って,思考したり表現したりする活動が非常にうまく設定されており,アクティブラーニングの例としていくつかの授業例を紹介する。さらに,スペインにおける英語教育の実践を紹介する。ここでは,英語の知識を身につけるのみならず,領域横断的なコミュニケーションスキルの育成があわせて目指されており,資質・能力を育成している事例と考えられた。最後に,知識内容のみならず,資質・能力についても評価する教育システムとして,再びニュージーランドの事例を紹介する。
 いずれの発表においても,どのような点で新教育課程に資する実践であるのかという点と,教育心理学的視点との関連性について説明を加えてもらう予定である。

深い学びを促す発問・課題とは―オーストラリアの授業実践例から―
田中瑛津子
 オーストラリアの授業を参観し,記憶に深く残っている授業実践が3つある。一つは5~6年生の理科で,環境についての授業の宿題として,「持続可能な家」の模型を作成する課題が出された授業。二つ目は,3~4年生の図書の時間に「この本を読んで,想起した自分が見聞きしたこと,読んだことのある本,自分の経験,世界で起こっている出来事について,隣の人と共有しなさい」という課題が課された授業。三つ目は,幼稚舎のクラスで表紙やページの絵を見せずに読み聞かせを行った後,「本に出てきた怪獣を絵に描いてみよう」という発問がなされた授業である。いずれも,単一の答えがない発問・課題が出された授業実践であり,それらが授業中もしくは宿題の活動の中心として位置づけられていることに驚いた。
 正解のない問いを出すということは授業者にとって勇気のいることである。最終到達地点が定まらないため,授業者が一律に児童生徒の思考のプロセスを誘導することはできず,思わぬ方向に話し合いが進み授業の収拾がつかなくなる可能性もある。また,児童生徒にとっても,到達すべき正解がないため,自分たちがたどった思考や活動に意味のあったと感じることが難しい。
 上述の3つ発問・課題を教育心理学的な観点から見てみると,2つの共通点が指摘できる。一つは,知識の関連づけを児童・生徒自身に行わせる課題であること。もう一つは,思考の結果を表現させたり共有させたりすることを活動のゴールとしている点である。知識を関連づけること,そして自分の考えを人に伝えるということは,学習内容についての理解の深まりを促進することに他ならず,興味の深まりにも寄与すると考えられる。新教育課程で掲げられる「主体的・対話的で深い学び」の実現において,これらの実践からどのような示唆が得られるかについて議論したい。

深い理解につながるアクティブ•ラーニング―ニュージーランドの実践から―
植阪友理
 中央教育審議会の論点整理では「アクティブ•ラーニング」と表現されていたものが,答申では「主体的•対話的で深い学び」と修正された。この背景には,アクティブであることが大事なだけではなく,深い学びにつながっていくことが重要であるという思いが込められているだろう。2018年2月に行ったニュージーランドの授業実践では,そうした点で参考になる事例が少なからず見られた。ニュージーランドは,後述するようにキー•コンピテンシー(資質•能力)の育成も意図しながら授業設計を行っている国である。特に,アウトプット(子ども同士の対話)に入る前に,インプット(教師からの情報提供)がきちんとなされており,それを使ったアクティブ•ラーニングが実現して,深い学びにつながっていた。例えば,高校の国語の授業では,シェイクスピアのオセロを取り上げ,内容理解を行った上で,キーワードである二重性(duplicity)に着目し,身近な事例をグループで挙げる活動が行っていた。高校のmediaの授業では,ドイツの表現主義を学んだあとで,自分たちでもカメラをもって外に出て,表現主義の技法(白黒表現であったり,一部を強調したり,下から取る技法など)を生かした写真を作り,理由も含めて発表させていた。活動をさせるまえには,良い具体例を見せて,生徒が創意工夫をしやすい環境を作っていた。さらに,科学的検証の方法を学ぶ中学校の理科の授業では,「ペンギンはなぜ集まるのか(体温を維持するため)」ということを検証する方法を一緒に考えた上で,自分たちで実験してみて,うまくいかなかった場合にはなぜそうなってしまったのかを考えさせていた。
 受け身で情報を得るのではなく,自分たちの知識と関連づけたり,うまくいかない理由を考えてみたりする活動が有効であることは心理学の文脈からも効果的とされる。これらをより広く捉え,日本の授業への展開可能性を考えてみたい。
資質・能力の育成を目指した授業とはースペインのバイリンガル教育の実践から―太田絵梨子
 スペインでは,日本と同様に英語が外国語として学習されており,その習得度合いは一般的に見て必ずしも高いとは言えない。しかし今回紹介する学校では,幼児期からバイリンガル教育を取り入れることで高い成果が得られており,旧貧困地域に立地するにもかかわらず,公立校の中で屈指の人気校となっている。今回は,この学校における幼稚園児を対象とした授業の1つを紹介する。
 本授業では,漫画などで使われる「吹き出し(speech bubble)」を素材として,言葉や感情の表現方法を学習することがねらいとされた。授業は全て英語で行われ,「聞く,話す,読む,書く」の4技能の活用がバランス良く取り入れられていた。授業の展開としては,はじめに教師から「吹き出しとは何か」「どんな種類があるか」「どのように使い分けるか」といった知識が対話的に分かりやすく解説された。そのうえで,簡単な具体例を使って,学んだ知識の理解を深めるフェーズが用意されていた。その後,子どもたちはグループに分かれ,実際に吹き出しを使って自分自身でセリフを表現する課題に取り組むことになっていた。
 本実践では,1つの授業を通じて,英語の知識習得と資質・能力(ここではコミュニケーション力など)の育成が同時に目指されていた点に特徴がある。我が国の新教育課程においても,知識・技能だけでなく資質・能力の育成がより一層求められるようになっていくことから,本実践から得られる示唆は大きいと思われる。特に,指導上の工夫として,知識や方略はある程度明示的に教えた上で,それらを活用し表現する機会を積極的に設けることによって,よりハイレベルな認知的活動につなげていた点は注目に値する。当日は実際の授業の様子をビデオで見ながら,我が国での適用可能性などについて議論したい。

ニュージーランドにおけるキー・コンピテンシーの育成,評価,その活用
Emmanuel Manalo
 近年の国際的な動向として,学校の授業において教科に関する知識や技能を身につけさせるだけではなく,キー・コンピテンシー(日本では,資質・能力と呼ばれている)を育成することが求められるようになってきている。しかし,キー・コンピテンシーそのものを直接的な教育目標として取り上げた授業はあまり行われていない。また,キー・コンピテンシーそのものを,評価の対象としていることもあまり行われていない。日本では,新学習指導要の公示に伴い,資質・能力を学校の中で保証することが必要となった。また現行の学習指導要領においても,思考力,判断力,コミュニケーション力,問題解決力といったことが重視されているにもかかわらず,こうした視点が十分に評価の対象となっているとはいいがたい。
 これに対して,ニュージーランドでは,「キー・コンピテンシー」の育成は「Value(たとえば,美徳,革新,多様性,平等など)」や「Learning Areas(科目)」とならぶ重要な教育目標としてナショナルカリキュラムに位置付けられている。また,評価の対象として定められており,学校での指導を通じてどのように育成され,またどのように評価されるのかについて,学校ごとに明確化することが求められている。また,児童生徒自身も,学習活動中にキー・コンピテンシーが一定の基準に達していることを示す必要がある。
 ニュージーランドでは5つのキー・コンピテンシーの領域として,思考力/言語・記号・文章活用能力/自己管理能力/他者と協調する力/参加・貢献する力が挙げられている。これらは,人々が社会の中で生活し,学び,働き,社会に貢献する際に重要と考えられており,各学校においてカリキュラムに組み込み,評価することが求められる。多くの学校では,教師だけではなく,生徒,保護者と協議しながら,各コンピテンシーの評価が行われている。発表ではキー・コンピテンシーの育成,評価,活用のされ方について紹介する。