The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Sep 15 - Sep 17, 2018Keio University Hiyoshi Campus
The Japanese Association of Educational Psychology
The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Sep 15 - Sep 17, 2018Keio University Hiyoshi Campus

[JF06]ポジティブ生徒指導の動向(4)PBISと学習指導との繋がり

西口利文1, 福井龍太#2, 宇田光3, 佐藤純4, 有門秀記5, 松山康成6(1.大阪産業大学, 2.茨城県立医療大学, 3.南山大学, 4.茨城県立医療大学, 5.一般財団法人 生徒指導士認定協会, 6.寝屋川市立啓明小学校)
企画趣旨
 PBIS(ポジティブな行動の介入とサポート)はアメリカにおいては,目下,21,000校を超える学校教育の場に広がりを見せているという児童生徒の行動支援にかかる実践的モデルである。学校で児童生徒に生起する可能性のある問題行動に対して,特に応用行動分析の視点から予防的に介入を行うこと,またデータを収集および活用をしながら,対象となる児童生徒を3つの水準に分けつつ対応することなどの特徴をもっている。
 PBISは,日本においても生徒指導のあり方を考える上で参照されるようになってきた。「規制的あるいは対症療法的な生徒指導」(国立教育政策研究所生徒指導研究センター,2008)と呼ばれる,問題への対応に追われがちな学校現場の生徒指導に対して,「発達的な生徒指導」,「予防的な生徒指導」(同センター,2008)の枠組みを示すモデルとして注目されている。他方で,『生徒指導提要』(文部科学省,2010)にも示されているとおり,生徒指導は,本来,学校全体で組織的,計画的に行われることが求められるものである。すなわち,学習指導も,例外なく生徒指導と不可分の関係にある。
 本シンポジウムでは,生徒指導の視点から,PBISと学習指導との繋がりについて考える機会と位置付け,その上で,仮に日本でPBISを導入する場合の可能性ならびに課題について考えていきたい。
文  献
国立教育政策研究所生徒指導研究センター (2008). 規範意識をはぐくむ生徒指導体制-小学校・中学校・高等学校の実践事例22から学ぶ-,東洋館出版社
文部科学省 (2012). 生徒指導提要,教育図書

グループディスカッションの実践から見た繋がり
西口利文
 グループディスカッションとは,「理解深化,活動調整,共有された問題解決などのような,何らかの相互依存的な目標達成をするために集団(3人以上)内で互いに取り合うコミュニケーション」(Galanes & Adams,2012)である。発表者は,教育実践におけるグループディスカッションの適切な導入のあり方についての検討を行っている。その立場からは,PBISと学習指導との繋がりについて,(1)学習指導に並行したPBISの実践,(2)PBISの実践が学習指導に及ぼす効果,という2点を挙げることができる。
(1)学習指導に並行したPBISの実践
 学習者を単に寄せ集めるだけでは,グループディスカッションで期待される相互依存的な目標達成に結びつくとは限らないことは,様々な科学的知見が示している。つまり,授業でグループディスカッションを実践する場合には,学習者の行動を支えるための意図的な教育的介入が求められる。こうした意図的な教育的介入は,結果としてPBISの行動支援にも通じている。たとえば,上述のグループディスカッションが成立するためには,協同学習の基本的構成要素として挙げられる,小集団での対人的技能(Johnson, Johnson & Holubec,1990)の育成を,教育的に支えていくことは避け難い。学習者たちは,こうした教育的な介入のもとで,お互いの相手の話を聞き,意見を尊重しあいながら,論理的に問題解決をしていく可能性を高めていくのである。
(2)PBISの実践が学習指導に及ぼす効果
 PBISの行動支援モデルは,結果として学習活動のあり方に繋がるものと考えられる。一般的に,学習者の自己統制や自己規制,忍耐や決断などの心理的側面は,青年期以降の学習者では学業達成を予測することが知られている。また,グループディスカッションの実践に目を向けると,社会で活動していくのに必要な行動を児童たちがどの程度内面化しているかによって,小学生の道徳の時間でのグループディスカッションでの彼らの発言に影響しうることが確認されている(西口・中野,2018)。
文  献
Galanes,G.J., & Adams,K. (2012). Effective Group Discussion: Theory and Practice. (14th ed.)  New York: McGraw-Hill.
Johnson,D.W., Johnson,R.T., & Holubec,E.J. (1990). Circle of Learning. Interaction Book Company. (杉江修治・石田裕久・伊藤康児・伊藤篤(訳) (1998). 学習の輪-アメリカの協同学習入門 二瓶社)
西口利文・中野真悟(2018). 児童のセルフマネジメントとグループディスカッションでの発言との関連-小学校3年生の道徳授業からの分析日本教育心理学会第60回総会発表論文集

大学教育におけるポジティブ生徒指導:初年次英語教育を例に
福井龍太
 国内外のポジティブ生徒指導(PBIS)研究をみると,その対象は主に初等・中等教育における行動支援であることがわかる。しかし大学全入時代となり,入学者選抜の方法も多様化するなか,大学生に対する生徒指導という観点が必要となっている。本発表では,PBISの知見を大学生の授業態度の改善や学修支援に生かすことを検討する。
 大学初年次におけるコミュニケーション英語および英語講読の授業においては,英語学習に対する学生のモチベーションの維持が重要である。しかし,これらの授業では必ずしも専門教育に直結した英語が教授されるものではないうえ,必修科目かつ受講できる授業を学生自らが選択できない場合が多いことから,受講態度や出席状況が問題となることがある。さらに,大学入学前までの英語教育とは異なり,英語を用いて発表したり情報を得たりする演習が多いために,個々の学生の学習意欲に差が出やすく,故に必要な支援も多岐に渡るといえる。また,英語学習方略も多様化しており,ICTの利用を含む日常的方略が抽出された(福井他,2015)。これを踏まえ,発表者の取り組む英語コミュニケーション・英語講読の授業を例に,PBISに関してすでに得られている知見を大学教育に応用する可能性について論じる。
文  献
福井龍太・佐藤 純(2015).  英語学習方略尺度の作成:医療系大学生を対象に,日本教育工学会第31回全国大会ポスター発表

BRDによる多人数講義の改善とPBISの「枠組み」
宇田 光
 大学での多人数講義に伴う諸問題を,予防する方法として,当日ブリーフレポート方式(BRD)がある。ここでは,PBISと対比しつつ,BRDの枠組みが持つ意義を考える。
BRDの特徴は,90分間受講生が集中できる枠組みの提供にある。授業冒頭でレポートのテーマというかたちで目標を提示したうえで,A4版1枚のレポート用紙を配布する。受講生は,授業時間内にこれを執筆・提出する。従来の説明を中心とする講義では,受講生は「説明を聴いておく」というゆるい枠組みの下にあり、十分な集中力を維持できない。一方,BRDを採用した講義では,受講生に(90分内に)「レポートを書き上げる」という具体的な目標があるため,受講生は集中でき,理解度も上がる。こうして,枠組み自体を変更すること(リフレーミング)が,講義改善の要である。
PBISとBRDには共通する面がある。どちらも,教師が多数の児童生徒や学生を指導する時,具体的な目標を示す。そして,秩序を保つしくみや,安定した学習の「枠組み」を提供する。このことで児童生徒や学生も教員も,安心してその持つリソースをより有効に活用できる。集団には一定の秩序が保たれ,本来の学習目標が達成されやすい環境が整うのである。
文  献
宇田 光 (2005).  大学講義の改革―BRD(当日レポート方式)の提案 北大路書房
宇田 光 (2018).  多人数の心理学講義をどう進めるか 南山大学教職センター紀要 3号 1-13.

医療系大学の実技指導におけるPBISの意義-注意指導研究からの示唆-    
佐藤 純
 医療専門職種を養成する医療系大学においては,最新の医療科学に関する知識の教授に加えて,実技の指導も大きなウェイトを占める。したがって,どのような方法で指導を行うかが重要となるが,旧態依然とした指導がなされている現場もあり,実習中のハラスメントを原因とする自殺の事案も生じている。
 発表者らは,医療系大学における注意指導(注意や叱りといった指導)に関して仮想場面を用いた一連の研究を行った(福井他,2015等)。その結果,脅すような注意指導は他の注意指導よりも,緊張・抑うつ・怒り・混乱といった感情的反応を高め,学生が自分の非を認めて納得したり,指導者に感謝したりすることが少ないことが示された。また,謝罪することも少なく,反抗や無視といった行動的反応を高め,改善に向かう変化は少なく,それよりも回避的な変化を増加させる可能性があることが示された。これは,ネガティブな行動に対する威圧的な指導が,かえって学習を妨げるような影響をもたらし得ることを示唆している。
 PBISとはポジティブな行動を支援するモデルであるが,上記の注意指導とは,表と裏の関係にあるように見える。注意指導研究は,PBISを直接的に支持するアプローチとはなっていないが,PBISの裏側から光を当て,その意義と有効性を浮かび上がらせていると捉えられないだろうか。
 ところで,注意指導やPBISが関与できる領域は,生徒指導場面のみにはとどまらない。先の研究が示したような実技指導で考えれば,体育,美術,技術家庭科,音楽等の実技を伴う教科や,部活動などの課外活動における指導においても適用可能であろう。さらには,日々の授業の中で児童・生徒・学生は様々なポジティブ,ネガティブな行動をとり,それらに対して教員が何らかの介入をしていることを考えると,主要科目における学習指導においても,注意指導研究ならびにPBISの知見は活かすことが可能であると考える。