The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Sep 15 - Sep 17, 2018Keio University Hiyoshi Campus
The Japanese Association of Educational Psychology
The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Sep 15 - Sep 17, 2018Keio University Hiyoshi Campus

[研企シ]達成動機とジェンダー

伊藤裕子1, 森永康子2, 相良順子3, 安達智子4, 鈴木淳子#5(1.文京学院大学, 2.広島大学, 3.聖徳大学, 4.大阪教育大学, 5.慶應義塾大学)
企画の趣旨
 達成動機とは,マクレランドの言葉を待つまでもなく「期待される水準以上の成果を上げようと努力すること」で,わかりやすく言えばやる気や意欲であり,教育現場では生徒の学習意欲をいかに引き出し高めるかが課題となっている。また,就職に際しても「達成動機の高い人」を企業は欲している。達成動機と親和動機は,前者を男性性,後者を女性性と関連付けたり,古くは組織心理学の中でPerformanceとMaintenanceとして,リーダーには両方の能力が必要とされるといわれてきた。かつてパーソナリティを記述する際に,アンドロジニー(両性具有型)が求められていたが,現実社会では果たしてどうなのだろう。
 「女性は数学が苦手」というステレオタイプをみていくと,思春期の頃まで男女の成績にあまり違いはみられなかったが,思春期以降差が開いていく。また,ジェンダー・ギャップ指標(2016)をみると,日本の順位は144ヶ国中111位と,前年の101位からさらに後退した。2017年には国政選挙があったが,女性にとっての「ガラスの天井」ならぬ「鉄の天井」(小池百合子)という表現まで飛び出した。
 達成動機,特に競争的達成動機の高い女性は育児不安が強いといわれるが,達成動機はジェンダーとどうかかわるのか,自己意識やキャリア形成とも絡めて改めて考えてみたい。

話題提供1
女性の数学に対する態度とステレオタイプ
森永康子
 日本を含め先進諸国の多くでは,理系分野(STEM)の学生や研究者に占める女性の割合が低い(内閣府, 2016)。このような性差を生み出す原因として,遺伝的要因や社会的要因などがさまざまに論じられてきた(e.g., Ceci & Williams, 2007)。本報告ではSTEMにおける性差を説明する要因として「女性は数学が苦手」というステレオタイプに焦点を当てる。数学は大学での専攻や将来の職業を決める際の重要な教科であり(e.g., Betz, 2005),このステレオタイプの影響に関する研究は,女性の達成動機を考える上で重要であろう。
 数学とステレオタイプを扱った研究では「ステレオタイプ脅威(stereotype threat)」が有名である。数学の試験の前に,性別を意識させたり,性差の有無を教示したりすることで,試験の成績が低下することが示されてきた(e.g., Spencer et al., 2016; ただし,効果量はそれほど大きくない)。ステレオタイプ脅威の実験は大学生を対象としたものが多いが,子どもたちでも同様の結果が報告されており,「女の子は算数が苦手」というステレオタイプを自覚的に持っていない場合にも女子生徒の試験の成績に影響が見られることが報告されている(Huguet & Réginer, 2009)。ステレオタイプ脅威の研究は,試験前にステレオタイプを喚起させる手続きがとられるが,試験を受けた後でも,ステレオタイプに触れることで数学意欲が低くなることが示されている(Burkley et al., 2013; 森永ら, 2017)。
 IATなどの潜在的指標を用いた検討も行われており,顕在的なステレオタイプよりも潜在的なステレオタイプのほうが大学生の数学の成績と関連することが報告されている(Nosek et al., 2002)。また,小学生で算数の成績には性差がないのにもかかわらず,男子より女子が自己概念と算数を結びつける程度が弱いことが見出されており,それは女の子が自己概念としてme=girlをもち, girl≠mathを学習するせいではないかと考えられる(Greenwald et al., 2002)。
 女性や女の子の数学意欲や数学に対する態度を高めるための検討も行われており,次のようなことが見出されている。ステレオタイプの悪影響についての知識によって悪影響を免れることができる(Johns et al., 2005)。実験的に数学関連用語がコンピュータ画面に出たら,ジョイスティックを手前に引く動作を繰り返すと数学に対する潜在的な態度がポジティブになる(Kawasaki et al., 2008)。男女に関わらず,数学の試験結果とともに「よくがんばったね」といった言語的フィードバックにより,数学の成績は努力によって変えることができるという認知を子どもが持つようになる(Dweck, 2007)。これらの多くはステレオタイプそのものを変えるものではないが,STEMを専攻する女性が増えることで,「女性は数学が苦手」というステレオタイプが弱くなる可能性もあるだろう。

話題提供2
女子中高生の自己意識と達成動機
相良順子
 青年期の女子は男子と心理的に異なる様相を示すことが指摘されている。その一つが,自己評価である。青年の自己評価に関しては,明らかな男女差があり, 女子は男子に比べて自信が低いことは内外の研究で指摘されてきた(e.g., 山本・松井・山成, 1982: Hyde, 2005)。この理由として,女子は周囲の人間を意識して自分に対し批判的になることが指摘されている(e.g.,真栄城, 2005)。
 では,自分をより高めたいという達成動機についてはどうであろうか。達成動機は,学習意欲に関連する重要な心理的変数であると考えられる。今日学力では男子と同等かそれ以上の成績を示すことが報告されているが,女子生徒の達成動機は中学,高校を通じて変化はみられないのだろうか。
 今回の話題提供の一つは,女子生徒における達成動機は中学生から高校生にかけてどう変化するのかという問題と,次に,それは学力や自己評価とどう関係するのかについて縦断研究から得られたデータをもとに取り上げる。ここにおいては,中学生と高校生の違いも浮かび上がってくる。
 最後に,達成動機と価値観の関係について取り上げたい。達成動機と学力との関連については,相良ら(2015)の女子高校生を対象とした研究において,英語のみに弱い相関を見出している。この結果から,達成動機は青年期には必ずしも学校の勉学だけに向かうものではないと考えられる。達成動機が何に向かうかは,生徒が何を重視するか,すなわち価値観の問題に関連する。高い学歴が重要だと考えれば,勉学に向かい,女性に伝統的に期待されているような「家庭的」であることに価値をおけば,その方向へ達成動機が働くであろう。達成動機の高い生徒の中には,伝統的に女性に期待された価値観を受容し,それを目指す者もいるのではないだろうか。
 本発表では,自己評価が大きく揺らぐ中学生と高校生の女子に焦点をあてる。そして,中学と高校のそれぞれ3年間のデータをもとに,達成動機に関する上記の問題を取り上げ,話題提供としたい。

話題提供3
女性とキャリア
安達智子
 女子大学生のキャリア支援に携わるなかで日々感じるのは,彼女達の多くは早い段階から仕事や働き方の選択肢を伝統的な枠の中におさめているということだ。そして彼女たちの選択には,当該領域で女性が活躍しているか否か,社会に出た女性がどのような生き方をしているかが関わりをもつ。言い方を変えれば,女子学生が描く将来には,現代日本社会における女性達の生き方や働き方が映し出されている。
 本発表では女性のキャリア選択について3つの切り口から話題提供をする。はじめに,1)ワーク・キャリアという職業の選択について。次に,2) 女子学生が描くライフ・キャリアについて,そして最後に,3)大学を卒業して働く女性の生活時間の使い方について,男性との比較や現実と理想のギャップに焦点をあてて論じる。
 1)まず,人々が職業に対して抱く「男らしい,女らしい」イメージが,男女占有率ときれいに比例しているというデータを紹介しよう(Adachi, 2013)。つまり,今の日本社会において,「〇〇は女性の仕事です,△△は男性の仕事です」と教え授けることはないだろう。だが,我々はそこで働く男女の比率を敏感に(そして精密に)ひろって職業イメージをつくりあげている。そして,これらのイメージと自己効力の関連を調べたところ,男女ともに異性が多くを占めており,異性のイメージをもつ職業への自己効力が低くなる。この傾向はとくに女子学生において顕著であった(Adachi, 2014)。
 2)次に,男女大学生が将来想定しているキャリア・パターンを調べたところ,男子学生はほとんどが勤続型を選択しており,女子学生では一時中断型が勤続型よりも多くみられた。また,将来の時間の使い方を想定させたところ,男子学生は仕事に,女子学生は子育てと家事に配分する時間が長く,男女ともに伝統的なライフ・キャリアを想定していることが分かった。(Adachi, 2017)。
 3)大学卒業後,子どもを育てながら働く女性の時間の使い方を調べた。その結果,女性は男性よりも家事と子育てに長い時間を費やしていた。現実と理想のギャップを調べたところ,家事と仕事は理想よりも長い時間を費やしており,子育て,余暇,学習については理想通りの時間を割くことが出来ていないという実情が明らかになった。
 今の学生達は随分とジェンダーにまつわる問題に関心をもつようになっており,リベラルな志向も高まっている。しかしながら,自らの人生設計になると伝統的な志向に収束していかざるを得ないのが実情といえそうだ。