Presentation Information
[G-O-3]Vegetation changes around MIS 19 (800-750 ka) based on pollen in the Boso Peninsula – Progress of the Chibanian GSSP including comparison with the present interglacial (MIS 1)
*Masaaki OKUDA1, Yuuki HANEDA2, Yusuke SUGANUMA3, Makoto OKADA4 (1. Nat. Hist. Mus. Inst., Chiba, 2. AIST, 3. NiPR, 4. Ibaraki Univ)
Keywords:
MIS 19,Chiba composite section,pollen,paleovegetation,Chibanian
2000年代より前、第四紀における古気候研究は、完新世および約2万年前の最終氷期に研究例の大半が集中し、更新世中期においては極端にデータが限られる状況が続いていた。ところが、南極大陸の氷コアから80万年前にさかのぼる大気CO2濃度等のデータが得られるに至り(EPICA, 2004; Lüthi et al., 2008)、過去80万年を対象とした古気候研究が新たに脚光を集めている(Barker et al., 2011; Spratt & Lisiecki, 2016など)。
この過去80万年の最初期にあたるのが、MIS 19間氷期(787-757 ka)である。加えて、MIS 19は773 kaに松山-ブリュンヌ(M-B)古地磁気境界を含むため、編年精度を欠く更新世中期において汎世界的な同時間面を提供できる点により、MIS 19は古くから注目されていた。
この過去80万年間を包含する花粉層序を編もうとする試みがOkuda et al. (2006)だった。日本列島では、14Cを適用できず陸上の地層も途切れがちになる更新世中期においては、花粉データは断片的なものに限られていた。そこでOkuda et al. (2006)は、滋賀県琵琶湖の43万年データと千葉県の上総層群から採取した800-400 kaデータを連結させることにより、日本列島中軸部における過去80万年の連続花粉層序を作成した。今回報告するMIS 19の花粉データは、この80万年区間の最下部(上総層群国本層)を新たにハイレゾ分析したものである。
加えて、このMIS19相当層にあたる上総層群国本層は、地層の露出状態等の良さが評価され、国際地質科学連合により77.4万年前の時代境界を定めるGSSPとして選出された結果、更新世中期後半の地質時代(774-129 ka)に「チバニアン」の名称が与えられる契機となった。
さて、このMIS 19間氷期は、古気候学的には現在の間氷期(MIS 1)のアナログと見られている(Tzedakis et al., 2009)。それは日射量変動の40万年周期に基づいており、現在(0 ka)のアナログは地球軌道要素の位相に基づけば777 kaとされることから、777-747 kaの3万年間は、現在から3万年後までの未来の地球環境のアナログになる。ただし、これは人間が地球上にいなかったと仮定した場合の自然状態における話である。
このMIS 19を含む80-75万年前の地層(千葉セクション)に対し、花粉等の分析データはすでに採られていたが(Suganuma et al., 2018)、チバニアン審査に間に合わせることが最優先だったため、分解能が粗かった。そこで今回は、花粉のデータ解像度を上げた再分析を行い、MIS 19の古植生変遷を復元した。
気候学的には、MIS 19は(1)787-775 kaのMIS 19c間氷期と、(2)775-757 kaのMIS 19b亜氷期またはMIS 19a亜間氷期に分けられるが、浮遊性d18Oとの比較に基づき、(1)MIS 19cには比較的温暖な落葉ナラ類(Lepidobalanus)が優占し、冷涼なブナ属(Fagus sp)が随伴する花粉組成が示された。一方、(2)MIS 19b-aには、冷涼なブナ属やツガ属(Tsuga)が増加しつつも、比較的温暖または多雨を指示するスギ科(Taxodiaceae)が増加する組成が示された。
自然状態におけるMIS 1は、日射量変動をみる限り、約0 ka前後で現在の間氷期状態が終了し、次の氷期に突入するように見える。しかしMIS19との比較に基づくなら、現在の間氷期(MIS 1)の終了後すぐに訪れるのはMIS18類似の「次の氷期」でなく、MIS 19b-a類似の亜(間)氷期であり、今後冷涼な変動期が2万年ほど続いたのち、次の氷期に突入すると示唆される。なお、以上は人間が存在しない自然状態における地球の未来であり、人為CO2の排出が続いている現実の完新世においてはこの限りではない。
[1] EPICA (2004) Nature 429, 623
[2] Lüthi, et al. (2008) Nature 453, 379
[3] Barker, et al. (2011) Science 334, 347
[4] Spratt & Lisiecki (2016) Clim. Past 12, 1079
[5] Okuda et al. (2006) Island Arc 15, 338
[6] Tzedakis et al. (2009) Nat. Geosci. 2, 751
[7] Suganuma et al. (2018) Quat. Sci. Rev. 191, 406
この過去80万年の最初期にあたるのが、MIS 19間氷期(787-757 ka)である。加えて、MIS 19は773 kaに松山-ブリュンヌ(M-B)古地磁気境界を含むため、編年精度を欠く更新世中期において汎世界的な同時間面を提供できる点により、MIS 19は古くから注目されていた。
この過去80万年間を包含する花粉層序を編もうとする試みがOkuda et al. (2006)だった。日本列島では、14Cを適用できず陸上の地層も途切れがちになる更新世中期においては、花粉データは断片的なものに限られていた。そこでOkuda et al. (2006)は、滋賀県琵琶湖の43万年データと千葉県の上総層群から採取した800-400 kaデータを連結させることにより、日本列島中軸部における過去80万年の連続花粉層序を作成した。今回報告するMIS 19の花粉データは、この80万年区間の最下部(上総層群国本層)を新たにハイレゾ分析したものである。
加えて、このMIS19相当層にあたる上総層群国本層は、地層の露出状態等の良さが評価され、国際地質科学連合により77.4万年前の時代境界を定めるGSSPとして選出された結果、更新世中期後半の地質時代(774-129 ka)に「チバニアン」の名称が与えられる契機となった。
さて、このMIS 19間氷期は、古気候学的には現在の間氷期(MIS 1)のアナログと見られている(Tzedakis et al., 2009)。それは日射量変動の40万年周期に基づいており、現在(0 ka)のアナログは地球軌道要素の位相に基づけば777 kaとされることから、777-747 kaの3万年間は、現在から3万年後までの未来の地球環境のアナログになる。ただし、これは人間が地球上にいなかったと仮定した場合の自然状態における話である。
このMIS 19を含む80-75万年前の地層(千葉セクション)に対し、花粉等の分析データはすでに採られていたが(Suganuma et al., 2018)、チバニアン審査に間に合わせることが最優先だったため、分解能が粗かった。そこで今回は、花粉のデータ解像度を上げた再分析を行い、MIS 19の古植生変遷を復元した。
気候学的には、MIS 19は(1)787-775 kaのMIS 19c間氷期と、(2)775-757 kaのMIS 19b亜氷期またはMIS 19a亜間氷期に分けられるが、浮遊性d18Oとの比較に基づき、(1)MIS 19cには比較的温暖な落葉ナラ類(Lepidobalanus)が優占し、冷涼なブナ属(Fagus sp)が随伴する花粉組成が示された。一方、(2)MIS 19b-aには、冷涼なブナ属やツガ属(Tsuga)が増加しつつも、比較的温暖または多雨を指示するスギ科(Taxodiaceae)が増加する組成が示された。
自然状態におけるMIS 1は、日射量変動をみる限り、約0 ka前後で現在の間氷期状態が終了し、次の氷期に突入するように見える。しかしMIS19との比較に基づくなら、現在の間氷期(MIS 1)の終了後すぐに訪れるのはMIS18類似の「次の氷期」でなく、MIS 19b-a類似の亜(間)氷期であり、今後冷涼な変動期が2万年ほど続いたのち、次の氷期に突入すると示唆される。なお、以上は人間が存在しない自然状態における地球の未来であり、人為CO2の排出が続いている現実の完新世においてはこの限りではない。
[1] EPICA (2004) Nature 429, 623
[2] Lüthi, et al. (2008) Nature 453, 379
[3] Barker, et al. (2011) Science 334, 347
[4] Spratt & Lisiecki (2016) Clim. Past 12, 1079
[5] Okuda et al. (2006) Island Arc 15, 338
[6] Tzedakis et al. (2009) Nat. Geosci. 2, 751
[7] Suganuma et al. (2018) Quat. Sci. Rev. 191, 406
