Presentation Information
[G-O-10]Landslides Triggered by the July 2023 Heavy Rainfall in Northern Kyushu, Southwestern Japan
*Takuma SAEKI1, Yasuo MIYABUCHI2, Michio KIDO3, Hideo HOSHIZUMI4 (1. Grad. School Sci. Tec., Kumamoto University, 2. CWMD, Kumamoto University, 3. Miike High School, 4. Geological Survey)
Keywords:
landslides,Yamakuni Formation,hydrothermal alteration,swelling clay mineral,afforestation area
2023年7月7日~10日にかけて,梅雨前線の影響により九州北部の広い範囲が豪雨に見舞われた(福岡管区気象台,2023).福岡県砂防課管轄の発心北観測所(耳納山地)では,この4日間の総雨量が676 mmを記録するなど,4地点で600 mmを超える降水があった.とくに線状降水帯が発生した10日には,発心北観測所で434 mm/日の猛烈な降雨がみられた.この豪雨に伴って発生した九州北部の斜面崩壊を,航空写真判読と現地調査により101箇所抽出した.崩壊の誘因となった降雨の分布によると,7月7日~10日の4日間の降雨が500 mmを超える地域に,多数の斜面崩壊が分布することがわかった.
また,これらの斜面崩壊の素因として,崩壊発生地の地形,地質および植生の状況を検討した.斜面崩壊は傾斜30°以上の急斜面で多数発生しており,崩壊斜面の傾斜方位は特定方向への偏りは認められなかった.さらに,表層崩壊と深層崩壊の規模を比較したところ,表層崩壊は深層崩壊より面積や斜面長が小さい傾向にあり,斜面長に対して崩壊幅が広いという特徴もみられた.崩壊斜面の平面形態は,尾根型斜面と谷型斜面で同程度の発生頻度であったが,面積の広い深層崩壊は谷型斜面で発生している傾向があった.
崩壊が発生した地域の主な地質は,火山岩が40箇所,深成岩が28箇所,変成岩が32箇所であり,火山岩分布域での崩壊がやや多かった.今回の豪雨災害に関して,複数の機関による現地調査がなされているが,多くは変成岩地域である久留米市田主丸町の崩壊や,深成岩地域である唐津市浜玉町での崩壊が主である(例えば,清水ほか,2023).そのため,実態が把握できていない日田市北部の新第三紀火山岩地域での現地調査を実施した.日田市北部には,中新世末期の火山岩である山国累層が分布しており(英彦山団研グループ,1984),この地域における斜面崩壊25箇所のうち,24箇所が山国累層の分布域で発生していた.山国累層は4.1~3.7 Maに熱水変質作用を受けており(関根ほか,1995),XRD分析の結果,モンモリロナイトや緑泥石などの粘土鉱物が認められた.モンモリロナイトは,一般に降雨による斜面崩壊の素因になりやすいといわれる膨潤性粘土鉱物の一種である(白水,1988).また,緑泥石の存在は,母岩が熱水変質を受けて脆く風化したことを示している.
斜面崩壊地の植生に関する考察では,九州北部全体でスギ・ヒノキ・サワラ植林分布域での崩壊が多く認められた.この植生における100 km2あたり崩壊発生数は,他の植生分布域の1.7~6.9倍であった.また,福岡県南東部および大分県日田市の斜面崩壊55箇所においては,56~80年生のスギの造林地で多数の崩壊が発生しており,比較的高齢の壮年林(56~60年生)~老年林(61年生以上)での崩壊が多く認められた.日田市周辺域は林業が盛んな地域であり,造林地が広く分布している.伐採跡地の現地調査では,表土層の露出による表層崩壊や,伐採に伴って開設された作業路の崩落が複数箇所で認められた.このような形態の斜面崩壊は,人為的な要因が崩壊発生に影響を与えている可能性がある.以上のような降雨および地形,地質,植生の状況が,今回の豪雨災害における斜面崩壊の要因となったと考えられる.
引用文献
福岡管区気象台,2023,災害時気象資料・現地災害調査報告(九州・山口),63p.英彦山団研グループ,1984,地質学論集,24,59-76.清水ほか,2023,砂防学会誌,76,33-43.白水晴雄,1988,粘土鉱物学-粘土科学の基礎-,朝倉書店.関根ほか,1995,資源地質,45,295-302.
また,これらの斜面崩壊の素因として,崩壊発生地の地形,地質および植生の状況を検討した.斜面崩壊は傾斜30°以上の急斜面で多数発生しており,崩壊斜面の傾斜方位は特定方向への偏りは認められなかった.さらに,表層崩壊と深層崩壊の規模を比較したところ,表層崩壊は深層崩壊より面積や斜面長が小さい傾向にあり,斜面長に対して崩壊幅が広いという特徴もみられた.崩壊斜面の平面形態は,尾根型斜面と谷型斜面で同程度の発生頻度であったが,面積の広い深層崩壊は谷型斜面で発生している傾向があった.
崩壊が発生した地域の主な地質は,火山岩が40箇所,深成岩が28箇所,変成岩が32箇所であり,火山岩分布域での崩壊がやや多かった.今回の豪雨災害に関して,複数の機関による現地調査がなされているが,多くは変成岩地域である久留米市田主丸町の崩壊や,深成岩地域である唐津市浜玉町での崩壊が主である(例えば,清水ほか,2023).そのため,実態が把握できていない日田市北部の新第三紀火山岩地域での現地調査を実施した.日田市北部には,中新世末期の火山岩である山国累層が分布しており(英彦山団研グループ,1984),この地域における斜面崩壊25箇所のうち,24箇所が山国累層の分布域で発生していた.山国累層は4.1~3.7 Maに熱水変質作用を受けており(関根ほか,1995),XRD分析の結果,モンモリロナイトや緑泥石などの粘土鉱物が認められた.モンモリロナイトは,一般に降雨による斜面崩壊の素因になりやすいといわれる膨潤性粘土鉱物の一種である(白水,1988).また,緑泥石の存在は,母岩が熱水変質を受けて脆く風化したことを示している.
斜面崩壊地の植生に関する考察では,九州北部全体でスギ・ヒノキ・サワラ植林分布域での崩壊が多く認められた.この植生における100 km2あたり崩壊発生数は,他の植生分布域の1.7~6.9倍であった.また,福岡県南東部および大分県日田市の斜面崩壊55箇所においては,56~80年生のスギの造林地で多数の崩壊が発生しており,比較的高齢の壮年林(56~60年生)~老年林(61年生以上)での崩壊が多く認められた.日田市周辺域は林業が盛んな地域であり,造林地が広く分布している.伐採跡地の現地調査では,表土層の露出による表層崩壊や,伐採に伴って開設された作業路の崩落が複数箇所で認められた.このような形態の斜面崩壊は,人為的な要因が崩壊発生に影響を与えている可能性がある.以上のような降雨および地形,地質,植生の状況が,今回の豪雨災害における斜面崩壊の要因となったと考えられる.
引用文献
福岡管区気象台,2023,災害時気象資料・現地災害調査報告(九州・山口),63p.英彦山団研グループ,1984,地質学論集,24,59-76.清水ほか,2023,砂防学会誌,76,33-43.白水晴雄,1988,粘土鉱物学-粘土科学の基礎-,朝倉書店.関根ほか,1995,資源地質,45,295-302.
